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【小説】 変える、変われる。 : 14

どれ位ぶりかわからない程、楽しみを見つけられそうだったけど、寸でのところで邪魔された気分だった。

週末にパンフレットを見ながら、どっちの教室へ行こうかなぁなんて自分的に有意義に過ごすつもりだったけど、いつもの特に何もない土日で終わる感じがする。

気晴らしにドライブでも行こうと思い始めていると、スマホが鳴った。

着信の表示はおねえちゃんだ。

「もしもし」

「もしもし、あたし。明日、ちょっと頼みたいことがあるんだけど、昼過ぎに来て貰えない?」

「明日は出掛けようと思っているんだけど」

「確定の用事じゃないんだったら、頼まれてよ。か弱い女二人じゃ、とてもとても出来ないの。お願いね! 昼過ぎね、宜しくー!」

「あ・・」

こちらの承諾もお断りも聞く耳無しで電話は切れた。

・・土曜日は豪傑女二人の尻に敷かれる日、日曜にドライブへ行って書道教室と頼まれごとの憂さを晴らすとしよう。

とんでもなく遠くへ行かないと晴れないだろうけど、まあ気分転換にはなるかな。


「こんにちは」アパートの2階へ顔を出した。

「あ、ゆきちゃん、ごめんなさいね、お休みに。愛が無理言って」

「別に予定は無かったから良いですよ。用事って何ですか?」

「あの子、用件も言わなかったの? まったくもう。」

ピンポーン、チャイムが鳴った。

「宅配便です、お届け物です。」

「あ、ちょうど良かったわ!」

何やら重そうな荷物が4つも届けられた、そして、頼んで来た愛の無い「愛」おねえちゃんがいない・・。

若干イヤな予感がし始めたけれど、来てしまったから用件が済むまで帰れない。

「あの子、必要な物があるって買い物に行っちゃったのよ。それでお願い事は、この本棚を組立ててもらって、古いのを下まで降ろして欲しいの。粗大ごみの依頼はしてあるんだけど、重くて降ろせなくて。」

おばちゃんが無理なのはわかる。

しかし、おねえちゃんの「やる気」さえあれば、楽勝で降ろせるはず。なんだったら、2階から放り投げそうなタイプだし。

そして組立だって時間はかかるだろうけど、やれるはず。必要な買い物とやらの内容によっては怒っても良い気がしてきた。

おねえちゃんの帰って来る気配が無く、おばちゃんが「あの子は本当に・・・」とフツフツと怒り始めてしまったので、とりあえず粗大ゴミシールの貼ってある古い本棚をゴミ捨て場へ運んだ、大して重くないしラクだった。

続いて宅配便で来た組立本棚を開梱して、部材が揃っているか確認して組立を開始した。

説明書を読んだ感じだと、難しくは無さそうだ。

少し長い棚板をおばちゃんに支えて貰ったりしながら、コツコツと組立始めて約1時間ちょっと、ようやく1台組み上がった。

「あー、やっぱりゆきちゃんに頼んで正解だわ!キレイに出来てるし、しっかりしてる! 良い本棚だわ!」

心の中で「説明書を見れば出来ますよ」と思いながら、2台目に着手。

2台目もほぼ出来上がりそうな辺りで、テーブルに賞状やトロフィーが何枚も何個もあるのに気が付いた。

「あれ、何ですか?」

「ヤクルトと学研の売上トップの賞状とトロフィーよ。昔獲った思い出の品々ね。あの頃は必死だったし、売上が良いとボーナスみたいのも貰えたから、燃えたよね」

「みんなヤクルトとかミルミル飲みながら、学研の科学読んでましたからね」

「通りすがりの人にも声掛けたり掛けられたりで、あの時は売った、売った! 漲っていたもの!」

後々、色々なことにも漲っていたらしいウワサを耳にしたけど、それはあえて聞かないことにした。

あえて聞かないつもりだった、おばちゃんの武勇伝が始まりそうな雰囲気になると、おねえちゃんが戻ってきた。

「下に古いのあったから、ゆきちゃんが来てるのかと思ったら、本棚、もう出来てんじゃん! はやー」

「あんたねー!!」

武勇伝を語るはずのエネルギーがおねえちゃんへの怒りにシフトした。

おばちゃんの組立の手伝いが無くなったのと、二人のああ言えばこう言うのバトルで2台目の仕上がりはやや遅れた。

「あんた、ゆきちゃんに頼むだけ頼んで手伝いもしないで、何しに行ってたの! お母さん、ゆきちゃんと一緒に組み立てて、クタクタよ!」

おばちゃんは長い側面の板を支える時と、ネジを渡してくれていただけだったのは黙っておこう。

「これこれ、これを買ったのよ。本棚が揺れて倒れて来たら怖いでしょ! 本棚の上にこの突っ張り棒して倒れないようにするのよ」

組立以外に新しいお仕事が発覚。

「そうね、揺れて倒れたら大変。大事だわ、大事!それは思いつかなかった!」

「そうでしょう、だから買って来たの!」

得意満面なおねえちゃんとクタクタのおばちゃんの「か弱い二人」は倒れた時の惨事について、イメージを熱く語りあい始めた。

古い本棚を運んだり、2台も本棚を組立てて、突っ張り棒をググっとするであろう自分を置き去りに。

怒る気力も無くなって、頼まれごとの時はいつもこんな流れだったと思い出した。

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