1/2(木) 「自然栽培だから、何なのよ?」
「自然栽培だから、何なのよ?」
その言葉は、まるで心の奥深くを撃ち抜く矢のようだった。
14年前、農業を始めてわずか1年目の秋。
東京都飯田橋のスーパー軒先で
初めて自分が育てた農作物を販売したあの日。
あるお客様が投げかけたその言葉は、今でも忘れられない。
「自然栽培」ーーそれを口にするだけで買ってもらえると思っていた自分。
自然環境や健康に良い、と表面だけのセールストークを並べ、
その先にいる人の生活や価値観を思いやることを忘れていた。
「確かに、そうだ。」
怒りではなく、ただその言葉が心にストンと落ちた瞬間だった。
「この人の暮らしにとって、自分の野菜はどんな意味があるんだろう?」
その問いが胸の中に静かに湧き上がった。
その日の売り上げはわずか500円。
交通費や宿泊費を考えれば、大赤字どころの話ではない。
けれど、あの一言が私に問いかけてくれた。
「誰のために、何のために、この道を進むのか?」
ただ「自然栽培だから」と自分の信念だけを押し付けていなかったか?
作り手として、目の前にいる人のことを本当に見ていただろうか?
その日から、私の中で何かが変わり始めた。
あの言葉は、痛みとともに私を成長させてくれた。
人生の中で、ときに突きつけられる厳しい問い。
それはきっと、私たちを人として大きくしてくれる贈り物なのだろう。
あの日の出来事がなければ、
私は今もなお、同じところで足踏みしていたのかもしれない。