ひなビタ♪8-4「凛として飲む紅茶の如く4」

※ひなビタ♪8-1「凛として飲む〜」、ひなビタ♪8-2「凛として飲む〜2」、ひなビタ♪8-3「凛として飲む〜3」の続きです。

メイド咲子の場合。

「いらっしゃいませ、お客様。本日お相手をいたします、咲子と申します。よろしくお願いします。」
さすが本職である。堂に入ったにっこり笑顔であいさつをして、客を席にエスコートした。

「シャノワールへのご来店は、本日が初めてですか?」
『はい…。失礼ながら、倉野川にこんな店があるなんて、知らなかったです…。』
「うふふ、シャノワールを知っていただくためのイベントですから、気にされなくてもいいですよ。心を込めて、おもてなしをしますからね。」

『!』
咲子の笑顔に、客の心臓が衝撃を受けた。

「それでは、服が汚れないように、エプロンをお掛けしますね。」
一舞と同じく、慣れた手付きで客にエプロンをつけた。

「お客様、苦しくないですか…?」
咲子が客に優しい口調で話し掛ける。
『は、はい…。…えっ!!』
客の目の前に、エプロンの位置を調整する咲子の、メイド服の上からでも分かるぱつぱつの胸元が迫り、客の心臓が止まりかけた。
『(咲子さんの方が、よっぽど苦しいのでは…。)』
客は、内心そう思った。

「お待たせしました。それでは、紅茶をお淹れしますね。」 
咲子はティーポットを手に取り、紅茶を淹れた。
「本日の紅茶は、私が厳選した『さききスペシャル』です。まずは、ストレートでお召し上がりください。お熱いので、お気をつけくださいね…。」
『はい。…?』
「…。」
咲子が、客の顔をじっと見ている。

『どうしました…?』
咲子が微笑みながら答えた。
「うふふ、本日は、感謝の気持ちを込めて、お客様のお顔を見させていただいています。どうぞ、お気になさらず、お召し上がりください。」
『は、はい…。』
ぱつぱつの胸元と優しい笑顔に、客の緊張がより高まる。

ズズーッ…。
紅茶を口に運ぶが、咲子に気を取られ、紅茶を少しエプロンにこぼしてしまった。

「お客様、大丈夫ですか?」
咲子が慌てることなくさっと布巾を出し、客の胸を拭いた。
『す、すみません。つい、こぼしてしまって…。』
「いえ、お客様にお怪我があってはいけませんから。」
咲子の素早い処理により、幸いエプロンだけで客の服は汚れず、やけどもなかった。

「良かったです。新しいエプロンを、お付けしますね。」
『い、いえ、大丈夫ですよ…。』
「お客様が、汚れたエプロンのままではいけませんから。さあ…。」
と、咲子がエプロンを付け替えた。
と言うことは、また咲子のぱつぱつの胸元が目の前に現れた、ということになった。
『(何回もこぼした方が、むしろいいんじゃ…。)』
そんな邪念が、客の頭に浮かんだ。

「それでは、フードメニューのちくわパフェをお持ちしますね。」
と言い、席から離れて「さきめうちくパ」をテーブルに運んだ。

『うーん…。』
その独特な見た目に、やっぱり客がたじろぐ。

「…初めて来られたということは、ちくわパフェを召し上がるのも、初めてですか?」
『は、はい…。見た目がすごいですね…。』

客がスプーンを手に取ろうとして、
「お客様。最初の一口は、私が食べさせて差し上げますね…。」
と、咲子がアイスとちくわをスプーンですくった。

「…それでは、お口を開けてくださいね。はい、あーん…。」

『!!』
咲子がスプーンを客の顔に近付けた時、腕が胸元を寄せ、胸がより強調される姿勢になった。

『…。』
客はその迫力にあっけに取られ、口をあんぐり開ける格好になり、ちくパがあっさり口に入った。

「お客様、お味はいかがですか?」
『!…はっ、はい、おいしいです。』
咲子の問い掛けに我に返り、条件反射のようにおいしいと言ったが、実は味は分かっていない。

「ふふっ、お気に召されて良かったです。」
咲子が微笑んだ。そして、
「本当は一口だけですけど、粗相のお詫びに、もう一口食べさせて差し上げますね。どれが良いですか?」
と、ちくパの皿を客に見せた。

『ぱつぱつのむな…、じゃなくて、また、ちくわでお願いします…。』
客は、思わず出かけた本音を慌てて引っ込めて答えた。

「うふふ、分かりました。ちくわですね。はい、あーん…。」
今度は、味(と胸元)に意識を向けた。
アイスの甘味とちくわの塩味が、アクセントになっている。

『…うん、おいしいです。ちくわが、クラッカーみたいな感覚なんですね。』
「ありがとうございます。そうなんです。見た目は確かにインパクトが強いですけど、味は正統派なんですよ。お気付きいただいて、嬉しいです。」
と言い、客の手を両手で握手した。
その瞬間、また咲子のぱつぱつの胸元が強調された。

『!!!』

ドーン!!
(笑◯せぇるすまん風に)

「…それでは、これで失礼しますね。またお時間のある時に、ちくわパフェと紅茶を食べに来てくださいね。」
と言い、咲子は席を離れた。

例のごとく三段コンボに客は完全にやられ、白く燃え尽きた。

ボーイめうの場合。

「こんにちはめう!今日お相手をする、めうめうっ!よろしくめう!」
あいさつをして、客を席にエスコートした。

『めうちゃんは、メイドではないんですか?』
「そうめうっ。めうは今日は、みんなのプロデューサーめう!だから、ボーイの服装めう。」
『…なるほど。似合ってますよ。』
「へへへ、ありがとめう。」

『!』
めうの無邪気な笑顔に、客の心が打たれた。

「じゃあ、エプロンを着けるめう。…あ、あり?そういや、やり方を聞いてなかっためう…。ま、まあ、何となくでいいめう…。」

めうはイベント全体のプランを考えていたため、エプロンの着け方や紅茶の淹れ方など、細かい接客の手順までは教わっていなかった。よって、憶測でエプロンを着けた。
すると、咲子が店の奥からやって来て、
(めうちゃん、裏表が逆です…。)
めうに耳うちをして、戻っていった。

「おっ、お客様、ごめんめう!反対に着けためう…。」
『い、いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください…。』
「…プロデューサー失格めう…。許してめう。」
『…本当に、大丈夫ですから。』
「そうめう?ありがとめう!じゃあ、気を取り直して、紅茶をお淹れするめう!」 

めうはティーポットを手に取り、紅茶を淹れようとして…、またも、咲子が飛んで来た。
「…めうちゃん、もう少し蒸らさないと…。」
「ありっ?…そ、そうめう?」
「めうちゃんにまで、教えられる時間はありませんでしたからね…。」
「そ、それじゃあ、さききがそばにいてめう!…いいめう?」
めうが客に同意を求めた。

『はい…。大丈夫ですよ。』
「良かっためう!めうとさききと、二人に接客されて、幸せ者めう!」
「いや、開き直られても…。お客様、申し訳ございません。それでは、めうちゃんと私と、二人でお相手いたしますね。」
『あ、ありがとう?ございます…。』
ということで、この客はラッキーなことに、めうと咲子での接客となった。

「…もう、お淹れしても大丈夫です。」
「分かっためう。」
咲子に言われ、改めてめうが紅茶を淹れた。
「それでは、今日の紅茶はさききが厳選した『さききスペシャル』めう。まずは、ストレートで飲むめう!熱いから、気をつけろめう。」

『はい。』
「…。」
『…?』

めうが、客の顔をじっと見ている。

『どうしました…?』
「お客さんの顔を見るのも、仕事めう。気にするなめう!ほら、さききも見るめう!」
「私もですか?はっ、はい…。」
客はめうと咲子の二人に見つめられ、逆に飲みにくそうである。

『…あの、何か、恥ずかしいです…。』
「あり?…うーん、おかしいめう…。じゃあ、次は、フードメニューのちくわパフェを持ってくるめう。」

と言い、席から離れ「さきめうちくパ」をテーブルに運んだ。

『…。』

見た目に、やはり客が(以下略)。

「ちくパは初めてめう?」
『はい…。見た目がインパクトがありますね…。』
「こらっ、最初はスプーンを持っちゃダメめうっ!最初の一口は、めうが食べさせてあげるめう。」
と、アイスとちくわをスプーンですくったが…。

ボトッ!

上手くすくえず、皿に落ちた。

「ありっ?こ、これも、失敗めう…。さきき、一緒にやるめう!」
「えっ、二人同時にですかっ?」
「失敗のカバーにちょうどいいめう!」
「失敗って!…お客様、大変申し訳ございません。こちらも、私とめうちゃんでさせていただきますね…。」
そして、めうと咲子がアイスとちくわをスプーンですくった。

「はい、あーんめう。」
「では、召し上がれ。」
『…えーっと…。』
客はめうと咲子に両方からステレオ状態で迫られ、嬉しい反面、どちらを先に口に入れたらいいのか戸惑っている。

「…どうしためう?ちくパを食べたくないめう?」
「いや、この状況に困ってるんだと思いますよ…。」
「むっきゅん!めうとさききの二人に食べさせてもらえるなんて、滅多にない機会めう!食べないなんて贅沢めう!同時に口に入れろめう!」
「い、一緒にですかっ?」
「一緒めう!さきき、やるめう!」
「はっ、はい!」
と、めうと咲子が客の口に、スプーンを突っ込んだ。

『うげっ!…。』
「どうめう?おいしいめう?」
『…はっ、はひっ。意外に…おいひいです。』
二口分を口に含んでいるので、客は上手くしゃべれていない。

「良かっためう!…今日は、失敗ばかりでごめんめう。許してめう…。」
めうが涙ぐみながら、申し訳なさそうに客に言った。
「申し訳ございませんでした。細かい接客対応が行き届かず、大変失礼いたしました。」
咲子も続けて謝った。

『いっ、いえ。全然問題なかったですよ。めうちゃんたちに接客してもらえて、楽しかったです。』
「本当めう?お客様は神様めう…。ありがとめう!」
と、めうが嬉しさを全開にして客に抱きついた。

『!!!』

ドーン!!
(笑◯せぇるすまん風に)

「じゃあ、これで終わりめう。今度はさききが完璧におもてなしをするから、また来いめう!」
「わ、私任せですか…。お客様、お騒がせしました。またのご来店をお待ちしています…。」
と、めうと咲子は席を離れた。

最後の抱きつきに客は完全にやられ、白く燃え尽きた。

このように、五人の個性豊かなおもてなしにより、イベントは大盛況を収めて幕を閉じた。

イベント終了後のシャノワール店内。

五人は、あまりの忙しさに疲れ切って、服を着替える気力もなく、椅子に座っている。

「みんな、今日は本当にお疲れさま。すごくいいイベントだったわよ。いい記事が書けるわ。ありがとう。」
纒が、場を締めるように話した。
「みなさん、手伝っていただいてありがとうございました。」
咲子も頭を下げた。

「うーん…、ほ、本当に、疲れたね…。」
「接客が、こんなに大変だと思わなかったし…。」
「めうのプロデュースのおかげめう!ちくパのおいしさも伝わって、良かっためう。」
「…めうちゃんが、一番接客は大変でしたよね…。」
「ふふふ、あとは…最後の計画めう。」

そこに、
「は・ん・こ・屋。」
凛の冷静なトーンの呼び掛けが響いた。

「めう?」
めうが顔を上げると、凛が仁王立ちの状態で、ノートパソコンとめうのデジカメを持っていた。

「ありっ?い、いつの間に…?」
「…こ・れ・は、何…?」
と、パソコンにデジカメをつないで、画像の一覧を出した。
その画像は、めうがまり花たち四人のメイド姿やめうの自撮りなどを撮影したもので、普通の立ち姿はともかく、まり花と一舞が練習でパフェを食べさせあっている姿、凛のストッキングを直している姿、凛が足をもつれさせ、転んでスカートがめくれかけている姿などがあった。

「…ふおおっ…、よく撮れてるねっ!」
「こんなに撮って、どうすんの?」
「そりは、このイベント後に、『むっきゅん☆胸キュン☆日向美ビタースイーツ♪メイド写真詰め合わせセット』として、売り出すつもりめう!」
「詰め合わせって…。なんか、安っぽく聞こえない?」
一舞がツッコむ。

「これで、日向美ビタースイーツ♪の嬉し恥ずかしな魅力が伝わること、請け合いめ」
「却下。」
凛の冷静な声が、めうの主張を遮った。

「…めう?」
「き・ゃ・っ・か。」

ブチン!!
凛がデジカメとパソコンをつなぐコードを引きちぎった。

「め、めう〜!な、何するめう!」
「…調子に乗るのも、大概になさい…。」
気付くと、凛の目が真紅の光を帯び、背後に漆黒のオーラが放たれていた。

「りっ、凛ちゃんが、悪魔さんになっちゃったよぉ!」
「逃げないと、ヤバいしっ!」
「とってもとっても、手が付けられないです!」
「みんな、逃げなさい!」
纒がまり花、一舞、咲子を外に逃がし、店内にめうと凛が残った。

「…えっ…そ、そんなに怒っためう…?」
ようやく、事態の大きさに気付いためうが震え上がる。

「…滅びてしまいなさい…。」
凛の口調は恐ろしく冷静なままで、めうを指差し、漆黒のオーラを向けた。

「…ひ、ひぇ~っ!悪気はなかっためう!ご、ごめんめう〜!…。」

その後、めうがどんな目に合ったかは、誰も知らない。

数日後。

「凛ちゃん。」
いつものように、机で本を読んでいた凛に、まり花、一舞、咲子が話し掛けた。

「…どうしたの?」

咲子が切り出した。
「この前は、お手伝いをして下さって、本当にありがとうございました。お礼をちゃんと言えてなくて…。」
「…お礼なんて、別にいいわよ。…はんこ屋は?」
「…めうちゃんは、あのままです…。」

めうは凛の漆黒のオーラを浴びてから、抜け殻のようになり、うわ言を言いながら町を歩き回っている。

「…りんりん先生ごめんめう出来心めうめうの方がぺったんたんめう…」

「よっぽど、凛ちゃんが恐かったんだね…。」
まり花が気の毒そうに言う。

「まあ、自業自得だしっ。日にち薬で治るっしょ。」
「…でも、めうちゃん、イベントのことを本当に親身に考えてくれましたからね…。」
「そこは認めるとこだけどね…。最後に、変な色気を出したからだし。」

凛が話し出す。
「…私こそ、喫茶店や、貴方たちに謝らないといけないわ…。」
「えっ?どうしてですか?」
「…メイド服をずっと恥ずかしがったりして、喫茶店の仕事を、無意識のうちに見下していたんじゃないかと思って…。本当に、ごめんなさい…。」

咲子があわてて否定する。
「そ、そんなことは、全くないですよ!むしろ、慣れないことを無理やりさせて、一生懸命練習してくれて、とってもとっても、感謝してます!」
そして、咲子が凛に封筒を渡した。

「開けてみてください。」
凛が封筒を開けると、写真が二枚入っていた。
うち一枚はスーツ姿のめうとメイド服姿の四人が並んで撮られ、もう一枚はメイド服姿の凛が一人で立っている写真である。
「纒さんから、市報の取材のお礼ということで、みんなの分の写真をくださったんです。」
「写真がすっごい上手だよね!みんな、とってもかわいいよっ!」
「まあ、あたしが一番イケてるけどねっ!」
「…ふふっ…。」

写真の中の凛は、少し照れくさそうな顔で写っている。
「…ありがとう。良い経験になったわ…。」

「…そ、それと〜…。」
「…何?」
咲子が、またおずおずと切り出した。

「…今回のイベントが評判が良くて、第二回をやってくれないかという要望がすごく多いんです…。それで…、また協力してくれないかな〜って…。」

ゴンッ!
凛が机に頭を打った。

「凛ちゃん、またやろうよっ!」
「一回やったんだし、次は完璧だしっ!」
まり花と一舞は、もう乗り気である。

「…も…、…もう、勘弁して…。」
凛は薄れゆく意識の中でつぶやいた。


終わり。

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