島第2弾、青ヶ島道中記その3


いよいよ港から集落へ向かう。青ヶ島の集落は外輪山の外側にあるのだが、港から向かうには、一回カルデラ内部に入ってまた出ないといけない。外輪山の外側を通る港と集落を直接結んでいる道は、2001年に崩落してしまって以来不通になっている。船から見た、崖の上にある道だ。googlemap上ではまだ通れることになっている道だ。地図で見ているだけだと、なんでここに道がないんだろう、早く直せばいいのにと思えるが、実際見ると、むしろ一回でもよくここに道を通したな、と逆に感心してしまう。航空写真などで島の全景を見ればわかるが、島の外側はとんでもなく急な崖な上に、脆い地質らしく、いたるところで地滑りを起こしているのである。こんな、ちょっとコンクリで固めたくらいではすぐ崩れてしまうようなところによく道とか港を作るもんだ。。。しかし、島の周囲はそんなところしかないので、どこかに道を、港をつくるしかないのである。そしてそんな島に昔から人は住んでしまっているのである。いまさら移住しろって言ったってそうは簡単にいかないのである。そのジレンマが島全体からひしひしと感じられる。
これで都合3回目となる青宝トンネルを通って外輪山を通り抜けていく。そういえばカルデラ内部のことを池の沢地区というのであった。昔江戸時代、噴火があって50年間くらい無人島になるまでは、そこに大池、小池という二つの池があったというのが地名の由来らしい。いまや跡形もなく、むしろ山になってしまっているが。車は池の沢地区を過ぎ、カルデラから集落へ抜ける平成流し坂トンネルへと向かう。丸山のお鉢巡りをしていたときに見えた、青宝トンネルのちょうど対角くらいにある、カルデラから外輪山外側の集落へ向かって登っていくこれまた外輪山を貫くトンネルが、平成流し坂トンネルだ。べつに昭和流し坂トンネルがあるわけではないのだが、外輪山の表面を九十九折で登っていくこれまた激坂の流し坂、という名の旧道は残っている。その旧道、地図には車通行禁止・徒歩でもお勧めしません、と書いてあり、それはそれで興味のそそられる道である。しかし、今日はスルー。明日行こう。まずはおとなしく集落へのメインかつ唯一のルートである平成流し坂トンネルを登っていくことにする。
トンネルに向かう途中(ここもベタ踏みだけど20km/hでなかった)、途中大型が対向してきたので、坂の途中でバックすることになった。もたもたしてしまったので怒られるかな、と思っていたら、なんか運転席のおっさんがにこにこしながらこっちをみている。レンタカー屋のおやじだった。手を振りながらすれ違う。青宝トンネルばりに狭く急なトンネルを抜けると、一気に外輪山の稜線上に出る。右手に海も見えるが、だいぶ下のほうに見えるので高くまで登ってきたことを実感する。道も規格が上がって二車線になり、集落が近づいてきていることを予感させる。予感した瞬間には集落の中心部っぽいところに来た。信号(島唯一)があるからここが中心なんだろう。
中心部にきたのなら我々にはすることがある。「しまぽ」だ。東京諸島を巡るとポイントがたまるスタンプラリーで、各島ごとにポイントが定められていて行きにくい島ほどポイントが高いのだ。青ヶ島は小笠原諸島と並ぶ30ポイント。しかし、青ヶ島のスタンプを押すにはもう一つハードルを越えないといけない。押せる場所が村役場しかなく、平日9時〜17時しか押せないのである。ただでさえ青ヶ島には行きづらいのに、平日そんな時間に青ヶ島にいる事はほぼ不可能に近い。土日を使って旅行する人は、たとえたどり着けたとしてもスタンプを押せないのだ。なぜそんなにハードルを上げるのか。70ポイントくらいくれ。とか思いつつ
役場に行くまでちょっと迷って、その間に市街地を一周してしまったが何とか着くことができた。入るとき、一瞬緊張する。というのも青ヶ島村役場は、5年ほど前に「青ヶ島村事件」の舞台となった場所だからである。
「青ヶ島村事件」
確実に連続殺人事件が起きてそうな名前だ。戸を開けたらどんな凄惨な現場が広がっているのだろう、と身構えて役場の建物に入ったのだが、殺人事件は起こっていないものの、役場の人が一斉にこちらを見てきてそれはそれで身構える。そして、小規模な村役場なので、アットホームな感じでみんな雑談とかしてるのかな、と思ったら、意外とみなさん黙って仕事をしておられたのが印象的だった。その中の一人に声をかけ、とりあえず「しまぽ」のスタンプをゲットすることができた。夏の牛祭りが有名ということで、牛の絵柄である。これでまた一つ目的を達成した。
ところで「青ヶ島村事件」だが、実際は殺人事件でもなんでもなく役場の職員が業務を押し付けられてミスをしたことによる解雇は不当として争った労働事件である。そのような事件がこの小さな島で起きていると思うとそれはそれで凄惨な気もするが、これ以上はそれほど触れないようにする。
さて、続いては忘れかけていたレンタカーを借りるための手続きである。もう借りてるけど。役場から30秒くらいでレンタカー屋についた。地熱釜でみた妙齢の女性二人組の車も近くに止めてあった。だいたい行動パターンは一緒である。
レンタカー屋に入ると、港にいたおっさんではなくやたら明るいお兄さんがいた。あと猫がたくさんいた。手続き中、説明はもう聞きましたか?と聞かれたので、おっさんは大して説明してくれてなかったけれども、「大丈夫です、あぶないところには行きません」と答えたらそれで説明は終了して無事車を借りることができた。もう乗ってるけど。
そのお兄さんと手続きというか雑談をするなかで知ったのだが、レンタカー屋兼ガソリンスタンドは向いにある島唯一の商店と同じ一族(おっさんとお兄さんの家族)がやってるらしい。青ヶ島の経済を握ってる一族だ…。温厚そうだけど怒らせると島で生きていけなくなるんだな…、などと恐ろしくなったりもしたが、逆にこの人たちも他の島の人たちに生かされているからまあ持ちつ持たれつなのかな、とも思ったりもする。
というわけで、レンタカーの手続きを終えたのでその足で青ヶ島経済を牛耳っている一族の経営する商店へ向かう。欽ちゃんみたいなおばあちゃんが店番をしていて、いろいろ話をしながら青酎や今晩のつまみを購入する。話を聞くと、昼間には、船で一緒になった妙齢の女性キャンパーが歩いてきて、プレミアム青酎を購入し、重いからとペットボトルに移し替えて持っていったらしい。青ヶ島で一人でキャンプする時点でなんとなくわかってはいたが、なかなか豪快な人である。そして、こんな感じで今日島にいるひとの行動が大体把握できてしまって面白い。
日暮れが近くなってきたので、日のあるうちに島の最高地点、大凸部(おおとんぶ)へと向かう。車で途中まで行き、そこから15分位は藪に近い道を歩いて登っていく。雨も降ってきた。ここは、外輪山の稜線上で、なんだか「君の名は」のあの祠の近くのような風景だ。周りが海で中が森なので、真逆ではあるが、雰囲気としてはとても似ている。そんなところに、こんな片割れ時に、おばっちゃん(34歳男)と2人で来てしまったことに愕然としつつも、頂上に登ってみると、いや、もう、それは、もう。360度海。そのなかにぽつんと浮かぶ二重カルデラの島、青ヶ島。その外輪山。内輪山。通ってきた流し坂。地熱釜。後ろを振り返れば高台に集落。その向こうにはジョウマンと呼ばれる地域にある牧場。脇には、土砂崩れの跡とそれをコンクリートで補強している崖。何時間でも見てられそうなくらい変化に富みかつ自然と人工物とが絶妙なバランスで混じりあっている美しい風景だった。余りに気に入ったので、結局2日目、3日目と毎日来てしまった。
とはいえ、もう少しいるとおばっちゃんと入れ替わってしまうかもしれないので、というか暗くて危なくなってしまうので、戻って宿にチェックインする。想像していた通りの和室6畳部屋だった。落ち着く感じでよい。テレビをつけてみると村内放送で、港の様子がリアルタイムに映し出されていた。これで、今日は欠航か就航かとか、を見るらしい。ひたすら映る港を肴にビールを飲んでいるとあっという間に飯の時間になった。飯は、期待通り島寿司が出た。うまい。あとは刺身もうまい。刺身につける島だれ(醤油とかいろいろに、唐辛子とかいろいろを漬け込んだ辛いたれ)も病みつきになるうまさ。幸せ。隣には昼間からちょいちょい一緒になる妙齢の女性二人組がいたが、結構豪快に青酎を飲んでいた。飯に満足し、部屋で金曜ロードショーでやってた魔女卓を見ながら青酎を飲んだ。おばっちゃんがキキは○○じゃなくなったから魔法が使えなくなったんだ、と力説してたのが印象的であった。
そんなこんなで一日目の夜は更けていった。明日は早朝から星空が見にいくということで朝5時起き。おやすみなさい。
(つづく)

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