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【小説】 変える、変われる。 : 42

ようやく休みの日曜日。

今週は所長のプレ復活、能面とプレデート疑惑と前夜祭みたいな一週間だった。

所長の快気祝いは本祭としてアリだけど、能面デートはろくでもない目にしか遭わない予感でしかありえない。

たまたま帰り道にばったり会って、同じ店に用事があっただけでデートしていると言われてもね。

部屋でゴロゴロしていると2時間くらいしか経っていない記憶で、月曜を迎えてしまうので、散歩がてらS駅までやってきた。

お気に入り「大正琴の千本桜」でピッタリ到着出来たので、晴天と相まって気持ち良い。

しかも珍しく午前中に起きて、現在12時前。

「清く正しい休日」を過ごしていて清々しい。

どうしよう、スタバでも入ってコーヒー買っちゃおうかな。

なんて思いながら区の掲示板を見ていると、くぎ付けになった。

区民会館で無料大正琴コンサート!!

しかも動画をよく上げている、あの流派のコンサートだ。

あの長野の千本桜のグループがよもや出場するのではなかろうか。

開場が12時30分、開始が13時とある。

電車に乗って行けば物凄く余裕を持って到着出来る、なんなら徒歩で向かって丁度良い位の時間である。

・・・呼ばれている、間違い無い、行かない手は無い、しかも入場無料。

「清く正しい休日」でお行儀が悪くはなるが、早く着きすぎて手持ち無沙汰になるよりは、サンドイッチでも買って食べながら区民会館へ臨もうと熱い気持ちが込み上げてきた。

パン屋に入ってサンドイッチとピロシキを買った。あまり店に置いていないので、ピロシキは売っていたら必ず買うパンだ。

これは幸先が良い。

飲み物は豪華にスタバでフラペチーノなんてオシャレ風のものを頼んでしまった。ほとんど入ったことが無くて、注文の仕方がわからないので適当に。

テンション上がって来ましたよ、と云ったところで、もう一度掲示板を確認しに行った。

日時が間違っていたら、ここまで準備万端だけど手持ち無沙汰どころではなく、帰宅したくなってしまう。

よしよし、今日だし区民会館で問題無し、さあ行きましょう!!と、一口フラペチーノを飲んだところで腕をポンっと叩かれた。

今一番会ってはいけない人、能面がそこにいた。

「こんにちは。良くお会いしますね。」

ニコっとした感じでイヤホン越しにうすーく声が聞こえる。

何で今かねぇ・・・・、休日は取引先はスルーでいいんじゃないかねぇ。。

歯ぎしりしたい、声にならない気持ちでとりあえずイヤホンを片方外した。

「、、こんにちは。こないだは有難う御座いました。」

しかし、お礼は言わないといけない。

「見つかりましたか? CD。」

「置いていなかったようです。」

「そうですか、、残念でしたね。」

「いえいえ、これから出掛けますので、失礼します。」

飲みかけのフラペチーノとパン屋の袋をチラっと見て、

「どちらに?」

屈託無い感じで聞いてくる。

お願い、もう行かせて・・・

「もう帰る」とか言えば良かったと後悔したけど、またここで適当を言うと墓穴を深--く掘ることになる気がした。

「ちょっとコンサートへ・・・」

「わあ、良いですね! どちらまで?」

「ちょっと、そこまで」

「そこまで、、ですか??」

馬鹿正直にも程がある。

「ちょっと歩いて行けるところのコンサートへ行くことにしましたので。」

違う方向に順調に墓穴を掘り始めた気がする。

能面が掲示板をジっと見た。

あらやだ、何て勘の良い人なんでしょう!!

「・・・この大正琴コンサートですか?」

恐るべきピッタリ賞に驚いて「違います」と答える前に素直に頭はうなずいてしまった。他のコンサート情報も張り出してあるのに。

「・・聞いたこと無いな。。」

ポツリと能面がつぶやいた。

そりゃあ、興味が無ければ20代モテモテ人生の女性は知らないだろう。

それで良いんですよ、さあ、お別れしましょう!

「それでは失礼します」と、言おうとした矢先に制された。

「差支え無かったら、ご一緒しても良いですか?」

ちょっと楽しみ♪みたいな口調で能面が聞いて来た。

興味あるんかい・・・。

晴天の爽やかな日曜日に、まさかのコンサートデート風。

明日の玉ちゃんの極上のニヤケ顔が目に浮かんだ。


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