つくば・市民ネットワーク様 【HPVワクチンに関する小森谷議員の議会発言についての質問状】

 つくば市議会の6月議会において、市議会会派「つくば・市民ネットワーク」に属する小森谷さやか議員がHPVワクチンに関する質問を行いました。それに関して、一市民である私から質問状をつくば・市民ネットワークに対して送付いたしました。以下がその全文です。

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 つくば市民の佐々木徹と申します。つくば市議会6月議会において貴会派所属の小森谷さやか議員がHPVワクチンに関して質問を行いました。子宮頚がんあるいはHPVワクチンに関して事実の認識において著しい誤りがあり、これを放置することはつくば市民の健康に悪い影響を及ぼしかねないと考え、小森谷議員のfacebookページで質問し(7月2日)、一度回答をいただきました(7月3日)が納得できるものではなかったため再質問いたしました(7月5日)ところ、本日(7月18日)にいたるまで回答をいただいておりません。そこで、小森谷議員の議会での発言が貴会派としての考えなのか確認させていただいたうえで、その発言内容に含まれる誤りを指摘して貴会派としての考えを問いたいと思います。

1. 【総論】6月議会における小森谷議員の発言のポイントとして次のものがありました。
 ・HPVワクチンは0.007%つまり10万人に7人にしか有効でない。
 ・HPVワクチンが子宮頚がんを予防する効果は証明されていない。
 ・子宮頚がんは検診をきちんと受けていれば、局所的な手術で取り除くことで妊娠も出産も可能だ。
こうした発言内容は貴会派としての認識、意見でもあるのでしょうか。

2. 【各論1】「HPVワクチンは0.007%つまり10万人に7人にしか有効でない。」との発言について伺います。
 この0.007%は、6月議会で保健福祉部長が触れた平成25年の国会における厚労省の答弁の、①HPVに感染してからウィルスは90%が2年以内に排出される、②前がん病変の90%は3年以内に消失する、③HPVに感染している女性は16型で0.5%、18型で0.2%、の3点を根拠にして推定できると小森谷議員は述べています。つまり16型と18型のHPVに感染している女性の割合0.7%に、感染から前がん症状に移行する割合0.1、さらにそこからがんに進む割合0.1をかけることで0.007%になると説明しました。これは誤りです。この平成25年の国会において質問したはたともこ氏も同様の論理で0.007%の数字を挙げていますが、厚労省も上記3点は確認したものの、この算式の考え方と結果の数字は何も確認しておりません。根拠となった琉球大学の論文によると、0.5%や0.2%の数字は細胞診で異常のなかった人の中での感染率で、しかも広い年齢層(18~85歳)の平均です。長く感染が続いた高年齢の人は既に前がん症状に進んだと想定され、調査の対象として外されていることから、この0.7%を感染する人の割合と見ることは不適切です。また感染しても多くの場合ウイルスが排出されますが、感染率0.7%は既に排出をかなり受けた結果の数字と考えられます。0.7%をベースとして感染から前がん症状に移行する割合0.1をかけるのは誤りです。感染率としては0.7%ではなく、生涯でHPVに感染する割合を使うべきです(メタモル出版、NATROM著「『ニセ医学』に騙されないために」p59-62参照)。50歳までにHPVに感染するという割合は80%以上という推計もあり (厚労省平成29年資料)、2桁も小さいことは明らかです。
 そもそも女性は生涯で1.2%程度が子宮頚がんに罹ると言われております。子宮頸がんの50~70%がHPVの16型か18型によるものとされることから、全女性の0.6~0.8%程度が16型か18型のHPVによって罹患すると推定できます。小森谷議員が言及した0.007%という数字がいかに荒唐無稽なものであるか、簡単な計算から直感的にわかります。誤った仮定を置いてHPVワクチンの効果を2桁も過小評価しているといわざるを得ません。
 そこで伺います。以上の考察からHPVの効果を0.007%と推定する根拠はないと考えますが、いかがでしょうか。小森谷氏の主張する数字を肯定している医師はいるのでしょうか。

3.【各論2】「HPVワクチンが子宮頚がんを予防する効果は証明されていない。」との発言について伺います。
 子宮頸がんは、ウィルス感染から10年といった長い期間を経て発病します。ワクチンの接種が始まってまだ短い期間の中では、子宮頸がんの発病数の変化から効果を示すことができないのは当然です。そうした中でも接種を開始したのはHPVの感染を防ぐ効果が認められたからです。子宮頸がんの発病がHPV感染を経るという医学的知識のある中で、HPVワクチンが感染を防ぐ効果が認められているなら、子宮頸がんの予防に効果があると期待するのは当然の論理的帰結でありましょう。
 また、すでに海外では10年前後のHPVワクチン接種の歴史があり、各国で国レベルでの効果の検証が進んでいるところです。最近、英国の放送局BBCが報じたところによると(https://www.bbc.com/news/health-48758730)、計6千万人を対象とした65の研究を総合的に評価した結果、16型および18型HPVの感染件数、前がん病変件数がともに大幅に減少しているとの結論を得ました。これにより、向こう数十年で子宮頸がんの発症件数が大きく下がり、撲滅できる可能性もあると述べています。HPVワクチンは子宮頸がんの予防を実証する段階にすでに近づいていることを示しています。世界が子宮頸がんの撲滅に向かう中で、日本だけが毎年3000人近くの患者が死亡するのを座視してよいのでしょうか。
 お伺いします。これだけHPVワクチンが子宮頸がんを予防することを期待できる証拠が蓄積されつつあります。こうした研究をどのように評価されるのでしょうか。それでも証明されていない、と言い続けるのでしょうか。

4.【各論3】「子宮頚がんは検診をきちんと受けていれば、局所的な手術で取り除くことで妊娠も出産も可能だ。」との発言について伺います。
 小森谷議員は6月議会において、「子宮頸がんはゆっくり進行するので2年に1度検診を受ければ十分対応可能で、細胞の異常がひどくなる前に発見できれば局所的な手術で除去でき妊娠・出産も可能」の旨の発言をしました。しかし、局所的な除去手術で対応できたとしても、早産・未熟児など妊娠トラブルのリスクは高まります。また検診では見つけづらいタイプのがんが2~3割あること、手術の結果予想より進行している場合もあることから、子宮摘出を行わざるを得ず、その後は後遺症に苦しみ、治療の甲斐なく亡くなる方もいます。これは産婦人科医からの情報です(https://note.mu/totb1984/n/nc7d26ba47f48)。
 小森谷議員はさらに「細胞診とHPV検査を併用すれば診断の精度もほぼ100%まで上がる」旨の発言もしました。これも誤りです。見逃しがないとされる、細胞診とHPV検査の併用は30歳以降で推奨されています。性的活動が活発な30歳未満は一過性の感染が頻繁に起こっており、過剰な検査や治療を招くため推奨されていません(メタモル出版、NATROM著「『ニセ医学』に騙されないために」p62-64参照)。
 このように検診だけでは不十分であり、また現在のHPVワクチンでは防げない型による子宮頸がんもあるために、検診とワクチンは子宮頸がん対策の車の両輪として求められるわけです。これらの事実を無視して、子宮頸がんは検診さえ受けていれば問題がないかのような言説を吹聴するのは無責任以外の何物でもありません。
 今指摘した内容について、貴会派はどのように認識しているのでしょうか。考えをお聞かせください。そしてそれは、専門の医師に正しいと確認を得たものかどうかをお聞かせください。

 質問は、以上の4項目です。

 小森谷議員は、HPVワクチンの重篤な副反応疑いの事例を議会で紹介し、こうした副反応のリスクと子宮頸がんの予防効果を天秤にかけて判断できるように広報における情報提供の充実を求めました。しかし、副反応疑いとして取り上げられる症状は多様で、これらがHPVワクチンの副反応であるのかについては大いに議論のあるところです。副反応の実態を明らかにすべく名古屋で広範に行われた調査の結果、ワクチンの接種と問題の症状の間に関連性は見いだせなかったとの結論が出され、論文として発表されています。小森谷議員はこの論文に関して問題点を指摘した薬害オンブスパーソン会議の見解を紹介し、自分はこの立場に立っていると自分のfacebookページで表明していますが、論文に反論するなら論文で答えるべきで、それが為されていない状況では何の説得力もありません。小森谷議員はHPVワクチンのリスクを過大に評価し、効果を過小評価していると言わざるを得ません。
 厚労省がいまだに積極的な勧奨を中止したままでいることは誠に遺憾なことですが、定期接種であることに変わりはなく、対象の子どもたちは無料でHPVワクチンの接種を受けることができます。接種を受ければ将来子宮頸がんにかかるリスクを減らすことができるのに、国による積極的な勧奨が中止されていることで対象の子どもに案内さえ届かず、接種率が1%を下回っているのが現在の状況です。国の態度にしびれを切らし、岡山県、静岡県、栃木県では各地の医師会等がHPVワクチンの接種を積極的に勧める動きも最近出てきているという話も聞きます。こうした中、科学都市ともいわれるつくばにおいて、HPVワクチンの接種率が上がってきたからと、これを止めようという働きかけが市議会で起ころうとは、市民として誠に恥ずかしく、また怒りを覚えます。特に一般の方からは医療に関して専門家と見なされ、信頼が寄せられる薬剤師の資格を持つ小森谷議員からこの質問がなされたことは社会的な影響も大きく残念というほかありません。是非日本産婦人科医会をはじめ、子宮頸がんの専門医に意見を求め、子宮頸がんの自然史からHPVワクチンを取り巻く状況について、曇りのない目で勉強されることを切に願います。ことは多くの市民の命につながることです。
 今回の小森谷議員の発言はツイッター上で話題になり、全国の専門医をはじめこの問題に関心を持つ多くの人がつくば市での成り行きを注視しています。貴会派におかれましては、ここで述べましたことを真剣に受け止め、冷静かつ慎重に科学的な事実を確認した上で、私の質問に答えてくださることを期待しております。

 なおこの手紙は、市議会での答弁から見てHPVワクチンについての認識が十分とは言えない市当局の施策に反映されることを願い市当局にも伝えますとともに、広く市民の関心につながることも期待して公開させていただきます。また、お答えいただいた内容についても公開させていただきたくご了解願います。
 回答の期限はこの手紙が届いてから2週間とさせてください。もし、資料の確認、検討に時間がかかるようでしたら、期限を延長することにやぶさかではありませんので、期限内にご連絡いただければと思います。

 よろしくお願いします。
                    令和元年7月18日
                    佐々木徹

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