メトロ車内で12/1真夜中ごろ、痴漢被害にあったかもしれない話。
性被害に関する具体的な描写を含むのでお気を付けください。
それが痴漢だと私は明言することができない。なぜわからないかというと、私はその感触が何だったのか確かめる前に反射的に右側に3歩ほどざざざっとで移動したからだ。手のような柔らかい感触の何かが、自分の左側のももからおしりを撫で、そして自分の左側には40代後半ぐらいのスーツ姿の人が立っていたというだけだ。私は恐怖と動揺から、離れた後に相手の顔を見ることもできなかった。見てしまったら、今起きたことが現実だと確定してしまううのではないかという不安を抱いた。以前被害に遭った際に、顔を見てにらんだ後に被害がエスカレートしたため、アイコンタクトを直感的に避けたのかもしれない。
もしかしたらあれは手ではない何かだったのかもしれない。ただ、手の感触と他の物の感触は大きく異なるし、撫でられる感触も特異なため、ある程度自分の直感に自信は持っている。とはいえ確信は持てなかったし証拠があるわけでもないので「触りましたか」と対峙することなく、目的地で降りた。メトロには報告した。
撫でられたかもしれないと思ったのは初めてだが、痴漢かもしれない経験をするのは今回が初めてではない。夏には、夜の人がまばらな山手線で似たような経験をした。その時私は席に座っており、隣に若い男性らしき人間が座っていた。その人は酔っていたようで、途中から頭を私の肩に乗せてきた。私の太平洋より広い心で放っておいていたら、彼の手が非常に不自然な形で彼の太ももと私の太ももの間に落ちてきて、私の太ももの方に伸びた。この時も私は反射的に席を立ち、その場を離れた。
2つの事案に共通するのは、私はそれが痴漢だったのか確定する前にその場を離れたということだ。体験したことがある人はわかるかもしれないが、そのような違和感を感知した時、独特の恐怖感が全身を一瞬で支配する。その直感自体は鮮明なものだと思う。ただ、直感で人間は逮捕できないし、自分の人生でやらなければいけないことが様々ある中で、真実を追求するのは大変だ。他の様々な理由が重なり、結果として大多数の事件が通報されない。通報されないということはデータベース化されず、痴漢被害が矮小化される。
今回この体験を公表しようと思ったのは、通報数が増えにくい理由として、痴漢の初期段階で逃げる人も一定数いるからでは?と考えさせられたからだ。痴漢だということが確実にならなければ声をあげることは難しい。ただ、それは確かになるまでその場にとどまり続けたり、明らかなほどの被害を受けたりするということであり、それを反射的にでも意識的にでも避けたり、悪化しないように行動したりするのはごく当たり前の反応のように思う。
なお、未遂・初期でも十分怖い。めちゃくちゃ怖い。心拍数がやばいくらいあがる。自分の体の領域を侵害されるということはとても恐ろしい。何度起きてもなれることはない、嫌悪感と恐怖がある。
帰りに私は友人に電話しているふりをして自分の心情を吐露した。ちなみに、電話をしているふりは、夜道を歩く際に自衛としてやっている人も一定数いると思う。つくづくクソな世の中である。自分の声が震えていることに気づき、それにもショックを受けた。性暴力に反対するシンポジウムでスピーチをしているような人間でも、こんなに怖いと思うのかと驚いた。そして、とてもハッピーな1日が一瞬で恐怖感に上書きされたことが悲しく、悔しかった。
なぜ自分は全く悪くないのに尊厳を蹂躙されなければならないのか。
なぜその傷を負わなければならないのか。
こんなクソだけど日常的に起きていることをどうしたらこの世の中からなくすことができるのだろうか。
私の体は私のものであり、侵害されていい理由はひとつもない。
私の体は私のものであり、誰がこの体に触っていいのか決めるのは私である。
私の体は私のものであり、あなたの体はあなたのものである。
とりあえずお風呂に入ろうと思う。撫でられた感触が残る部分が気持ち悪い。
この文章を読んだ人が、少しでも自分自身や周りの人の体験を信じ、他者の体験に対して豊かな想像力と愛を持ってこの世の中を良くするために行動することを望む。