書評『赤と青のガウン』彬子女王
📕『赤と青のガウン』彬子女王
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喫茶店で本を開き、そのまま本の世界に没頭。
ふと気づいたら3時間 経過。
読み終えると、まるで(不謹慎だが)著者と昔からの友人のような気分に。
―そういう本に時々出会うが、本書もそんな素晴らしい1冊だった。
本書は、女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下による、オクスフォード大学院留学記である。
皇族として、生まれた時から侍女や護衛に囲まれ、恵まれた環境で育った彬子様。
しかし本書を読んで思うのは、彼女が決して、与えられた地位や環境に「乗っからず」、
謙虚に誠実に、周りの人たちを大切にし、努力を積み重ねて人生を築いてきたということ。
世界一の名門オクスフォード大学の博士課程での論文の執筆は、自分との過酷な戦いだろう。
指導教官の、愛があるからこそ厳しい助言と向き合い、執筆活動に励む中で、月に一度の胃腸炎を起こし、
文字通り、身と魂を削るような苦労の中で研究を続けながら、彼女は立派な論文を書き上げる。
この留学記の楽しいエピソードもまた、数え始めたらキリがない。
🔴生まれて初めて自炊したのはイギリスだった
🔴護衛の人が、英語ができなくて迷子になり、なんと彬子さまが探すハメに!
🔴旅行中なぜか、車庫に向かって爆走する電車に取り残される
🔴格安航空機に乗る時、皇室の外交官用パスポートを空港の職員に怪しまれ、
しかたないので「私、日本のプリンセスなんです…」と正直に言ってみる彬子様
🔴しかも、予定と別の空港に着いてしまう!
🔴エリザベス女王とのお茶会に招待される
今思い出すだけでも、こんなにたくさん、珠玉のエピソードが詰まっている。
自らの状況を客観視し、ユーモラスに語る彬子様。
温かくチャーミングなお人柄があふれている。
彬子様の研究テーマ「19~20世紀のイギリスで、日本の美術がどのように受け入れられたか」
も非常に興味深いし、
お父様の寛仁親王や、今の天皇陛下の徳仁様もオクスフォード大学に留学されていて、
彼らの思い出話も楽しい。(特に天皇陛下は本当に優秀な学生だと、オクスフォード教授たちの間で評判らしい。)
普通の親子のように、時には喧嘩をしながらも、
彬子様を全身全霊で応援してくれたお父さまのエピソードには、最後には泣かされた。
彬子様が立ち上げられたクラウドファンディング
「能登半島地震復興祈念 「漆能」プロジェクト 漆芸文化の記憶と技を次世代に伝えるために」
にも、先ほど、ささやかながら支援をさせていただいた。
皇室の方がこのような活動を率先してなさるのは、異例のことだという。
https://congrant.com/project/urushino/11928
“noblesse oblige”
本を読んで、とにかく、この一言を喚起させられる。
自分自身も背筋がすくっと伸びるような一冊だった。