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夏日記特別編『ゴムゴムの女』第三話 再会

ホラーコメディである『彼女はジャンヌ・クーロン、伯爵家の降霊術師』の執筆にあたり、自身が体験した怖い話を整理していたので、この夏供養することにする。夏日記特別編として、全五話連載予定。今回は第三話の更新である。
第一話
第二話

※記事に使用しているコミカライズ版ジャンヌ・クーロンの画像ですが、担当さんより使用許可をいただいております。


ゴムゴムの女って結局…幽霊?親戚?いったい何?


***

地鎮祭が行われた。
私は、どうかこの儀式を行う人が、いんちきではありませんようにと祈っていた。
あのゴムゴムの女がどさくさにまぎれていなくなってくれるなら、こういった儀式の際にほかならないと思っていたのだ。

別の場所に引っ越したいと言っていた母の希望は叶わなかった。いくつも物件を見に行ったが、結局この親類縁者だらけの土地に落ち着くことになったのだ。

新しい家には、私の個室があった。学習机も、本棚も、すてきなものを買ってもらえた。柱にキノコも生えず、かびた畳はなくなった。これで友人を家に呼べるようになった。

仏壇は真新しい和室におさまり、すだれが取り付けられたので、以前のような圧迫感はなくなっていた。

自室はあったが、私はリビングにある大きなソファに寝そべり、ローテーブルにお菓子を置いて、だらだらと読書をするのが楽しみだった。
十歳シリーズの主人公ほどキラキラしていないかもしれないが、以前の生活に比べたら、格段に暮らしやすくなった。
しばらくは新生活に夢中だった。

ある日の昼下がりだった。
学校が休みの日だったのだと思う。
私はあいかわらずうたたねをして、はっと目を覚ました。
枕にしていた自分の腕。その先が、ぼんやりと見えた。

私は二の腕こそ太いが、手首から先は骨が小さいのか細長いつくりをしている。太ることもあったが、そこだけは不思議と肉がつかず、形が変わらなかった。

ここ数年はごはんがおいしくて体格がよくなってきたため、十二歳の私の背丈は、ほとんど母と変わらなくなっていた。
自分の手が、知らない女の手に見えた。

私はおびえて、ひっくり返りそうになった。自分の胴体に、見知らぬ女の腕がくっついている気がしたのだ。

「前から、私こんな手だっけ」

キッチンで洗い物をしていた母にたずねた。

「そうよ。なに言ってんのあんた」

しごくまっとうな答えだ。私はまじまじと自分の手を見つめた。
そして、ゴムゴムの女のことを、思い出したのである。


自分だけが変なものが見える…ジャンヌもそういった状況であり、彼女だけが姉に取り憑く生き霊が見えていた。

嵐の夜だった。
私はベッドで眠っていた。
ベッド! 憧れのベッドだ。仏壇のない部屋で眠れるだけでもありがたかった。
うなるような風が吹き、すさまじい雨が窓を叩きつけている。

ビタン。
ビタン、ビタン。
ビタン。

窓を叩くような音がして、私はふっと目を覚ました。
カーテンはぴったりとしまっている。
私の部屋は二階だ。それなりの高さがある。誰かが窓を叩くなんて、できっこない。
しかし、音は鳴り止まない。


ビタン、ビタン、ビタンビタンビタンビタン
ビタンビタンビタンビタンビタン
ビタッ! ダンッ!


誰かが閉じ込められていて、助けを求めるような叩き方だった。
私はベッドに座り込み、カーテンの閉じられた窓をただ見ていた。
音はなりやまない。このまま知らぬ振りをして、ベッドにもぐりこむこともできる。

そうするべきだし、そうした方がいい。

でも私は、そうしなかった。
勢いよくカーテンをあけた。




――なにもない。
雨が叩きつけているだけだ。
当たり前じゃないか。きっと悪い想像のしすぎだ。


ビタンッ



そう思ったときに、白い手が窓に張りついたのである。
私はベッドの上に尻餅をついた。手はまた伸びる。


ビタン!ビタン!

いくつもの手が窓に張りついてる。みんな同じ形の、白くて、細長い手。

ゴムゴムの女だ。