【小説】 変える、変われる。 : 71
寝ようとすればするほど、目が冴える状態にしかならない。
少し話でもしているうちに眠くなるかもしれない。
「お風呂、どうでした? ぬるく無かったですか?」
「ちょうど良かったです。お風呂、やっぱり気持ち良いですね。長湯してしまって、すいませんでした。。」
「寝るの待たせちゃったから、冷えちゃいましたね。」
「いえ、大丈夫です。。」
「・・・」
「・・・」
この状態で弾む話は無いなぁと思っているうちに、お隣から規則的な呼吸音が聞こえて来た。見える視界ではどうも眠っているらしい。眠れるんですか!と思ったら、こちらも眠くなって来た。小さく「お休みなさい」と言ってみたけど返事は無いまま、自分も眠りに落ちた。
腕が痺れる感じで目が覚めた。耳元でスースー聞こえるのはまだ眠っている様子。もう日差しが部屋に差し込んで来ているので、寝顔が見える。化粧でどうのこうのじゃなくて、基本的に整っているから、綺麗な顔立ちをしている。素顔は少しだけ幼く見えて寝顔が可愛いなと思った。
それはそれで、腕を抜きたい。右腕は血が止まっていて、凄い色をしている気がする。しかし腕を抜こうとすると石黒さんの頭が近づいて来てしまう。
これ以上動かしたらきっと起こしてしまうし、もうぼちぼち起きるはず。
午前中かな、何時なんだろうと思っていたら、石黒さんがもぞもぞと寝返りを打つ感じで動いたので、ここがチャンスとスっと腕を抜いた。
腕が腐ってしまったかと思うほどに痺れているところに、血が順調に通い出したせいか、物凄くピリピリし始めた。
寝返りをこっちに打って来た石黒さんが右腕に、がっちりと乗り上げて来た。期せずして「フォっ」と声が出てしまった。
ぼんやりした感じで目を開いた石黒さんの顔が物凄く近くて、これまた仰け反った。
「お早うございます。」
それとなく押し戻す感じで声を掛けてみた。
「おはようございま。。す。。。」
反射的に返事をしただけらしく、そのまま目を閉じて二度寝に入ってしまった。
普通に寝息を立て始めたのを見ていると、無防備だなぁと思った。
仰け反らなければ、顔の距離はもうそういう感じの距離感。息が掛かる。
無表情で感情が無い顔が怖かったのは、今も寝ているから無感情できっと同じ状態のはず。あんなに嫌で怖かった顔を可愛いと思えるようになるものだ。
顔に掛かっている髪をそっとかき上げて、そのまま軽く頭を撫でてみた。
石黒さんの口元が少しだけほころんだ気がする。
今までとは違った感覚がある。大正琴の楽しさを感じた時みたいに、石黒さんに対しても変わって来た。
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