さすがに均等でもなかったか。CAFC判決Galderma Laboratories, L.P. v. Lupin Inc. and Lupin Ltd. [試行] ※ 当記事は試行であり、法的助言を与えるものではありません。全ての情報はその正確性と現在の適用可能性を再確認する必要があります。

判例評釈試行

事件名: Galderma Laboratories, L.P. v. Lupin Inc. and Lupin Ltd.
裁判所: 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)
判決日: 2024年12月6日
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1664.OPINION.12-6-2024_2431596.pdf

事案の概要

本件は、Galderma Laboratories, L.P.(以下、Galderma)が保有する米国特許第7,749,532号('532特許)および第8,206,740号('740特許)を、Lupin Inc.およびLupin Ltd.(以下、Lupin)が侵害していないとした行った地裁判決を不服として控訴した訴訟である。Galdermaは、ロザセア治療薬「Oracea®」を製・販売しており、この製剤は約30mgの即時放出(IR)ドキシサイクリンと約10mgの遅延放出(DR)ドキシサイクリンを組み合わせた経口製剤である。

一方、Lupinは、22mgのIRドキシサイクリンと18mgのDRドキシサイクリンを含むジェネリック製剤を開発し、簡易新薬承認申請(ANDA)を提出した。これに対し、Galdermaは、Lupinの製品が自社の特許を侵害していると主張し、訴訟を提起したが、デラウェア州地裁は非侵害と判断した(Galderma Lab’ys L.P. v. Lupin Inc. & Lupin Ltd., No. 21-CV-1710, 2024 WL 1571686 (D. Del. Mar. 22, 2024) (Decision))。

争点

  1. クレームの構成要素の充足性
    Lupinの製品が、Galdermaの特許クレームに記載された「約30mgのIRドキシサイクリン」と「約10mgのDRドキシサイクリン」という構成要素を満たしているかが争点となった。Lupinの製品は22mgのIR成分と18mgのDR成分を含んでおり、これが「約30mg」および「約10mg」と解釈できるかが問題とされた。

  2. 均等論の適用
    Lupinの製品が特許クレームの文言上の構成要素を満たしていない場合でも、均等論により侵害が認められるかが検討された。特に、IRおよびDR成分の量の差異が治療効果や薬剤動態において実質的に同等とみなせるかが焦点となった。

代表的なクレーム文言

'532特許および'740特許の代表的なクレームは以下のとおりである。

  • '532特許 クレーム1:
    "A doxycycline composition for oral administration comprising:
    (i) about 30 mg of immediate release (IR) doxycycline;
    (ii) about 10 mg of delayed release (DR) doxycycline; and
    (iii) one or more pharmaceutically acceptable excipients;
    wherein said composition is adapted to be administered once daily to maintain a steady-state blood concentration of doxycycline of 0.1 µg/mL to 1.0 µg/mL."

  • '740特許 クレーム1:
    "A doxycycline composition for oral administration comprising:
    (i) about 30 mg of immediate release (IR) doxycycline;
    (ii) about 10 mg of delayed release (DR) doxycycline; and
    (iii) one or more pharmaceutically acceptable excipients;
    wherein said composition is adapted to be administered once daily to maintain a steady-state blood concentration of doxycycline of 0.1 µg/mL to 1.0 µg/mL."

裁判所の判断

デラウェア州地方裁判所は、Lupinの製品が特許クレームの文言上の構成要素を満たしていないと判断した。具体的には、「約30mgのIRドキシサイクリン」と「約10mgのDRドキシサイクリン」という記載に対し、Lupinの製品は22mgのIR成分と18mgのDR成分を含んでおり、これらは「約30mg」および「約10mg」とは言えないとされた。

また、均等論の適用についても、IRおよびDR成分の量の差異が治療効果や薬剤動態に影響を与える可能性があるとして、均等とは認められないと判断された。

CAFCは、これらの判断を支持し、Lupinの製品がGaldermaの特許を侵害していないと結論付けた。特に、クレームの文言解釈において、「約」という用語の解釈が重要であり、特許明細書や審査経過を考慮しても、Lupinの製品がクレームの範囲内に含まれるとは言えないとされた。

判決の意義

本判決は、特許クレームにおける用語の解釈、特に「約」という曖昧な表現の解釈に関する重要な指針を示している。特許権者は、クレームの文言を明確かつ具体的に記載する必要がある。「約」があったため文言侵害や均等侵害で押せると思ったのであろうが、さすがに、ほぼ同量と、3:1の量比では均等とすらいえないのは自然な感覚と思われる。権利化時に幅で取るのが難しかったのかもしれないが、ある程度の範囲で権利化できなかったのかも検討の余地があると思われる。また、均等論の適用においても、構成要素の差異が実質的に同等であるかどうかの判断には、治療効果や薬剤動態などの科学的・技術的な裏付けが必要であることが強調された。

結論

CAFCは、Lupinの製品がGaldermaの'532特許および'740特許を侵害していないと判断し、下級審の判決を支持した。本件は、特許クレームの文言解釈や均等論の適用に関する重要な判例として、今後の特許侵害訴訟における指針となるであろう。


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