夏日記特別編『ゴムゴムの女』第四話 似ている女
ホラーコメディである『彼女はジャンヌ・クーロン、伯爵家の降霊術師』の執筆にあたり、自身が体験した怖い話を整理していたので、この夏供養することにする。夏日記特別編として、全五話連載予定。今回は第四話の更新である。
第一話
第二話
第三話
※記事に使用しているコミカライズ版ジャンヌ・クーロンの画像ですが、担当さんより使用許可をいただいております。
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ビタン!ビタン!
いくつもの手が窓に張りついてる。みんな同じ形の、白くて、細長い手。
ゴムゴムの女だ。
私は勢いよくカーテンを閉めた。心臓がどきどきと早鐘を打っている。
布団をかぶって、なにが起きたのかを考えようとした。
たぶん、夢なんだと思う。
どこからが夢なのかわからないけど――。
あの手は、地面から伸びてきたのだろうか。わからない。たしかめたいが、さすがに怖くてできない。
幼い私は思った。
地鎮祭をしていた神主はとんだいんちき野郎である。
そして、あのゴムゴムの女の手は、私の手にそっくりだ。
ゴムゴムの女と私は、たぶん、血が繋がっている。
新しい家は、廊下とリビングの間に大きなガラス窓をはめた扉をひとつはさんでいる。
その扉の前は、いつも暗い影が差し込んでいるように見えた。
「あんた、さっきそこに立ってなかった?」
と母によく言われるようになった。
「そんなわけないじゃん。今学校から帰ってきたのに」
「やだ、あんたそこにいると思って、話しかけちゃったのよ」
しかし、母だけでなく父も、私に言うのであった。
「つばきちゃん、そこに立ってなかった?」
リビングに入る扉の前で、若い女がたたずんでいるように見える。
しかも両親のどちらともが、私と間違えるのである。
この家に若い女が私しかいないせいだと思うが、やはり気味が悪かった。
リビングで本を読んで、ふと顔を上げると、扉の前に誰かがいる気がする。
たまにだが、そんないやな予感がするときがあった。
大抵は気のせいなのだが、白い影が視界に入ったような気がするときもあった。
私はもとより図太く、細かいことは気にしないたちである。
女が立っているように見える、だからどうした。
別にかみつくわけでもあるまい。放っておこう。
あの夜のように、眠りが妨げられるほど窓を叩かれるというなら話は別だが――あの日はもともと嵐だったのだし――今より子どもだったのだから、夢を見たのだろう。
蚊のほうが厄介だし、ゴキブリの方が始末に困るというものである。
十六歳になった私はそう思っていた。
その日は寝苦しかった。
真夏の夜で、冷房をかければ寒すぎるし、切ったら切ったで蒸し暑いしで、どうしようもない熱帯夜であったと思う。
私は何度も寝返りを打った。
幾度目かの寝返りで、体が動かなくなった。
誰かが背中にいる。ぴったりと寄り添っている――と思った。
私の腕に、誰かの手が伸びる。
白くてぬるりとした、あの手だ。
ゴムゴムの女だ。
私はなんとか金縛りから脱しようとしていた。
学校では、霊は下世話な話が苦手なので金縛りになったらエロい妄想をするといいとか、妄想をすればそれがリアルに体験できるので、いっそ金縛りを利用してイケメンに囲まれるイメージをするといいよ、なんて話で盛り上がったことがあった。
なにか想像しなくては。ゴムゴムの女を追い払うために。
しかし、あちらのほうが早かった。ゴムゴムの女は、私の耳元でささやいたのである。
「殺してやる」