【小説】 変える、変われる。 : 88
きょうも普通に僕の部屋でご飯を食べて、石黒さんのアパートの部屋まで送って行った。
「明日から会社を出る時は気を付けて下さい。二人の先に出るか、先を越されたらメールをください。二人がどうしたか返信します。」
「・・・うん。」
「もし誰かと玄関まで一緒に来られるようだったら、そうして下さい。そうしたらきっと側道にまた潜んでいても、さすがに声を掛けては来ないと思うから。」
「・・うん。」
あまり明日のことを考えたく無い様子で、ご飯を食べて部屋に着くまでとは雲泥の暗さだ。
「明日行けば休みだから。土曜日に何も用事が無いようだったら、どこか出掛けましょう! 行きたいところがあったら教えてください。」
息抜きは、今はかなり重要で大事だと思われる。
「うん!」
ここでようやく笑顔が見えた。
「また、明日。おやすみ。」
石黒さんの頬を撫でると、少しだけ赤くなっている目で頷いた。
玉ちゃんの言ってた「精神的に本当にギリ」、本当に僕が食い止められるのだろうか。。
・・いや、やらねばならぬ!
金曜日の昼には念のための変装グッズとして、黒いマスクを買って、キャップも用意した。
素早く装着出来るように地味な練習を重ねた。こういったことには余念が無い。
きょうも17時45分頃に到着出来た。
素早く装着出来るように、サングラスとマスクは助手席に。
キャップは予め被っておいたけど、ここにパーカーも被るとさすがに通り過ぎる人が怪しい目で見てくる気がするので、ストップ。
バックミラーでしばらく見ていると、18時きっかりにまた二人組が玄関から出て来た。
また側道へ入って行くのかと冷や冷やして見ていると、やや急いでいる様子で駅の方向へ向かって行った。
ホっと安心したけど確実に姿が見えなくなるまでチェックしつつ、その旨を石黒さんへメールした。
すぐに「了解!」と短く返信が入って来た。
返信から10分ほどで、望月さんと一緒に石黒さんが玄関から出て来た。
玄関前で望月さんと別れて石黒さんがこっちに向かって来た後ろで、望月さんが恐らく自分宛にブンブンと手を振ってくれている。
窓を少し開けて被っていた帽子を出してフリフリっとした。
それを見た石黒さんが後ろを振り向いて望月さんに手を振りながら車に乗って来た。
「お疲れさま。」
「はい・・、きょうもありがとう。。」
「ううん、大丈夫だったね、きょうは。」
「望月さんには少しだけ話をしました。ダメでしたか・・?」
「いえ、さっきの望月さんの感じだったら石黒さんも安心出来そうだし。」
「当分、一緒に駅まで行こうかって。」
「僕が来れない時は、そうして貰えたら助かります。」
「そうですね。。」
「出来るだけ来るようにしますけど。」
「でも、大変だから。。」
「当分は大変じゃないので、大丈夫。あはは。」
バックミラーに映る石黒さんは、昨日と違って落ち着いた雰囲気。
やっぱり明日会社に行かなくて良いってことが、気持ちに相当作用するんだと思った。
自分の部屋に帰って来て、また一緒にご飯を食べた。
「きょうは泊まります?」
「・・良いですか?」
「もちろん! 明日、どこか行きたいところはあります?」
「一緒にゆっくり出来れば出掛けなくても良いです。。」
「うーん、でも気分転換した方が良いから、近場にでもドライブに行きましょう。」
「うん!」
どこが良いかなぁとご飯を食べながら、色々と話をした。
渋く河口湖へ行ってほうとうを食べることにした。
きょうはすぐに眠れると良いのだけれど、だめなら石黒さんの本当の第一希望の「出掛けないでゆっくり」にしよう。
一番落ち着けることがやっぱり良いから、無理に出掛けなくてもね。