「ニューヨークへ行くなら、JFK空港から入らなければいけない。空港からA列車でマンハッタンへ入るのが、通のやり方だ。」 中学生のころに通っていた学習塾のS先生は、…
あの日出会った8歳の少女は、もう18歳になるんだ。 ◆◆ 「列車は全て運休です。焦らずに駅構外に避難してください。」 新宿駅ホームに停車する中央線の車内にアナウン…
降り注ぐ太陽の熱を遮るものは何もない。コルドバ駅前の広場は、ターミナル駅とは思えない静けさで、動くものといえば日陰を求めてうろつく数匹の猫くらいのものだった。 …
昼時、満席のパブでやっとのこと席を見つけた。 イギリスにきて半年、ぼくはまだ、悪名高い“マズいイギリス飯”に出会ったことがない。なるほど確かに、口に運んで違和感…
不揃いな石畳の凹凸に、黄色い街灯が影を刻む。直線的で無機質な建物の外観とは裏腹に、バーカウンターに所狭しと並ぶボトルの曲線は、店内がどこか、プラハの街並みから切…
ロンドンに留学してはじめての友達はイタリア人のクラスメイトだった。 やや小柄だが鍛えられた身体の色男で、自身に満ち溢れている。美味しい料理とレーシングバイクが大…
NYCのメトロカードがいよいよ廃止になるらしい。 これはニューヨークのメトロ乗車に使えるプリペイド式のカードで、日本で言えば交通系ICとほとんど同じ機能を持つが、そ…
最後までお付き合いいただいた方も、 フラッと立ち寄り読んでいただいた方も、 ありがとうございました。 文字数にして実に2万を超える大作(?)になりましたが、まだ…
「うーん、まず、はじめに言うと…。」 Casaのホストファザー、ジョージは少し間をおいてぼくの質問を訂正する。 「キューバは貧しい国だ。“裕福な人”なんていない。」 …
フェリーを待つ間、隣に立つ女性が持つ小さな花束、いや、正確にはその花を包む新聞紙に目を奪われていた。新聞は、日本の、それも2020年発行のものだった。彼女はぼくの視…
小雨模様のハバナ、ミラマル地区。観光客にとっては特に用もない界隈で、一台のLADAがガタゴトと車体を路肩に寄せる。助手席にすわるマリアは、窓から歩道を歩く人に声をか…
ビニャーレス二日目の朝は快晴で気温も高い。同宿のフランス人夫婦、スペイン人夫婦とぼくの5人で食卓を囲む。彼らもやはり、2~3週間の旅程を組んでいるそうだ。哀れ日本人…
長距離バスがビニャーレスに到着すると、大勢の人だかりができた。降車する観光客をつかまえては、“Casa?“、”Stay for a night?“と尋ねている。ぼくはなんとかやり過ご…
そろそろ日も暮れる頃合い、一度宿に戻ろうかと広場に続く信号を待っていると、ふと視線を感じた。 ちょうど、通りを挟んで信号を待っている男が明らかにこちらを見ている…
軽い散歩のつもりが、いつの間にか旧市街を横断していた。 やや雲が多いものの、通りには暖かい日差しが差し込む。観光客向けのバー、土産屋から地元民のためのマーケット…
キューバでの宿泊はホテルではなく、Casaと呼ばれる、言わば民泊が主流になる。街中には目印となる錨のマークを掲げる家が多々あり、実際に訪ね、部屋を見てその日の宿を決…
tshkmr
2021年4月10日 22:08
「ニューヨークへ行くなら、JFK空港から入らなければいけない。空港からA列車でマンハッタンへ入るのが、通のやり方だ。」 中学生のころに通っていた学習塾のS先生は、授業中によく本筋を脱線させては、色々な話を聞かせてくれた。冒頭の言葉もいつだかの授業の小話の一部だと記憶しているのだが、このフレーズが妙に心に残っていた。前後の文脈こそ忘れたものの、この言葉に宿るこだわり、旅情の様なものが気に入ったの
2021年3月14日 11:32
あの日出会った8歳の少女は、もう18歳になるんだ。◆◆「列車は全て運休です。焦らずに駅構外に避難してください。」新宿駅ホームに停車する中央線の車内にアナウンスが響く。人々は存外に落ち着いており、慌てることなく避難を始めた。ぼくも列車を降りようと席を立ったとき、ふと、ひとりの女の子が目にとまった。電車通学をする小学生らしい、不安の色を浮かべる瞳はまっすぐ正面を見つめ、身体は強張って座
2021年2月24日 21:10
降り注ぐ太陽の熱を遮るものは何もない。コルドバ駅前の広場は、ターミナル駅とは思えない静けさで、動くものといえば日陰を求めてうろつく数匹の猫くらいのものだった。その日のうちに別の列車に乗り継ぐ予定だが、せっかくだし、と、取りあえずは観光名所になっている橋を目当てに歩を進める。特段、この紀元前に建てられたとかなんとか言う橋に興味があるわけでもないのだが、“このあたりを目指して“とゴールを決めてしま
2021年2月16日 18:50
昼時、満席のパブでやっとのこと席を見つけた。イギリスにきて半年、ぼくはまだ、悪名高い“マズいイギリス飯”に出会ったことがない。なるほど確かに、口に運んで違和感を覚える味には何度も出くわしたけれど、それはあくまで“口に合わない”といった程度で、そもそも食文化が違う以上当然のことだろう。これをもって一国の食事全てを掃いて捨てるようにマズいと言うのはお門が違う。とはいえ、このままでは大した土産話
2021年2月10日 21:38
不揃いな石畳の凹凸に、黄色い街灯が影を刻む。直線的で無機質な建物の外観とは裏腹に、バーカウンターに所狭しと並ぶボトルの曲線は、店内がどこか、プラハの街並みから切り取られた異空間のような印象を与える。明日にはこの街を離れ、列車でドイツへと入る。ビールと言えばドイツ、というとそうでもなくて、こと、黄金のピルスナータイプについていえばチェコこそ本場と信じている。手に持ったグラスの最後の一口を飲み
2021年2月1日 18:51
ロンドンに留学してはじめての友達はイタリア人のクラスメイトだった。やや小柄だが鍛えられた身体の色男で、自身に満ち溢れている。美味しい料理とレーシングバイクが大好きで、ローマに残した女優のように美人な彼女がもっと大好き。典型的な”熱血イタリア男”といった風だ。留学当初、すっかり自分に自信を無くし塞ぎ込んでいたぼくとは対照的で、いつも一緒に過ごしてくれるのはありがたくもありながら、当時のぼくの
2021年1月23日 22:24
NYCのメトロカードがいよいよ廃止になるらしい。これはニューヨークのメトロ乗車に使えるプリペイド式のカードで、日本で言えば交通系ICとほとんど同じ機能を持つが、その仕様は一昔前の定期券のような、磁気式で改札に通すタイプのカードだ。この”改札に通す”がなかなか曲者で、力加減、タイミングなど少しでもズレれば改札は開かない。10年ほど前、ぼくが初めての海外一人旅としてNYCに渡航する際、送り
2021年1月20日 20:56
最後までお付き合いいただいた方も、フラッと立ち寄り読んでいただいた方も、ありがとうございました。文字数にして実に2万を超える大作(?)になりましたが、まだまだ詰め込みきれないエピソードは沢山ありました。今でも思い返せば現地の空気が鼻をくすぐるように思い出される、とても印象的で楽しい思い出です。旅行好き、の目線で言うと、現地の方との出会いももちろん楽しいのですが、キューバでは世界
2021年1月19日 20:29
「うーん、まず、はじめに言うと…。」Casaのホストファザー、ジョージは少し間をおいてぼくの質問を訂正する。「キューバは貧しい国だ。“裕福な人”なんていない。」ぼくはハッとして、すぐに自身の言葉選びを悔いた。もう一度、細かいニュアンスまでうまく伝わるよう、慎重に言葉を選びながら、繰り返す。「ごめん、なんて言えばいいのか。つまり、この国の人々には、この国において普通の生活水準の人と、“あ
2021年1月18日 19:58
フェリーを待つ間、隣に立つ女性が持つ小さな花束、いや、正確にはその花を包む新聞紙に目を奪われていた。新聞は、日本の、それも2020年発行のものだった。彼女はぼくの視線に気づくと、納得したように口を開いた。「日本人なのね。今日、日本の有名な華道家のセミナーがあったの。その手土産に貰ったのよ。」ぼくがしたかった質問と、その答えまで先回りして説明してくれた。「綺麗でしょ?」「ホントだね、いい香りだ
2021年1月17日 19:48
小雨模様のハバナ、ミラマル地区。観光客にとっては特に用もない界隈で、一台のLADAがガタゴトと車体を路肩に寄せる。助手席にすわるマリアは、窓から歩道を歩く人に声をかけ、どうやら道を尋ねている様子だ。ぼくは狭い後部座席で、気まずさから必要以上に身体を縮めて、単語のひとつもわからないスペイン語のやりとりを聞くほかない。ちょうど一日前のいまごろ。ぼくはあろうことか、長距離バスの車内にデジカメをおいて
2021年1月16日 22:59
ビニャーレス二日目の朝は快晴で気温も高い。同宿のフランス人夫婦、スペイン人夫婦とぼくの5人で食卓を囲む。彼らもやはり、2~3週間の旅程を組んでいるそうだ。哀れ日本人は、わずか一泊でハバナへと戻る。帰りのバスは14時の予定、ぼくは午前中をトレッキングに充てることにした。どうやら、ぼくはこのビニャーレスがすっかり気に入ったらしい。目を見張る絶景にのんびりとした時間が、雑多なモザイクのような首都ハバ
2021年1月15日 12:47
長距離バスがビニャーレスに到着すると、大勢の人だかりができた。降車する観光客をつかまえては、“Casa?“、”Stay for a night?“と尋ねている。ぼくはなんとかやり過ごし、手近なレストランで急いで昼食を済ませると、そのまま町はずれへと向かった。何を決めるでもなく、気ままな旅にしようと、“計画がないのが計画“だった今回の行程も一つだけ例外があった。乗馬である。カリブ海の宝石と謳わ
2021年1月14日 15:13
そろそろ日も暮れる頃合い、一度宿に戻ろうかと広場に続く信号を待っていると、ふと視線を感じた。ちょうど、通りを挟んで信号を待っている男が明らかにこちらを見ている。洗練された雰囲気に人懐っこい笑顔を浮かべているが、パーカーのフードを目深に被り、どこか人の目を気にしているようにも感じられる。厄介ごとはご免だな。青になった信号をはや足で渡り切ってしまおうと歩き出すと、男は案の定こちらに向かって来るでは
2021年1月13日 21:43
軽い散歩のつもりが、いつの間にか旧市街を横断していた。やや雲が多いものの、通りには暖かい日差しが差し込む。観光客向けのバー、土産屋から地元民のためのマーケット、木材加工場やミシンの作業場など、あらゆる建物が雑多に並ぶ。潮風がどこからともなく音楽を運び、ひとりながらとても愉快な心地になれた。昼前に旧市街に見つけたCasaに荷物を移動し、近くのカフェに入る。しばらく通りをぼんやりと眺めたのち、
2021年1月12日 22:21
キューバでの宿泊はホテルではなく、Casaと呼ばれる、言わば民泊が主流になる。街中には目印となる錨のマークを掲げる家が多々あり、実際に訪ね、部屋を見てその日の宿を決める。ホテルはむしろ裕福な旅行客をターゲットにしており、ハバナ市内であれば東京に匹敵する価格をつけていることから一人旅などではあまり便利ではない。とはいえ、ぼくの場合は深夜着となる初日に限って、事前に格安(といっても¥7000-程度)