【小説】 変える、変われる。 : 93
少し道が混んでいて、19時30近くになってしまった。
いつもの場所に車を停めようと思ったけど、『いますぐ』の玄関は人が出たり入ったりしている。
目立つのはマズイと思ったので少し離れた場所に停めて、その旨を石黒さんにメールして待つことにした。
しばらくすると、バックミラーに石黒さんと望月さんが映った。
後部ドアを石黒さんが開けて、聞いて来た。
「望月さんも送って頂けますか?」
「もちろん!」
望月さんが先に乗って、後から石黒さんが乗って来た。
「ごめんね、せっかくのドライブデートを邪魔して。」
望月さんが笑いながら言った。
「いえいえ、あはは」
「駅と逆だから、マイちゃんとご飯食べて帰るって言わないとみんなにヘンに思われちゃうから。」
「あ、、そうでしたか。」
石黒さんの名前は「マイ」って言うんだ、いま初めて知ったことは黙っておこう。
多分、石黒さんも僕の下の名前は知らないはずだし、漢字を見ても読めないと思うし。
「せっかくなので、望月さんも一緒に夕飯食べませんか? お時間ありましたら。」
「あー、嬉しい! お腹めっちゃ空いてるんだよね。一緒にいいの?」
「もちろんです。何が良いですか?」
「ちゃちゃっと食べられるから、ファミレスあったらそこで食べよう。」
連日だけど悪くない。
バックミラーの石黒さんはニコニコしながら、望月さんと僕の会話を聞いていた。
駐車場の空いているファミレスを見つけて車を入れた。
混み合う時間ながら、うまいこと待たずにテーブルへ案内して貰えた。
「飲んでもいい?」
望月さんがビールを指差しつつ、片手で拝む感じで聞いてきた。
「あはは、どうぞ、どうぞ。気にしないでください。」
枝豆とフライドポテトと中ジョッキを望月さんが先行して注文。
石黒さんはまたまたハンバーグ、僕はオムライス。
「かわいいね。マイちゃんの方がガッツあるよね、あははは。」
中生を一口でグイっと1/3を一気飲みして、望月さんは調子が上がったみたい。
石黒さんも笑いながら聞いている。
「酔っぱらわない内に、ちょっとだけ話しておこうね。」
ふいに望月さんが真顔になって、ピリっとした雰囲気に変わった。
石黒さんの表情が曇った。
「うちの一番の取引先の常務の方が退任されたのね。その方は凄く良い方だったの。でも、その下の人間に見事な腰巾着がいて。上にはすこぶる調子が良くて下には酷い当たりだったり。下の取って来た仕事を根こそぎ自分の指示だった、なぁんて。」
「あぁ。。そういう方いますよね。」
「その腰巾着がうちに地雷を投げてよこしたの。2年位前に。それが例の二人。」
「あ・・・」
「そのおかげで他の会社と違って仕事上の無理強いはされなかったんだけど、人的被害がね。。。」
「・・・・」
石黒さんがどんどん俯いて、ほぼ真下を向く勢いだ。
「でも、取引先で昨日何かあったみたいで、うちに問い合わせもあって。まだ詳しく話せないけど、明日、うちでも何かあると思う。」
望月さんが残っていたビールをグググっと一気に飲み干した。
早押しのように思わず呼び出しボタンを押して、ビールの追加を頼んだ。
「あ、ありがとう! 気を使わせちゃうね。」
いつも落ち着いた感じの望月さんが、少し強い口調で話しているってことは何か動くんだろうと思った。
料理が運ばれて来くると、望月さんが隣に座っている俯いたままの石黒さんの肩をポンポンっと叩いて「来たよ~」と話し掛けた。
「明日、御社に何があるんですか?」
望月さんが追加のビールを一口飲んで真顔で答えた。
「2年間の集大成。」