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コロナ禍に再発見された無人化技術の活用方法とこれからの店舗ーデジタルを利用した商業空間での実践2

“ほぼ無人コンビニ”

中国の旧正月明け、私の出社は2月10日から始まった。元々旧正月休暇の期間は1月30日で終わり、31日から出社というのが通常の予定であったが、コロナウイルスの拡大による状況の変化で何度か政府から休みの延長があり、10日からの出社になったのだ。出社する前から薄々気づいていたが、出社初日だというのに街に人気はなく、オフィスビルについても人はいない。エレベーターに乗ってもうちの会社の人間しかいなくて、お互い目を合わせて苦笑いを浮かべるという状況だった。まぁあの時のムードとしては、当然ながら各社感染の拡大を恐れてテレワークというのが通常の判断である。ここまで何回かテクノロジーを活用した中国のコロナ禍の対応をベラベラと話していたのにテレワークを経験していない筆者…
この時期上海の外から移動してきた人はもれなく14日間の強制隔離であって10日から出社といっても当社も半分以上は出社していなかった。他社も恐る恐るテレワークを始めていた段階でフル稼働とは言い難い状態。出社してもさしてすることもなく、会社からは申し訳程度にマスクは配られたが何で感染の危険を犯してまで出社しているんだろうと不満は募った。まぁこの時期街をブラブラするわけにもいかないのだが、自宅から会社までの徒歩での移動や会社周辺でのちょっとした買い物、そのついでに街を観察することは少し気分転換になったのはよく覚えている。
とはいえこの時期そんなに行く場所もない。会社近くのファミリーマート(中国語で全家)ですら気分転換の場所だった。何割かのコンビニは前述の隔離の問題もあり、開いていないところもあったがここは変わらずにやっていたのだ。ここのコンビニ、この時期はかなり売り上げは落ち込んでいたに違いないがオフィス街の近くにあるため、通常時は昼時に行けば人でごった返している。それもあってか、ファミリーマートの新たな取組をいち早く導入する傾向がある。今中国のファミリーマートでは多くのお客さんが自分でバーコードを読み込み、キャッシュレスで支払う自動レジが導入されている。ここのコンビニでは規模が決して大きいわけでもないのに関わらずピーク時のお客さんが多いため、4台も導入されている。そのため通常のレジはあるものの、店員さんは自動レジを使うように促していて、レジ作業に人を必要としていない状態である。
この中国でのコロナの過渡期、ここのファミリーマートへ行くと毎日同じ店員さん一人で切り盛りしていた。その女性の店員の名は張さん。残業して遅くに行った時も、何度か週末出社した時も張さんだった。あまりのハードワークっぷりに可愛そうになり声をかけると、やはり他の店員さんは隔離などで出て来れない状態が続いていたため、致し方なく毎日出社しているとのことであった。
この一人体制は記憶では一ヶ月近く続いていたのではないかと思う。かなり大変ではあっただろうが、あえてドライに言えば張さんにはレジの仕事がなく、商品の管理と万引きの確認、現場提供の惣菜などの準備と提供に絞られる。休みがないのはしんどいところではあるが、何とか一人で捌き切れる仕事量なのだろう。何だかこれを見ていて、あの中国で“一世を風靡しかけていた無人コンビニ”とほぼ変わらないのではないかと思った。無人コンビニは会計が自動化されるが、商品の管理は人力に頼らざるを得ないからである。Amazon GOだってそれは変わらない。

“無人コンビニの今”

“一世を風靡しかけていた無人コンビニ”とさらりと書いたが、今もうほとんどの無人コンビニは消滅している。あれは3年ほど前だろうか、中国の無人コンビニが話題になっていた。ただそれは実際よりもネット上での盛り上がりの方が大きかったように思う。その盛り上がりは日本にも波及していて、ビジネス方面のネットメディアによく取り上げられていた。その頃私は日系企業にいて、年に数回か上海でアテンドしていたのだが、その盛り上がりもあってかその都度アテンド先として無人コンビニを希望された。しかし、話題になっていたあの頃でさえ、上海にはほとんどなく、郊外に数軒ある程度だった。
様々失敗の要因はあるだろうが、無人コンビニの無人の部分だけに注視し、経験価値が考慮されていなかったためであると言えるだろう。様々なタイプがあったがAmazon Goのように通過するだけで会計することはできず、多くのタイプがRFIDなどを読み込むスペースや設備を通して利用者自ら読み込ませる必要があった。それは何だかレジに並んでいるような経験とさほど変わらないし、何ならキャッシュレス化が既に進んでいたので店員さんにQRコードを読み込んでもらう方が楽であった。運営面としても完全なる無人化には無理があったし、やはり無人化できるのはレジの部分でしかなかったので省力化とそれにかかるコストが見合ってなかったと言えるだろう。


一方で類似するジャンルであるスマートコンビニの便利蜂は順調。彼らのやり方は無人化は行わないがテクノロジーを活用することによって省力化している。発注、陳列、価格設定などをシステム化し、人はそのシステムに指示を出すだけであるため、人の業務は簡略化している。このシステムは随時データを読み込みことで学習させ、その精度を高めている。これは出店場所の設定などマーケティング戦略にも生かされていて、出店速度をも向上させている。こうしたシステムを携えた便利蜂は驚異的な速度で黒字化を果たした。

“非接触型として見直された無人化技術”

便利蜂のように省力化には必然性があるが、人をなくすまでとなると必然性がなかったわけである。日本は労働人口が減少しているので、必然性を持ちうるのではないかと考えていて、高輪ゲートウェイでのJRの無人コンビニの取組みには注目しているが、中国は高齢化が進み、労働人口が減ったとはいえまだまだ安価な労働力はある。それは前回紹介したデリバリーの配達員を見てもわかる。配達員には空いた時間を活用しているギグワーカーも多い。
しかし突如として無人であることに必然性を持ち始めたのがこのコロナウイルスであった。非接触で安全性を確保しながら経済活動を持続することが求められためである。
最もわかりやすい例がコロナウイルスの感染者を扱う病院。次回に取り上げる驚異的なスピードで完成した火神山医院では多くの無人化技術が導入された。その一つが無人スーパーが導入されている。火神山医院は重病患者を扱うため、患者が利用することはないが、多くの医療従事者の生活の場ともなっていたため、食品などの重要が多く存在していた。戦場と化したこの場所で効率的かつ、密を避けるためには無人化は必然だったのだ。ここではフーマーを運営するI T企業アリババが協力しているようだが、前回紹介したフーマーのレジ端末で自らスキャンして購入する形式を採用している。


ただこの火神山医院事態が緊急対応の病院であったので、既に4月15日に閉院していて、この無人スーパーもない。またコロナウイルスによって街中に無人コンビニが増えたわけでもない。あくまでも緊急対応の一つであり、コロナウイルスが終息しつつある中国ではやはりこの無人コンビニはニューノーマルにはなりえなかった。
ただ何もこのような切迫した状況にのみ、こうしたテクノロジーの需要が増したわけではない。

“ロックダウンでも#経済を止めるな”


コロナウイルス対策の強化と経済への影響は表裏一体なものであることには日本も中国も変わりはない。コロナウイルスが心配を与えるに足らず、変わらず生活を続けるべきだという意見が少なからずあるのは、何もアメリカなどの惨状に目を瞑っているわけではなく、経済への影響に対する恐怖からきているはずである。
日本が今ほどコロナウイルスの感染者が拡大する前の頃、3月あたりにSNSでは「#経済を止めるな」というハッシュタグがよく見られた。この頃、中国では武漢や一部の都市ではまだロックダウンが続いていたし、他の都市でも相変わらず移動制限が敷かれていた。中国もこの状況下で経済とコロナ対策の両立に試行錯誤が続いていた時期だ。ただ日本のムードとは違っていて、中国にいた私から見て「#経済を止めるな」と消費者が無理をして消費をしているのは異質に見えた。中国も経済を止めようとはしていなかったが、市民の動きが制限される中で消費者は無力で事業者の努力頼らざるを得なかった。そしてその努力を結実させることのできなかった事業者は、社会主義という仮面をまだかぶっているにも関わらず国から補償があるわけではないので容赦なく消えていった。
その時期の企業努力の一例として、ローソンの取組を紹介したい。(※1)

※1ジャンシンさん主催のウェビナーの中で紹介された游仁堂さんが開発したローソンさんのシステム・コロナ禍での施策

ローソンは上海、北京、重慶などの主要都市で店舗展開をしていて中国国内コンビニではベスト10に入るほどの店舗数を誇る。またコロナウイルスの発祥地であるとされている武漢でも多く店舗を展開していた。武漢のロックダウン中の外出制限はかなり厳しいものであったため、街は閑散としていた期間が長かったが、政府の方針もあってコンビニは営業し続けていたようだ。ただ当然限られた外出の中で店舗にお客さんが来ることは想像しづらい。また冒頭にあげた上海の私が通ったファミリーマートのように店員確保の問題は上海以上に当然大きかった。
この中で売り上げ確保のためにローソンはアプリを活用した予約販売の施策を行い、食事やマスクなどを販売した。時間制限などが科せられていた外出に無駄な動きはできないため、決められた時間にピックアップができることがわかった上で店舗に向かうことができるのはメリットになる。こうしたアプリによる予約販売サービスはローソンは元々システムに組み込まれていたが、密を避けることを目的としていなかったため、時間あたりに予約人数制限や政府指定の販売時間の設定などコロナ仕様にアジャストする必要があったが1週間程度でシステムの構築を行なったようだ。この施策は当たり、売り上げを助けた。また店員が確保しづらい中での店舗業務の省力化にもつながった。
店舗の売り上げは立地に大きく依存し、店の前の人通りが多ければ多いほど売上を上げやすく、また家賃も高い。ただロックダウンをした都市においてはどこも人通りは限りなくゼロに近い。それでも店舗での売上をあげることができたのは実空間の人通りに依存せずに、デジタルの施策によって実空間へと誘導することができたためである。

”賑わいを生まない店舗のユーザーエクスペリエンス”


昨年台湾や中国からのブームが波及して日本でタピオカブームが広がった。小さな間口の店舗から伸びる長い行列。数百円の買い物に炎天下の中何時間も並ぶ人もいたようだ。行列を乗り越えた先にあるのは商品そのものの価値だけではなく、希少性が演出された行列を乗り越えた体験価値もありそうだ。このブームは一過性のもので今はもう行列は消えてしまったけれど、コロナ禍の東京でもし存在するならば恐れられている“密”であり、批判の対象となったであったであろうし、営業することは困難であったはず。それは売り上げの損出となる。
日本のような一過性のブームではないが、中国のタピオカ人気は安定的にあり、特に夏のこの時期はどこの店も賑わっているが、日本のように長い行列がないのはローソン同様にここにもアプリを活用した事前予約システムがあるためだ。日本の進出も噂されている一番人気のHEYTEAは当初行列を作っていたが、やはりこのシステムを導入した。人気店であるが故に予約しても30分以上の時間を要することが多いが、かなり効率性が高まった。先日も電車で移動中に目的地付近にあるHEYTEAの店舗で予約し、店舗では待たずにピックアップすることができた。
日本での行列も中国でのピックアップもある種のユーザーエクスペリエンスと言えるかもしれないが、一過性に終わったブーム日本と継続的な人気の続く中国と因果関係がある気がしなくもない。

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事前予約システムの手順(左上から時計回り)
1.メニュー 2.商品選択/決済 3.予約完了 4.商品準備完了通知

HEYTEAの店舗はデザイン性が高く、デザインメディアにも取り上げられるほどで店舗での体験価値にも真剣に向き合っているが、HEYTEAにもHEYTEA GOというピックアップ専門店があるように、ピックアップ専門店や配送専門店も増えてきている。

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HEYTEAのピックアップ専門店舗・
ロッカーに予約した商品が置かれている完全非接触店舗タイプもある


コンセプトをサードプレイスと場を軸にしていて旗艦店なども話題となるスターバックスも少し前から対抗するように配送サービスと予約システムを始め、コロナ以後についにはピックアップ専門店をもオープンさせている。

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7月に四川省・成都にオープンしたスターバックスのピックアップ専門店

”リアルとデジタル 差がなくなりつつある体験価値”


デジタルを活用した実空間への誘導は何もコロナ禍の武漢という特殊な状況にのみ活用されたわけではなく、時期としてもこのコロナ禍で慌ててシステムを組み上げたわけでもないというのがここからもわかると思う。コロナ以後極端に無人化へと加速させるわけではないが、元々大きく捉えれば進むべきその方向をもう一度見直すきっかけとなった。
Eコマースの普及が進めど、実空間の価値として考えられていたセレンディピティが失われはじめているとはいえそうだ。一方でデジタル空間においてはA Iの活用などによりセレンディピティがないとはいえないことはネット上での買い物を経験すればすぐにわかる。少しづつその差が埋まりつつあるのはまさにアフターデジタルの世界。その世界はデジタルの側からやってくるだけで、実空間の側には表層的な変化しか見えないように見えるけれどそんなことはなさそうだ。

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