研究室20周年を迎えて-④ [肺疾患研究・国際共同研究]
こんにちは。熊本大学薬学部、准教授の首藤です。
第4回目は、難治性遺伝性肺疾患研究からCOPD研究への道のり、国際共同研究の展開について、共有してみたいと思います。
第1回目の記事は、こちら。
(記念事業の趣旨説明、この記事(note)で何を目指すか?)
第2回目の記事は、こちら。
(甲斐広文教授について)
第3回目の記事は、こちら。
(創薬研究の醍醐味と物理療法)
なお、今回の記事においても、研究室出身で、アカデミアで活躍される方々については、具体的な名前が登場しますが、ここではご紹介できない多くの方々の成果でもありますので、予め申し添えておきます。
1. 難治性遺伝性肺疾患研究からCOPD研究への道のり、国際共同研究の展開
甲斐先生の学生時代〜教員時代、熊本大学薬学部の薬理学(薬物学)研究室は、日本でも有数の、呼吸器疾患研究(特に粘液制御研究)のメッカでした。多くの製薬会社が、この研究室で得られたデータを臨床開発に活用する、そのような時代を過ごされたとのことです。ここでは、その後、どのようにして、現在の肺疾患研究へと至ったのか?について、要約してご紹介します。
[肺疾患研究の歴史とJian-Dong Li先生との共同研究]
私が研究室に入った頃は、留学から帰ってこられた甲斐先生が、現在、広島大学で教授をされる千原氏、くまもとファーマ取締役の久恒氏、関西学院大学准教授の関氏、本研究室助教のアン氏、崇城大学講師の中村氏、大阪大学助教の田浦氏らとともに、肺の上皮細胞分化に関わる因子として同定したMEF(myeloid elf-1 like factor)に関する研究を推進していました。
また、難治性遺伝性肺疾患である嚢胞性線維症(Cystic fibrosis: CF)研究を立ち上げられた時期でした。このことが、まさに、今でこそ本研究室の永遠のテーマとなった「遺伝子疾患研究」の基盤となりました。原因遺伝子であるCFTR(Cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)の細胞内品質管理における分子シャペロンの役割やその調節薬開発のための、数々の基礎研究が進みました。
ちょうどその頃、私も、甲斐先生のお取り計らいにより、気道上皮-宿主免疫応答の新進気鋭の若手研究者であった、Jian-Dong Li博士(当時、House Ear Institute、現在Georgia State University)のもとで、呼吸器疾患研究を行っており、幸いにも、多くの研究成果を得ることができました。
・Jian-Dong Li博士(Georgia State University)
甲斐教授の留学時代の同志、Jian-Dong Li先生です。私は、甲斐研究室第1号として、Li先生のもと(当時、HOUSE EAR INSTITUTE、Los Angeles、USA)に留学することができました。ここで得られた経験は、かけがえのないものとなり、甲斐教授が目指す「できるだけ若いうちに海外を経験する」ことの大切さを、肌を持って感じてきました。Dr.Liラボには、これまでに15名以上の大学院生を派遣しました。現在も、複数の研究者(小松氏、亀井氏ら)が、同ラボで活躍中です。また、熊本大学病院薬剤部の准教授で大活躍中の城野氏もDr.Liラボを支えた重要なメンバーです。そのほかにも、吉田氏(九州保健福祉大学准教授)、古賀氏(熊大発生医学研究所)、田崎氏(東京理科大学助教)らも、アカデミアで活躍中です。なお、Dr.Liラボで経験を積んだメンバーは、現在、製薬会社等の各方面でも活躍中です。
・甲斐広文×研究室大学院生×首藤剛=COPDモデルマウスの構築
帰国後、私は、甲斐教授のもとで助手になり、CF研究テーマに関わるようになりました。この頃より、多くの大学院生の力もあり、気道上皮細胞における自然免疫・炎症応答に関する多くの研究成果を挙げました。この当時、toll-like receptorに関する研究で活躍した渡邉氏は、現在、山口大学で助教として頑張っています。
また、遺伝性疾患であるCFの研究から、患者数が多い慢性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)研究へと展開することができました。これらの仕事は、下記のプレスリリースなどからご理解いただければと思います。
・慢性閉塞肺疾患、創薬研究が進展! 忠実なモデルマウス作製に成功
粘液貯留を安定的に呈する慢性閉塞性肺疾患 (COPD) モデルマウスの確立に成功しました。また、「酸化ストレス」を抑制する既存の抗酸化薬N-アセチルシステイン (NAC) と、抗酸化ビタミンであるビタミンC (VC) が、このモデルマウスの症状の進展に関与することを明らかにしました。さらに、「セリンタンパク質分解酵素」を抑制するONO-3403が、高い治療効果を発揮することを明らかにしました。
・肺難病疾患において亜鉛の供給メカニズムの破綻が病態に影響している事が判明
肺の難病である嚢胞性線維症 (CF)、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の原因追求に取り組み、必須微量元素の一つ「亜鉛」の肺細胞への運搬異常が、閉塞性肺疾患の病気の進展に重要であることを世界で初めて明らかにし、その詳細な機序に亜鉛トランスポーター (Zip2) mRNAの連結異常 (mRNAスプライシング異常) が関わることを証明しました。
・女性における尿酸高値の意外な功名―加齢・病態時の肺機能を保護する作用―
痛風や腎障害を引き起こす悪者という印象の強い尿酸。そんな尿酸の意外な作用として、加齢や肺疾患に伴う「女性の」肺機能低下に対して保護的に働くことが示されたという。マウスおよびヒトの細胞を用いた実験と、ヒト疫学データの解析を実施しました。本学薬学部、猿渡教授、鬼木准教授との共同研究です。
・高齢者の肺機能の維持に重要な新たな因子を同定― DsbA-Lの多彩な作用点が明らかに! ―
本学薬学部、猿渡教授、鬼木准教授との共同研究により、生体内タンパク質DsbA-L (Disulfide-bond-A oxidoreductase-like protein) が、血液中や肺組織中の抗酸化機能を高めるとともに、脂肪細胞中のアディポネクチンの機能を高め、高齢者の肺機能維持に重要な役割を担うことを発見しました。今後、DsbA-Lの活性化や遺伝子多型に注目した研究を実施することで、健康増進や肺疾患治療への応用が期待されます。
[国際共同研究による横断的研究の実施と人財育成]
Dr. Jian-Dong Liラボとのコラボレーション以降も、戦略的に海外グラントを獲得し、新進気鋭の海外の研究者ら(下記ご紹介)と国際コラボレーションを推進してきました。その結果、これまでに、大学院生やスタッフ、合計約30名を海外に派遣することができました。
・Gergely L. Lukacs(McGill University)
CFTR研究の第一人者。嚢胞性線維症(CF)の根治療法薬開発のための礎を構築された先生です。これまでに、3名の大学院生を派遣しました。同3名のうち、沖米田氏は、現在、関西学院大学にて教授、福田氏および甲斐-福田氏は、スタッフメンバーとして活躍中です。
・Dr. Kwang Chul Kim(University of Arizona College of Medicine)
現在は第一線を退かれましたが、粘液遺伝子Muc1の世界的権威です。これまでに、5名以上の大学院生を派遣しました。現在は、派遣したメンバーの中から、加藤氏が基盤を引き継いで活躍中です。同ラボに留学した、上野-首藤氏は、崇城大学の講師、新堀-南部氏は、研究員としてシンガポール在住です。
すでに、惜しまれて他界されましたが、気道上皮細胞の培養とCF等の遺伝性難病に関わる遺伝子治療研究の世界的権威です。これまでに、3名の大学院生を派遣しました。現在は、派遣したメンバーの中から、鈴木氏が、研究を継続して活躍中です。
・Dr. Jeffrey H. Miner(Washington University School of Medicine)
Glomerular basement membrane (GBM) 研究の第一人者。アルポート症候群などの難治性腎疾患に対する基礎・臨床研究を精力的に研究されている先生です。これまでに、1名の大学院生を派遣し、現在も、ポスドクとして活躍中です(大町氏)。
・Dr. Yasuko Iwakiri(Yale University)
肝臓疾患に対する基礎・臨床研究の第1人者です。これまでに、2名のスタッフを派遣し、現在、熊大教授である猿渡氏と熊大助教の前田氏は、本学の教育・研究で大活躍中です。
この記事では、本研究室の難治性遺伝性肺疾患研究からCOPD研究への道のり、国際共同研究の展開について、共有しました。次回は、私たちがこれまで取り組んできた細胞内品質管理・分子シャペロン研究からプロテインフォールディング病研究のメッカへについて、ご紹介いたします。
次回を、お楽しみに〜!
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"研究室20周年を迎えて(熊本大薬・遺伝子機能応用学)"の全シリーズのリンク
第1回目の記事は、こちら。
(記念事業の趣旨説明、この記事(note)で何を目指すか?)
第2回目の記事は、こちら。
(甲斐広文教授について)
第3回目の記事は、こちら。
(創薬研究の醍醐味と物理療法)
第4回目の記事は、こちら。
(難治性遺伝性肺疾患研究からCOPD研究への道のり、国際共同研究の展開)
第5回目の記事は、こちら。
(細胞内品質管理・分子シャペロン研究からプロテインフォールディング病研究のメッカへ)
第6回目の記事は、こちら。
(基礎研究の醸成から、ミッション・ビジョン戦略の導入で、本気の創薬や事業の出口化を目指すステージへ)
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