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分からない。いつなぜ売れるのか、分からない・・・分かんないから、偶然を楽しもう。
世界一の本の街・神保町の共同書店 PASSAGE SOLIDA の棚で、「ちいさなとしょしつ」という本屋をやっています。開店してから1年、約90冊の本を販売して思うのは、いつ売れるか、なぜ売れるか、本当に分からない。それを分かりたい自分と、分かんなくていいや、と思ったことを綴ります。
目標達成に向けて、奮闘している人に届きますように。
売れたり、売れなかったりする実際
PASSAGE SOLIDAの店舗には、数百の棚があり、それぞれに棚のオーナー (棚主) がいらっしゃると言われます。したがって、普段、棚主は店に立ってはいません。一方で、自分の棚の本が売れると、棚主にメールで通知がくる仕組みになっています。
なかなか売れないこともあれば、同時に4冊以上お買い上げいただけることもあります。「いったいどうして、僕の棚から買ってくださったのですか」と訊いてみたいくらいです。
僕は、年間で100冊販売することを目標にしています。月に均すと9冊ほど。棚にある本のうち、「1ヶ月で2割が動く」という見立てのもと、常時40〜45冊ほどを棚に並べておくようにしています。
僕自身の経験からしても、また、業界から見ても、この見立てはある程度、あてになると個人的に感じています。店にない本は、売れようがありませんから。しかし、売れる時もあれば、売れない時もある。これが本当に分からないのです。
いろいろやってきたが、やっぱり分からない
本がお客さまのもとに届くよう、色々手を打ってきました。
まずやったのは、「ちいさなとしょしつ」なので、図書館の貸出カードにオススメ文を書いてみました。しかし、僕には長続きせず、やめました。
季節に合わせた本も選書しています。春先の散歩のおともになる本、夏休み感が出る本、雪の本や、卒業シーズンに向けた本など。
最もこだわっているのは、並べ方です。雑に並べない。一方で、窮屈に整列させない。そして、同じ色の本が並ばないようにする。「ちいさなとしょしつ」っぽさがあるか。まわりの棚主さんのスペースを、邪魔していないか。これを棚の手入れと呼んでいます。とても感覚的ですが、すごく大事。
棚の手入れをすると、本棚に動きがうまれます。変化がでてきます。眼の前の本が固定物であっても、人は、動きがあるものと動きがないものを見分ける力があるように思うのです。そして、動きがあるものに惹かれる。だから、棚の手入れをすること、本に触ることは、本当に大切。
手入れした15分後にお買い上げいただくこともあるし、手入れしたのに何日も本が動かないこともある。いろいろやっても、やっぱり分からない。
棚主としてのバイブル「本屋、はじめました」を開いてみる
東京・荻窪の独立系書店「本屋Title」の辻山良雄さんのご著書「本屋、はじめました」は、棚主としての僕のバイブルです。あらためて開いてみると、こんな言葉が映りました。
まったくのところ、本屋の仕事はこの「待つ」に凝縮されています。誰かやってくるかどうかはわからないのだけれど、とりあえず店を開けてみて、そこで待ち続ける。そのうち誰かがやってきて、ドアを開けてじっと本棚を見るかもしれないし、店内を素通りしてまたすぐに出ていってしまうかもしれない。そうしたことを幾度となく繰り返しながらも店を開けて、ひたすらそこに居続けるのが本屋の仕事の本質です。
分かるか、分からないか、という問答を飛び越え、とにかく本屋で居続けることの胆力を感じます。
そして、この「待つ」という言葉にピンと来ました。最近出会い、一生読み続けていくであろう本「リジェネラティブ・リーダーシップ」では、原著の "Patience" という表現が「待つ」と訳されているのを思い出しました。あらためて開き直してみると、この言葉が目に飛び込んできました。
自然は急がない。しかし、すべてがうまくいく。
確かに。
売れるも偶然、売れぬも偶然。
明らかになると分かりやすいから、分かりたくなる。しかし、人が本を求めるという行為は、そんな単純なものではない。一人ひとり、それぞれの人生から滲み出た行為なんだと思う。何かの想いが生まれたその時、本の重さを感じながらレジに運び、自分の財と売り物の本を交換する。
それが買うってことじゃないか。
その行為の裏側には、僕が到底思い尽くせないほどの、複雑な系が絡み合っている気がする。一つ一つの系はシンプルなのかもしれないが、ものすごい数の因子が互いに絡み合っている気がする。動きと平衡が絶え間なく続きながら、バランスが成り立っているんじゃないか。
売れるも偶然、売れぬも偶然。
そう、偶然を、楽しんでみたらいい。
今日も佳い日で。