「誰一人学びから取り残さない」子どもの学習支援DXプロジェクト【認定特定非営利活動法人カタリバ|実装報告】
教育の領域において、日本だけではなく世界的に見ても、「貧困」や「地域格差」など、様々な環境によって教育格差がどうしても生まれてしまっている。この教育格差について着目し、どのような環境に生まれ育っても、自らが意欲を持って創造性を育むことができる場を作りたいとの想いで、約20年間にわたり、全国の10代の子どもたちに教育支援を行ってきたのが「認定特定非営利活動法人カタリバ(以下、カタリバ)」だ。
カタリバは、昨年度から愛媛県の学びの機会がない子どもに対して、地域との連携によって教育格差を埋めるオンライン支援プログラムを届け、「誰ひとり学びから取り残されない社会」の実現を目指している。
解決したい課題
カタリバが解決したい教育の課題は以下の通り。
■教育格差を生じさせる家庭の貧困×地域の資源不足問題
【家庭の問題】
・経済的に学びの機会を用意できない
・貧困家庭においては、学習塾やその他習い事などへの捻出が困難、などの問題がある。
【地域の問題】
・地域によって支援リソースが不足している
・過疎地域の問題においては、主たる教育事業者は県内の都市部に集中しており、過疎地域の子どもたちは教育サービスにアクセスしづらい
これらの問題により、格差が広がりやすい状態になっていると考える。
実際、カタリバが提供するサービスの利用者からは、以下のような声が挙がった。
【キッカケプログラム利用者の声】
・学校を休みがちなこともあり、勉強の遅れも心配しています。経済的なことや送り迎えが難しいこともあり、塾に行かせてやりたいのですが、なかなか出来ません
・体調不良と日々の生活で精一杯のため、働く余力もなく、習い事をさせるにしても経済的に厳しく、また送迎もできないので、今回はキッカケプログラムに応募いたしました
愛媛県での実装検証では、「過疎」「貧困」からくる教育格差を課題の対象とした。
解決するために乗り越えなくてはならない課題を以下の3つに分類。
課題①「教育と福祉における分断」
課題②「地域のマンパワーのみによる支援の限界」
課題③「地域に繋がるまでのハードル」
それぞれの課題を解決するために教育福祉の垣根を超えること、さらに地域の垣根を超えた包括支援など、支援が必要な子どもを見つけ出し支援に接続するまでの仕組みを構築した。
キッカケプログラムとは
教育格差を生み出す3つの課題を解決するために、完全オンラインで子ども支援の機会を創出するというのが今回のプロジェクト「キッカケプログラム」だ。
※オンラインでの支援を受けられるよう、子ども1人に1台のパソコンとWi-Fi(希望者のみ)を無償貸与。
教育格差を解消するための「キッカケプログラム」は、3つの要素で構成されている。
■オンラインで受講する学習支援
オンライン学習では「Edtech教材」を活用して、子どもたち一人ひとりのペースに合わせた学習支援を行う。教材の活用方法についてもサポートすることで、地域の人材リソースに関わらず安定した学習支援が可能になる。
■世界中にいるメンターと繋がれる生活支援
世界中に存在するメンターにより生活支援も実施。子どものメンターは、大学生〜若手の社会人が担当。さらに保護者のメンターは、子育て経験のある40〜50代の社会福祉士や看護師、キャリアコンサルタントなどさまざまな職種のメンバーが担当する。子どもは、週に1回、メンターと対話をすることで学習の目標の設定や学習の動機づけができ、さらに、メンターは子どもたちの生活の伴走までを担う。メンターとの対話の時間は第三の居場所となることを目指しており、親や教師といった「縦の関係」でもなく、友達との「横の関係」とも異なる「ナナメの関係」を築いていくことを目指す。
さらに、子どもだけではなく、保護者に対する支援も実施。月に1度子育てに関する悩みなどを話せる場を提供し、そこから行政の福祉の支援が必要だと判明した場合は、行政に繋げていく。生活の困難さを抱えた保護者自身が、孤独に陥らないよう伴走していく。
■リファー支援も充実
さらに専門的な情報が必要な場合は、その事象に適した専門機関を紹介したり、支援を依頼したりするリファー支援を実施。LINEで気軽に相談できるなど、タイミングを逃さず必要な情報にアクセスすることができる。リファー支援の一例としては、奨学金の情報、各種団体の支援情報などさまざまな場所にある情報を一つに集約し展開する「支援情報掲示板」の設置。心理士、社会福祉士、情報モラルエデュケーターなどの専門家へ繋ぐ「専門家相談」や、家庭の困り事に応じて、各種支援機関や行政サービスに接続する「支援機関・行政サービスへの連携」などだ。
2022年度の実証によって、 オンラインの活用によって人力では届かなかった支援を実現できることが分かった。
しかし、 支援に繋がるハードルの高さと地域に再接続することのハードルが新たな課題となり、 2023年度の重点取り組みポイントとなった。
そこで今年度は、昨年度から行っているオンラインでの支援に加えてメタバースを使った居場所支援に取り組んできた。
2023年度は宇和島市・新居浜市・上島町の3エリアで実装
今年度は、このハードルを下げるべく、新たな体制を整えた。昨年度に引き続き、宇和島市と新居浜市、そして新たに上島町が支援エリアとして加わった。
具体的な実施内容は以下の通り。
■子どもと接触頻度の高い支援者や教員との連携強化による誘い出し体制の構築(宇和島市・新居浜市・上島町)
地域で本プロジェクトに関する募集のチラシを配布。さらに、地域の支援団体について紹介をうけ、プログラムの理解を促しながら連携を行い「オフラインでは支援につながれない子ども」 の誘い出しの強化を行った。
その結果、7名の子どもと繋がることができた。
子どもたちは、カタリバが運営するメタバース空間で、放課後の時間を過ごしたり、学習講座を受けることができる。
自分のアバターもオリジナルで作ることができ、ゲーム感覚でバーチャルの居場所に来ることができる楽しさがあり、週に1回この場で、学習支援を受けたり、支援者とオンラインで話をして目標設定をする場として利用されている。また、メタバース空間で友達を作りコミュニケーションツールを使って気軽に話をすることもできる。
■DX伴走の意味と実装の定着に向けた自主財源化(宇和島市)
2022年度から実装している宇和島市では、オンライン支援のみで完結しない、地域支援の利用促進について協議ししてきた。また、2年間にわたって実証事業を取り組み生み出してくることができた成果を評価いただき、2024年度からプロポーザルにて宇和島市生活困窮世帯の子どもに対する学習・生活支援事業の委託先として正式に選ばれ、自主財源での実装が実現した。
■プログラミング体験会(西条市)
子どもと接触頻度の高い支援者や教員との連携強化による誘い出しをするなかで、さらに分かってきたこととして、子どもにとって気軽に参加したいと思えたり、興味を持ってもらえるようなキャッチーなコンテンツが不足していることが見えてきた。
そのような課題に対して、VR、ドローン、Webプログラミングなど、より子どもが参加したくなるようなコンテンツを使った体験会を西条市で実施。
参加者は、中学生12名、高校生 6名、合計18名と、これまで以上に、必要な子にリーチしやすい可能性があることが見えてきた。
■Tech Runway(プログラミング学習支援、キャリア支援)
体験会に参加した子どもの意欲の火を消さないために、すぐにその後の支援につなげるという導線を作っており、それがTech Runwayだ。Tech Runwayは、高校生限定で開講する、無料プログラミング教室のことで、認定NPO法人CLACKが東京と大阪で行っている取り組みだ。キッカケプログラムでは幅広い学びを用意しており、プログラミングは「面白そう!」という好奇心を芽生えさせるために有効な学習プログラムであると考えている。そこで、愛媛県の実装においては、カタリバとCLACKで連携し、全15回(対面4回、オンライン11回) にわたりプログラミング学習支援と、松山市のサイボウズオフィスの企業見学などを含むキャリア支援を実施した。
認定NPO法人CLACK
Tech Runway
■認定NPO法人CLACK 理事 中川 公貴さんコメント
今回カタリバさんと連携し、私たちCLACKが以前からやっているプログラミングの支援を愛媛県で実装させていただきました。カタリバさんは各自治体としっかり連携し、教育の領域でトップランナーとして活動されている団体さんなので、私たちも学ばせていただきながら、より良い形で愛媛県で展開して行けたら良いなと思います。
■勉強会の実施
宇和島市・新居浜市・上島町での今年度のトライアル実装によって開発したオンライン支援モデルを周知するための勉強会を開催した。
【参加者】
・愛南町 保健福祉課 子育て支援係
・大洲市 総合政策部 企画情報課
・松山市 松山市役所こども家庭部子育て支援課
宇和島市、新居浜市、上島町での支援事例をもとに、課題提起と解決策の共有を行った。あわせて 自治体ごとの現状課題等のヒヤリングを通し、実装による解決イメージの検討を行った。
愛媛県在住者とそれ以外の地域の在住者を比較し、居住地・家庭環境による教育格差および機会格差を数値化したうえ、参加者へインタビュー形式で行う定性分析を行うことで、プログラムの必要性や価値をはかった。その上で、地域格差の是正に対する必要性は各地域で着目され、福祉領域のみならず教育領域との連携を行うことで解決の糸口を見出そうとしているが、実際の連携を想定した場合、責任分掌や予算分配等が検討の障壁となることが共通課題として考えられた。
今年度の実装成果
オンラインでの定期的な「繋がり」が、課題の早期発見と、その後の適切な支援接続(=対処)に貢献した。
■キッカケプログラム
・定期的な伴走支援の中で、子ども・家庭の困り感に早く気づき、適切な地域の支援に繋ぐことができた
・うまく説明できない困り感も含め、定期的な繋がりの中でモニタリングできた
■地域の各種支援機関
・個々の状況に応じた課題(不登校・ヤングケアラー・いじめ・虐待など)に対して、早期に適切な支援を行うことができた
・早期に困り感に気づけることで、子ども一人ひとりの最適な機会に繋げるごとができた
オンラインという自宅からでも繋がれる手段を取り入れたことにより、これまで繋がることができなかった家庭と地域の支援機関を繋げるキッカケ作りができた。
今後について
■認定特定非営利活動法人カタリバ 中島 典子さん
今年度は上島町も加わりエリアを拡大することに成功しました。昨年度から継続して実装してきてさらに強く思ったことは、自治体や地域の皆さんが取り込みたいと思えるサービスを提供すること、そして今なお、何の学びにも繋がれていないような困難度の高い子どもを繋ぐことができるように支援の内容を強化して行きたい、ということです。また、共同調達モデルの構築・展開についても考えながら愛媛県の中で「誰一人取り残さない」ことを実現して行きたいと考えています。
■公式ホームページ
https://dx-ehime.jp/
\SNSもやっています/
■Instagram
https://www.instagram.com/tryangle_ehime/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?