島第2弾、青ケ島旅行記その2

いまだに年初の青ヶ島を反芻しながら生きている。
道中記はようやく青ヶ島に無事到着したところ。時刻はまだ1日目の12時半である。
早速青ヶ島第一のハイライト、島(現役)唯一の港、三宝港である。
写真で見ると、断崖と海に挟まれていかにも頼りなげにちょこんと島から突き出ている三宝港だが、実際降り立ってみると、想像以上に広く立派な岸壁と、断崖の高いところまで続く法面補強のコンクリートに圧倒される。広い港というのは、いろいろ見るが(それも見て迫力があるが)「高い港」というのはそうそうないのではないか。見ているとテンションが否応なく上がる。これを見るだけでも来て良かった。
小さい港とは言っても、50mとかそこらの長さの岸壁と200mくらいの高さがある。いくら金をかけているのかわからないが、とにかくでかい人工建造物だ。この無骨なスケール感、港大好き。
しかし、ここまでしないと港にならない、というようなほぼ崖みたいな場所であることも事実である。正直、港周辺の崖と港を作った場所との違いがわからない。よくここに作ろうと決心したなと思う。また、広いし、海面からも十分な高さがあるように見える岸壁だが、半分くらいの日は波を被ってしまい接岸できないことを思うと、自然は大きいよな、人ができることは大きいけど小さいよな、と感じたりもする。
船を降りて少し歩くと、レンタカー屋っぽい人がいた。レンタカーも島での楽しみの一つだ。基本的に本土にくらべてゆるいのだ。一番ゆるかったのは八丈島で、その時は港に車が人もおらずただ置いてあっただけだった。鍵はダッシュボードに差さっていて、勝手に乗って行ってください方式だった。そこまで極端なことはないかもしれないが、ここは青ヶ島、何が起こるかわからない。今回はどうだろうか。こんにちは、とそのレンタカー屋のおじさんに挨拶すると、
「昼ごはん、地熱釜で食べますよね?宿から昼ごはん預かってるので、手続きはそこでしましょう、とりあえず車に乗って、ついてきてください。鍵はウインカーのところにぶら下がってるから」
と、先制パンチを食らった。まずは港をしばらく探索しようかと思っていたが、そう言われてはしょうがない。とりあえず地熱釜に向かうことになった。しかし、鍵がウインカーのところにぶら下がってるってのはどういうことだ?と思ったら鍵が紐でくくりつけられて、確かにぶら下がっていた。これなら鍵をなくす心配もなくて安心だ。だが鍵としてそれでいいのだろうか。
そういえば、免許の確認とかも何もされてないが、それもいいのだろうか。都会にいると免許を持ってるとか持ってないとかしょうもないことを気にするようになってしまってよくないな、と思いながら、おじさんの車の後をついていく。
港を出ると、いきなり激坂の青宝トンネルである。軽のエンジンが唸りをあげながら登っていく。ベタ踏みでも20km/h出ないような坂である。20%くらい勾配あるんじゃないか。
外輪山を貫くそのトンネルを抜けて、カルデラ内部に入る。しかし道が細い。そして急。上りきれるのか、止まれるのかと不安になるような坂を上り降りしながら、カルデラ内部の地熱釜に到着。我々含めて4組6名くらいの客がいた。結果的には、それがおそらく今日青ヶ島にいる観光客のすべてだろうと思われた。
レンタカー屋のおじさんが、道の説明とか、車の説明とかをしてくれる。鍵はむしろ持ち出さず車に置いとくようにと言われた。どっかに止めてて邪魔だったりしたら勝手に動かすから、と。この鍵をかけない文化に3日間触れたが、最初は落ち着かなかったものの、慣れると楽で非常に良かった。しかしこれが基本動作として体に染み付いてしまったら本土でやってくの大変だろうなと思う。
では手続きを、と思ったら、夕方くらいにレンタカー屋の前を通った時にやってくれればいいから、と言われた。あれ?ここでやるってことで地熱釜まで来たんじゃなかったっけ、と思いつつもそんなことで動揺していてはいけない。重要なのは車を手に入れたことだ。
さて、昼ごはんを食べよう。青ヶ島には昼やっている飲食店がないので、基本的に宿が1日3食用意してくれるのである。僕らの時は、すでにレンタカーのなかに弁当、というかおにぎり、ウインナー、卵、野菜をホイルで包んだもの、魚をホイルで包んだもの、がカゴにまとめられて入っていた。ワイルドな弁当だ。こいつらを地熱釜で蒸しちゃうのね。
同じタイミングで地熱釜を使っていた妙齢の女性2人組からシュウマイをもらってそれも蒸す。蒸してる間、1人は走りに行き(どうやら翌々日の八丈島マラソンに出るらしい)、1人はタバコをふかしていた。見た目ふくめ、対照的なコンビで見てて面白かった。
僕らといえば、まずゆで卵ができるまでの20分間(食材によって蒸し時間が異なるのだ。一番最初にできるのは卵とウインナー)ただ付近をあてもなくフラフラとしていた。あたりには、地熱を利用した「ふれあいサウナ」(地熱釜の食材に人間がなってしまおうという試み)や、地面から蒸気が吹き出ているエリアなどがあり、フラフラとしているだけではあったが、意外とあっという間に時間は過ぎて、近くにある東屋に陣取り仕上がった卵とウインナーを食べることにする。味付けは、「ひんぎゃの塩」というこの地熱で海水を煮詰めて作った塩、のみ、だ。
うまい!!
前も書いたが、それ以上の語彙はない。食材がうまい。塩味がうまい。あったかいのがうまい。この外輪山に囲まれた周りの風景がうまい。そんな中外で食べる卵とウインナー最高。島のマップを見ながら、どこをどういう順番で回ろうか話すのがまたいいオカズになる。
そういえば途中、女性キャンパーが一人で地熱釜らへんまでさまよってきた。行きの船に乗ってた人だ。そいえば、船が着くなり大きいザックを背負ってあるいて行ってたなあと思っていたら釜のところにはずいぶん身軽な格好で現れたので、ウォーリーみたいな人だな、と思いつつ、道を教えてあげた。どうやらキャンプ場が地熱釜ちかくにあるらしいが、手続きは村の中心部にある役場でやらないといけないらしい。てことは3kmあるいて300mのぼるような道のりを往復しないといけないことになる。キャンプも楽じゃないな。しかしたくましい人だな、と背中を見送りながら思うが、早速最初の分岐で道を間違えかけてたので、ちょっと不安にもなる。
そうこうしているうちにシュウマイ他の食材も蒸しあがり、たいへんに贅沢なお昼を食べることができた。
と、のんびりしていたら、いつのまにか地熱釜にいるのは我々だけになってしまった。飯も食べ終わったので、ここから行動開始である。まず、一番近い丸山お鉢巡りをする。丸山というのは、青ヶ島のカルデラ内部にちょこんと突き出た山のことだ。かなりうっそうとした森の中で特段眺めがいいわけではなかったが、回ることに意義がある。江戸時代に噴火してすべて灰に埋もれてからここまでよく戻ったもんだ。ただ、おばっちゃんにはそんな刺さらなかった場所だった。
おふじ様という、丸山にある神社から周りを見渡すと、カルデラ内部の地形がよく分かる。さっきいた地熱釜付近も下の方に見える、港からきた道も…と思ったらなんか地形がおかしい。んん?盛大に地滑りを起こしている。。。よくそんな真下に工場だかとか道をつくったな。。というか、この島、いつまでこの形を保っていられるんだ…、なんて考えながら、続いて港に向かうことにする。波に洗われて廃墟になってしまった待合所だとか、漁船がクレーンで揚げられて陸にあるとか、さっきはちらっと見ただけだったので、早くじっくり見たい!
もう道はだいぶ覚えてきた。この島の規模感がたまらない。
激坂の青宝トンネルを今度は下っていく。このトンネル、激坂な上に、道幅がとても狭いので、途中で行き違いとかになったらかなり緊張するだろう、というか、軽ぐらいしかすれ違える気がしない。頼むから対向車来るなよ、と思いながら下っていく。やっぱり激坂だ。エンジンブレーキを1速にしてきかせているのだが、どんどん加速していくので、スキー初めたてのころの、教えられた通りやってるはずのボーゲンで止まれない時と同じような気持ちになった。
フットブレーキも活用しつつ、港まで降りてきた。もう誰もいない。改めて、落ち着いて法面の補強された岩壁を見る。でかいなあ。岸壁にもうあおがしま丸も居らず、誰もいないが、すぐ波にさらわれそうで怖く、そこまでは降りれない。辺りを歩くと、トンネルへつづく新しい道の下に、昔の待合所が見えてきた。完全な廃墟になっている。調べたところ、波に洗われて壊れてしまった、ということだが、それでも海から結構離れてるぞ。。ここまで波が来るって嵐のときはどんだけ海荒れるんだ…。建物外の柵が根元からひん曲がっており波の力の恐ろしさを感じさせられる。
内部はなにも無くなっていたが、壁の「青ヶ島ご案内」や窓口(であっただろう場所)の「喫煙マナーアップキャンペーン」のシールなどが当時のまま残っており、妙に生々しさを感じる。
待合所の裏には、漁船が3隻くらい陸に揚げられていた。待合室が波でさらわれてしまうくらいだから、ここでは港に船を係留しておくことができず、船を吊って陸に揚げているのだ。なんだか、古い待合所の上に新しい道路ができていたり、船が上空を通ったり、物理的にも時間軸的にも、妙に立体的な港である。それがこの要塞みたいな港のなんとも言えない魅力になっているのかなあと思ったりもする。
今のところ村人にはほとんど会っていない。というのも、集落はカルデラ内部にはなく島北部の外輪山の外側の台地状の部分にあるのだ。まだ全然そこまでたどり着けていないのである。いよいよカルデラを超えて集落へ向かうことにする。
(まだまだつづく。ただいま1日目の15時くらい・・・)

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