しじみちゃん彗ちゃん「しじみと彗のさんぽみち」
島根県松江市。
時は夕暮れ、宍道湖に夕日が反射し、湖面をあかね色に照らしている。
松江市・松江しんじ湖温泉の温泉むすめ、松江しんじ湖しじみと、同じく松江市玉湯町・玉造温泉の温泉むすめ、玉造彗が、二人で宍道湖沿いを散歩している。
「…こんなに綺麗な景色を見ながら散歩ができるなんて、幸せね…。」
しじみは夕日に照らされ、いつものように(?)お昼のさわやかさとは異なる、魔性の色気がにじみ出ている。
「しじみは、昼と夕暮れで、全く見せる顔が違うわね…。」
彗がしみじみと言う。
「…うふふ…。私は、意識してないわよ。いろんな顔があった方が、楽しいじゃない?」
「そういう見方もあるのね…。」
「…彗ちゃんの方がすごいわよ。いつもビシッとして、隙のない完璧な美しさで。」
しじみが、彗を褒める。彗は胸を張って、
「それは、頂にいる以上は当然のことよ。」
と答えた。
「…そう思っていることがすごいわよ。」
「褒め合うのも、何か気持ち悪いわね…。」
「…うふふっ、確かにそうね…。…例え、事実であっても、ね?」
「わざわざミステリアスにしなくてもいいわよ!…ふふっ、しじみったら…。」
他愛のない話をしながら、歩みをすすめる。
しじみの変幻自在の美しさと、彗の首尾一貫した美しさ。
異なる二つの美しさと、宍道湖の夕暮れの風景が融合し、絵画のような情景を作り出している。美しさを讃え合う会話も、二人ならいやみに聞こえない。
「松江って、本当にいいところよね。」
彗が、ぽつりとつぶやく。
しじみも、静かにうなづく。
「…そうね。私たちは松江の観光大使だから、しっかり松江の魅力をアピールしないとね。」
「歩いてたら、小腹が空いてきたわね。」
「…彗ちゃんは、普段もよくトレーニングしてるからね。代謝がいいんじゃない?」
と、歩く向こう側にコンビニを見つけた。
「しじみ、ちょっと寄ってく?」
「…そうね。のども渇いたし。」
『いらっしゃいま…、えっ?』
しじみと彗に、コンビニの若い店員は目を奪われた。
(…な、なんて、綺麗な方たちなんだろう…。)
棚を一通り見て、カウンターフーズのたい焼きが二人の目にとまった。
「…彗ちゃん!たい焼き、おいしそうね。」
「本当ね。…うーん、でも、一人一つだと、夕飯前には多いわね…。」
「…二等分すればいいじゃない?」
「あっ、そうね。そうしましょう。」
「…飲み物は…、コーヒーにする?」
「うん。食べ歩きだと思えば、ちょうどいいわね。」
そして二人はレジに立ち、たい焼きを一つとコーヒーを二つ買った。
若い店員は、二人にどぎまぎしながら接客をした。
『…で、では、こちらがコーヒーのカップです…。』
緊張をしていると思ったのか、彗が尋ねた。
「あなた、新人さん?」
『い、いえ…。お二人が、とても綺麗ですから…。』
「えっ?…アハハ、お世辞でも嬉しいわ。ありがとう。」
「…うふふ、お若そうですけど、肝臓くんを大事にしてくださいね。」
ドーン!
(笑◯せぇるすまん風に)
彗としじみの言葉と笑顔に、若い店員は白く燃え尽きた。
そして、コーヒーマシンでコーヒーを淹れ、二人はコンビニをあとにした。
「…彗ちゃん、頭としっぽと、どっちがいい?」
しじみが、たい焼きを二つに割った。
「愚問なことを聞かないでちょうだい。頂点なんだから、頭よ。」
「…あはは、彗ちゃんなら、そう言うと思ったわ。はい。」
彗が、あわててしじみにツッコむ。
「って、ちょっと!そんなわけないでしょ!たい焼きにまでトップを求めて、どうするの?」
「…えっ、ボケだったの?彗ちゃんが言うと、本気に聞こえちゃった。」
「全く…、私は、そんなにお堅いイメージなのかな…。」
「…彗ちゃんは、何事にも完璧を目指してるからね。お笑いでも、頂に立たないと。」
「ジャンルが違うわよ!」
「…あはは、冗談よ。彗ちゃんが、頭の方を食べてよ。」
と、頭側を彗に渡した。
「ありがとう。」
『いただきます。』
しじみと彗は、コーヒーを飲みながらたい焼きを食べ始めた。
「…うん、おいしい。…普段、食べ歩きもなかなかしないわよね。」
「散歩しながらも、何となくせわしないしね。」
「…ごみは必ず持ち帰るとか、きちんとすればいいと思うわ。街にごみは、一番いやよ…。」
「そうね。松江にごみは、似合わないわよね…。」
夕日がだんだん沈み、あかね色が暗くなっていく。
しじみが、話題を変えた。
「…ところで、たい焼きはあるのに、何で、しじみ焼きはないのかしら?」
「えっ、何を言い出すの?」
突拍子もない質問に、彗が驚く。
「しじみ焼きって、小さ過ぎるでしょ?」
「…もちろん、そのままのサイズじゃないわよ。はまぐりとかくらいに大きいサイズなら、大丈夫じゃない?」
「うーん…。確かに、松江には『どじょう掬いまんじゅう』があるから、しじみ焼きもあってもいいわね。」
「…でしょ?…絶対、売れると思うんだけどな…。」
「それなら、しじみが作ったらいいじゃない?和菓子みたいな感じで。」
彗が提案した。
「…そうね…。誰も作らないなら、私が作ってもいいわね。」
「しじみそのままじゃなくて、しじみのSDでもいいと思うわよ。人形焼きみたいに。」
「…それだと、私を食べて、みたいになるじゃない?…男の人が、戸惑わないかな…。」
「それは考え過ぎよ!…だけど、松江を盛り上げるためなら、どんなことでもやってみる価値はあるわよ。」
「…うふふ、そうね…。ありがとう、彗ちゃん。」
二人の取りとめのない話は、散歩の間ずっと続いた。
終わり。
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