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フジサンズというバンド

昔から私を知ってる人といえば「フジサンズのカメラマンをしていたとしこちゃんですよね?」という枕詞が入ってくる。
私はそれほど彼らと共に居たんだなぁとたまに彼らの事を聞かれると変な笑いがこみ上げてくる。彼らとは多分6年程共に居た。彼らを追いかけ続けた。フィルムもデータも物凄い量だ。今でもたくさん残っている。私とフジサンズは付かず離れず珍妙な距離感でバンドとカメラマンという関係性を崩さずにそれ以上もそれ以下もなく、平和な6年間だった。

彼らを知ったのは知り合いのバンドマンからの紹介だった「先輩が写真が欲しいって言ってるからとしこちゃんを紹介したい」そう言われて彼らの音楽を気に入ったらと渡された無料のコンピレーションアルバムと赤外線交換で手に入れた彼の連絡先。学生時代、人物撮影が苦手でWIN-WINの関係性を築きたいと先輩のライブハウスに転がり込み手当たり次第バンドマンに声をかけて撮影していた。
それから半年は経っていたと思う。その時期になると顔見知りや仲が良くて撮り続けているバンドも増加した、けれど好きなシューゲイザーやオルタナに出会うことはできずなぜか周りに増えていくメロコアやミクスチャー(写真映えするから無意識に選んでいた?)そろそろそんなラインナップに食傷気味な私に飛び込んできたのはさわやかなギターポップ。新しい出会いを求めていた私には好条件だった。

やたら腰が低いフロントマンと連絡を取りワクワクしながらライブハウスに行ったらやたら毛量の多い背の高い男に「あ、カメラマンの方ですか。フジサンズのドラムです、よろしく。」と声を掛けられて楽屋に通されるとそこには楽屋のぼろぼろになったソファに丸まってる男、無心にベースを弾く仏のような男、タバコを吸いながら虚無の顔をしている男が待ち構えていた。今まで経験のない異様な楽屋である。私はポカーンとその様子を2〜3往復見つめた。振り返るとさっきのドラムはいない、ライブを見に行ったらしい、仕方ないので私はその狭い楽屋で声を出した。

「こんばんは、カメラマンのとしこです。今日はよろしくお願いします」

まだライブは始まっていないのに死にかけているソファに倒れた男がゆっくりと起き上がった。

「としこさんですね…はじめまして、ぼくが岩崎です」

今でもはっきりとその景色を思い出せる。私は変なバンドに関わってしまった、なかなか無い出会い方に余計おかしな好奇心が湧き立てられた。
多分私の声はうるさくてキンキンしていて死にかけのフロントマンには相当きつかったのではないのだろうか。
バンドの出番の前に私はいつも通りどのへんにいていいか聞いた。自由でいいです、とだけ彼は説明していそいそと楽屋を出て行く、ギタリストとベーシストが私を見るとすれ違いざま軽い会釈をした。

ライブの始まる前のステージ、やっぱり良い音楽をやるバンドなのでそれなりに客はいた。柄の悪そうな酒を持った男が「フジサンズーーっ!」と叫んでいる。ああいう柄の悪そうな人もこういう音楽を聴くんだ。私はドライに辺りを見回した。
ライブが始まる。泥臭いライブハウスに一瞬だけ爽やかな風が吹いたような雰囲気がした。さっき倒れていた男と思えない彼がステージに立っていた。彼らがコンピレーションCDにあったAKANEをやると会場の客は待ち構えていたように揺れだす。やっぱり一定の客がついてるんだなぁと私は緊張の面持ちで撮影した。
優しい声、畝るベース、暖かいギター、美しいドラムが心地よい数分間。

(やっぱりこのバンド、私好きだな)

そう言いに行こうと楽屋に行くとさっきの最高のライブをしたバンドは出会った始めの時と同じ状態になっていた。ライブは幻だったのだろうか?楽屋で倒れているフロントマンに声をかけた。

「ステキなライブでした、今度、現像したもの持ってきますね。また撮らせてくれませんか?」

フロントマンは真っ青な顔をして私に言った

「ええ、こんな体たらくでよろしければ…」

#フジサンズ #バンドとカメラマン #ライブハウス



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