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五月雨登校3人組

「今日は学校行く?」と私。
「給食だけ行く」と小2の弟。
「今日はいかない、お母さんの予定は?」と小6のお兄ちゃんが聞く。

最近の我が家は、毎朝こんな会話をする。
私はシングルマザーで小学生2人の子供を育てている。

子供は不登校ぎみで、ぽつぽつと気がむいた時に学校に行く。
そういうのを五月雨登校と言うそうだ。

私はフリーランスで仕事をしている。忙しさはぼちぼちなので、子供の予定に合わせて学校の送り迎えができる。

昨年の3月までは勤めていた。しかし、会社が傾いて給与未払いになったので仕事をやめた。ちょうど不登校に対応するのにも悩んでいたのでよい機会になった。

…のは建前で、出産、離婚、調停などがあった数年分の疲れがたまってもう仕事自体をしたくない気分だったのだ。

ここ数年「人生の休みがほしい。いっそ入院でもしないかな」と、罰当たりなことを思っていた。数年単位で自分の人生を休むタイミングを待っていた。

世間様には、「会社のせいで辞めました」と、「子供が不登校ですので働き方を見直したいです」の2枚の防御力強めのカードを見せて、私はゆっくり休むことにした。

とは言っても、実際には完全に休みではない。失業給付を受け就活するという宿題ありの休みだ。

だけど私は、給付をもらうのも人生3回目。転職活動も数回目。
要領は分かっているので、余裕がある。履歴書もポートフォリオも、応募書類も書くのは苦じゃなかった。

やることをやれば、あとは自由時間。
「ああ、今は人生の夏休みなんだな」と思った。

この時間が続けばいいのに。
月に数回、履歴書書いて応募するだけの仕事ないかな。と妄想する。

そしていつの間にか、子供が学校に行くとか、行かないとかに向き合う時の、焦りの気持ちがなくなっていた。

結局、私の時間がないというリソース不足が解消されれば、「不登校でも対応できますよ」と言えるからだ。

だが、あまり悠長なことをいってられない。失業給付があるという前提の中の生活なので期限付きだ。それがすぎれば、社会にもどり時間のリソースが失われる。

なんとか数か月の内に、子供を癒しまくり、元気になってもらい、登校してほしい。
そんな野望を持っていた。

折しも、人生の夏休み中、ちょうど子供達も夏休みだった。
子供も私も、社会からの圧力から解放されて、休みを謳歌した。
ベランダでピクニックしたり、近所の川で魚を取ったり、米粉パンを一緒につくったり、昼まで寝て、アニメを見てゲームを沢山した。

お金はあまり使えないけれど、たっぷりの時間と、なんにせよ一番は、心の余裕があった。これがあればなんでも、幸せな時間になった。

思えば、ずっと走りつづけていた、子供も私も。
ああ、一息。

数か月して、給付が切れる前に、期間限定だがお仕事も決まった。
子供の夏休みも終わり、学校へ週に3回ほど行くようになった。
まだまだ、気がぬけないがどうにかなるだろう。

「ご褒美期間も終わったな。」じんわりと温かさを持って、私の人生の夏休みは体に浸み込んでいった。

正直、社会に戻るために心を切り替えるのが辛かった。「もっと休みたい。」数年分の苦労でエネルギー切れになっていた私は、まだ休み足りなかった。
「でも、やるしかないな。少し充電できたと思うし、また頑張ろう」そう奮起した。

しかし、気持ちを切り替えて挑んだ仕事先で、パワハラに会い仕事はとん挫した。

私の気持ちは、くにゃっと曲がってしまった。

もう無理。

本当に。
社会はなんて非情なんだろう。

「収入どうしよう。」と心配がよぎるが、体が動かない。
就活しないととPCを立ち上げても、違うサイトばかり見てしまう。

ふと、「もう、このままでもよくない?」と思った。

今生活できてるし。お金がなくても、ギリギリまで休んでみよう。

うっすらとフリーランスになる道も模索していた、予定では数年後と見ていたが。

だけど、もうフリーランスとして今は生きればよくない?

心が回復するまで、休み続行だ。

仕事は、月にぽつりぽつりしかないので、社会という学校に五月雨登校しているようだ。

休んで、まだ現実と立ち向かって、まだ休んで…。
他の人より休みは多いかもだけど、今はそれがベターなのだと思う。

それとも今までが異常で、こんな風に休みながら、もっと楽に生きれるのかもしれない。

最近の私は「頑張るべきな自分」と「ゆるく生きれるよ」という自分が押し問答しながら同居している。

そんな2人を心に住まわせながら、もう少し今の時間を楽しんでもいいんじゃないかと思った。

もう3学期。人生の夏休みの長さは、自分で決めれる。

雪が降っている季節になっても、五月雨登校の3人は、今日も朝に予定を確認しあう。















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花岡燕
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