エッセイ*パンケーキが増えた
失恋をした。
7回もデートしたのに、連絡が取れなくなった。
8回目のデートは3回ドタキャンされて、
挙げ句の果てに、
「女の子を紹介して欲しい」と頼まれた。
静かにLINEをブロックして、私は記憶の中で3番目に美味しかったパンケーキ屋へ向かった。
土砂降りの日で大荷物、身体も心もボロボロの状態で一人店内へ入る。
革張りのレトロなソファ。
リコッタチーズパンケーキを一つください。
注文してから焼き上がりまで30分程かかるので、残っていた仕事を片付けた。
今にも泣き出しそうなのを堪えていると、
ようやくパンケーキが提供された。
まんまるのシンプルなパンケーキに粉砂糖が振るわれ、真ん中に溶けかけのバターがいらっしゃる。
写真をパシャリと撮った。
SNSに「自分で自分を幸せにする!」と、なんともダサい一言を添えて投稿した。
冷めないうちにバターを広げて、ありえない量のメープルシロップをかける。
口いっぱいに甘じょっぱい風味が広がる。
バターの塩気か、はたまた私の涙か。
味はあんまり覚えていない。
自分で自分を奮い立たせたという事実が大切だけど、こういうときに食べる美味しいものの味は、半分も記憶に残らない。
先日同じパンケーキ屋を再び訪れた。
「ここのはおいしいよ」と言う。
「プリンも食べたいな」と彼が言う。
言葉通り彼はプリンとパンケーキを頼んだ。
私は期間限定のブルーベリーのパンケーキを選んだ。
テーブルに並ぶ2枚のパンケーキ。
今回はSNSにはアップしなかった。
他愛もない会話をいつも通りしてただけだけど、この時のパンケーキの味を、私はずっと忘れないと思う。
*あとがき
この話に出てくるパンケーキ屋さんは、Oslo coffeeさんです。
リコッタチーズパンケーキは絶品ですし、コーヒーにもこだわるお店で、チェーン店なのでぜひ行ってみてほしいです。
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