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あの店はもう無いけれど。
秋葉原で働いていた時に、足繁く通った居酒屋さんがありました。
秋葉原がパソコンや家電の街から、メイドやアニメの街に変わっていく過渡期の頃です。
駅が改装されたり、オシャレなビルがバンバン建つ中、とあるビルの地下のオタクよりもオヤジが集う渋い居酒屋さんでした。
ご家族で営業されていて、当時の会社の同僚に連れて行って貰ってからのお付き合い。
メニューも渋くて、馬刺しなんかは脂が濃厚過ぎてギトギトを超えて、涙目になる人間が続出。
これを食べることが仲間内のこのお店に通う登竜門だったような気がします。
足繁く通う内に気が付けば、週3回以上は飲みに行くほど楽しい場所となりました。
「きょう、行く人~!」と社内で声を掛けると、パラパラっと手が上がり終わった人間からお店に集合。
手を上げていなくても、聞きつけた人間が飛び入り参加もOK。
まとまった人数となった時は、いつの間にか自分がお店に時間と人数の予約を入れる担当になっていました。
お店のマスターにはなぜか自分の諸々の素性が耳に入っていて、「社長っ!」と軽口を叩かれたり。
店に行くとほぼほぼ泥酔していたので、ひょっとしたら自分でご陽気に話していた可能性も否めないところではありますが・・・。
そんな楽しい場所も秋葉原の会社を辞めてからは、徐々に足が遠のきました。
年に数回から、1~2回になり、行けない年もあったり。
でも、秋葉原時代の仕事仲間が集うときは、必ずこの居酒屋さん。
自分が集合を掛けて、予約を入れるルーティンもいつもと同じ。
電話を掛けて予約を入れる時も、自分の苗字はありきたりなんですが、名乗ると「あ、TSNさんねっ! 毎度ありがとうございます!」といった感じで、客商売の鏡のようなマスター。
そんなお店でしたが、今年の4月頃にマスターから電話がかかってきました。
掛けることあっても、掛かってきたことはありません。
「お久しぶりです! 珍しいですね。」
陽気に電話に出て見たところ、何となく重い口調のマスター。
「いやぁ、実はね。。。」
マスターが重い口を開いて、ポツポツと話してくれました。
コロナの影響が2月から如実に出てきて、客足がかなり厳しくなって来たこと。なんとか頑張りたいけど、目途が立たないので5月下旬に店を閉めることを話してくれました。
ここ数年はかなり足が遠ざかっていたのに、「社長にはお世話になったから。。」と義理堅くお電話下さったのです。
「何て声を掛けたら良いのかわからない」と思ったことは初めてでした。
「閉めるまでに伺いたいのですが。。」と言った後に何を話したのか正直あまり覚えていません。
5月下旬が近付くにつれて、行きたいと思ってはいても、流れてくるニュースは外出自粛要請全盛。
電車に乗らなければ・・・
そう思って、お酒を飲まないで料理だけでもとの思いで、閉店だと伺っていた日に車で向かいました。
ビルの地下は降りるとフロアが真っ暗。
「え? 何で?」
ちょっと目を疑う位の暗い廊下の先に、いつもの居酒屋さんから弱々しい明りが漏れていました。
扉をちょっと開けて覗いてみると、マスターと息子さんがイスに座っていました。
お店は営業の片づけ後というよりは、「店自体を片付けた」といった状態に見えます。
「あの、、TSNです。。 こないだはお電話を・・・」
マスターに話しかけてみると、開口一番、
「ああ、もう、ごめんなさいね。。」
聞くと先週にお店は閉店させたとのこと。
もし店でコロナを出してしまったら、ビル全体が消毒やらなんやらで閉鎖となってしまうので、迷惑をかけられないから。
融資を受けたとしても、これからの見通しが立たないから、返済で迷惑を掛けてしまうかもしれないから、と。
マスターの人に迷惑をかけてまで営業出来ない、そんな気遣いの人柄をますます感じる話でした。
「すいませんでした、伺えなくて。」
「いえいえ、わざわざごめんなさいね。。」
いつも元気で声も張っていたマスターは疲れ切っている様子で、目が真っ赤でした。
「いつも楽しかったです。有難う御座いました。お疲れさまでした。。」
自分もちょっと涙ぐんでしまいそうだったので、これだけ言うのが精一杯でした。
先日も、取引先の方から伺いましたが、お世話になっていたとあるビジネスホテルがコロナによる営業不振で閉鎖となったこと。
知り合いで「コロナに罹患してしまった」という話は聞きませんが、それよりも経済危機というか、生活が立ちいかなくなることが身近となってしまっています。
いつ落ち着いた日常がやって来るのか、来ないのか。
見通しなんか誰にもわかりませんし、コロナ以前の日常はもう無いと思います。
それでも、リモートではなく、実際に会って集まって、また楽しく飲んだり話したり、気兼ねなく過ごせる時間が来て欲しいと思っています。
我慢するでもなく、そのことが「普通」となった時に、
「それでは、皆様。 カンパーーイ!!」
心底楽しめる飲み会を開きたいと思います。
本当はあの居酒屋さんでやりたかった。
でも、いつものメンバーが集まることが出来たら、きっと昔みたいに楽しく過ごせるはずだから。