緊急避妊薬の避妊効果にまつわる誤解
まず最初にクイズをしたい。
緊急避妊薬を性交後72時間以内に服用した場合、妊娠にいたる確率は約何パーセントか。
A. 1
B. 10
答えはAなのだが、Bだと誤解しているような報道や発言が散見される。緊急避妊薬を性交後72時間以内に服用した100人のうち、1人が妊娠にいたると考えるのと、10人が妊娠にいたると考えるのでは、緊急避妊薬の避妊効果の印象は大きく異なるだろう。なぜそのような誤解が生まれてしまったのか、考察してみた。以下、2021年に「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」が発表した「緊急避妊薬ファクトチェック」のp.19を特に参考にした。
私の仮説は、10%という誤解は、「妊娠阻止率」と「妊娠率」の混同からきている、というものだ。「ノルレボ錠0.75mg」という緊急避妊薬を販売するあすか製薬は、妊娠阻止率は約91%と報告しており、この反対として「妊娠率」を捉えてしまうと、「妊娠率」はだいたい10%ぐらいと読めるからだ。
しかし、正しい定義に基づく「妊娠率」と、「1-妊娠阻止率」というのは全く別の指標だ。(なお、より大規模な研究では妊娠阻止率は約85%と計算されている。)
まず、妊娠率は、臨床結果をもとに以下の式で算出される。
妊娠率 = 妊娠成立が確認された症例数/内服症例数
(臨床実験として解析する有効性が認められた症例に限る)
つまり、妊娠率とは、「緊急避妊薬を服用した場合に妊娠が成立する確率」だ。上記のあすか製薬の報告では、有効性解析対象症例数は570、そのうち、妊娠成立が確認された症例数は4となっている。よって割合は約0.7%となる。緊急避妊薬を性交後72時間以内に100人が服用した場合、妊娠に至るのは1人未満という解釈ができる。
一方で、妊娠阻止率は以下のように求める。
妊娠阻止率 = 1- (妊娠成立が確認された症例数/内服していなければ起こったであろう推定予測妊娠数)
(臨床実験として解析する有効性が認められた症例に限る)
この推定予測妊娠数は、内服した人の性交日と予測排卵日から妊娠確率を求めることで算出できる。同じ症例を用いたあすか製薬の報告では、推定予測妊娠数は 43.7とされている。1-(4/43.7)で妊娠阻止率は約91%となる。解釈としては、「緊急避妊薬を内服していなければ成立していた100の妊娠のうち、91の妊娠が緊急避妊薬の内服によって成立しなかった」ということになる。
約10%というのは、「内服した人のうち、妊娠にいたった人の割合」ではなく、「内服しなければ妊娠に至っただろうが実際には内服した人たちのうち、妊娠にいたった人の割合」に近い。内服した人たちの妊娠確率にはばらつきがあり、妊娠確率が低い人も多いため、「1-妊娠阻止率」は「妊娠率」よりかなり高くなる。
緊急避妊薬は避妊効果が非常に高く、OTC化がされれば、より多くの人がこのメリットを享受できるようになる。緊急避妊薬の効果に関する誤解を解き、より多くの人が必要とする時に服用できるよう、議論を進めていくべきではないだろうか。
参考
緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト. 「緊急避妊薬ファクトチェック」. 2021年9月. Factcheck202109.pdf (kinkyuhinin.jp)