【短編小説】 霊感タオル その1
こう暑い日が続くと外出が辛いものだ。
日傘男子なんてステキなことも流行り始めているにはいるが、営業で外出となると通勤と違って日傘を差すことには、若干躊躇いがある。
拭いても拭いても汗は噴き出て、熱射病防止で給水しても、飲んだ途端に頭の毛穴からプワ~っと染み出てくる始末。
ハンカチなんかすぐにびしょびしょになるから、もはやタオルに頼るしかない。
どうにもならんなと、銀行のATMに並んでは涼み、3000円だけ下してみたり、スーパーで弁当を選ぶフリをしつつ、総菜コーナー横の精肉コーナーでキンキンの冷気を浴びてみたり。
そんな感じで得意先をひと巡りして帰社する頃には、とろける寸前だけど痩せる気配は無い。
営業報告書を書いている間に汗は引くが、今度はエアコンの冷気でシャツの汗が乾く間もなく冷えて底冷え。
身体の代謝がおかしくなって体調管理も何もありゃしない。
デスクの同じ島の中堅OLの田島は一日社内で事務仕事だから、カーディガン着用にひざ掛け、まさかのレッグウォーマー装着。
何だかなぁと思いつつ、帰ってキーンと冷えたビールを飲みたいがために、そんなに成果の無かった一日にちょいと脚色した書類を書いていっちょ上がり。
マンションの宅配ボックスに自分宛の荷物があったので、取り出して持ち帰る。
そして帰宅するや否や、バンバン脱いでシャワーを思いっきり浴びる。
髪から顔から身体から全部シーブリーズでガンガン洗って、シャワーの温かさとヒンヤリの行ったり来たりを「うっほほー」なんて雄たけびを発しながら楽しむ。
そして、キーーーンと冷えたビールを冷蔵庫から取り出して、軽く頬ずりしながらプシュっと、そして、グイっと一気に空ける。
「おっほー、ぐぷっ」
歓喜の声とゲップで一日頑張った“つもり”の自分に褒美を与えるのである。
「そういえば、荷物届いていたなぁ」と誰に言うでもなく、荷物を見てみる。
母親からの荷物で「品物:タオル・衣類」とある。
何でまたタオル?と訝しがりつつ、開封してみると速乾タイプのTシャツやトランクス、靴下と一緒に、タオルが1枚入っていた。
それと縦書き便箋1枚。
「着替えがそろそろ古くなる頃でしょう。古いものを処分してこれを使いなさい。タオルは冷感タオルです。頂いたけど、うちでは使わないのであげます。身体に気を付けて、ちゃんとしたご飯を食べなさいよ。たまには連絡寄越しなさい。」
自分で買うし・・・と思いつつ、とりあえず有難く頂戴することにした。
ひょっとしたら「使わないけど捨てられない。もったいないから」でタオル1枚だけ送りたかったけど、送料が悔しいからあれこれ詰めて来たのかも。謎の思いやりが感じられる。
冷感タオル、確か濡らして振り回すと冷え冷えとかいう、例のアレか?
説明書を見ると、まんま、それ。
いまは涼しい部屋だし、使う気にはならない。
明日、外回りの時にでも試してみるか。
まあ、期待薄だけど。
色も涼し気ならブルーのイメージだけど、妙に濃い目なパープル。
強めな色合いを好まない母だけに、まあ、使わないよな。