見出し画像

マイラの知らない物語 1

「女が男を好きな男を好きになったら、男が女が男を好きな男を好きになることを女はどう思うかな?」

窓の外ではぱらぱらと雨が降り、この家の屋根を一定のリズムで叩いている。

マイラの父は、8歳になる娘に説いていた。
マイラは部屋の隅にできた大きな蜘蛛の巣を見ていた。

「......ごめん、まだマイラには早い話だったね。父さんは、母さんが分からなくなってきちゃったよ」

「ううん、でもマイラ、パパが悲しいってことは分かるよ」

マイラの父は机にヒジをつき、両手を組んだまま哀しく微笑んだ。

「マイラ、ママな、すごく遠くに行っちゃったんだ。」

暗い部屋で絞るように言葉が出た。
「だから、しばらくは会えな......」

「なんてところ?」

「……」

「日本」


───────────────

マイラは家の窓から遠くを見つめながら呟く。

「にほん」
新しくも懐かしいような響きに、マイラは何度も反芻した。

(つづく)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集