目指すのは「旅」の延長線ではなく、そこに「くらし」があること。 「n’estate」プロジェクトメンバー鼎談 | 前編
すまいとくらしの未来を語る「philosophy」。
今回は「n’estate」プロジェクトメンバーの3人による鼎談を前後編でお届け。前編では、プロジェクトの立ち上げに至ったきっかけ、「住の自由化」というコンセプトに込められた想いを語ります。
メンバープロフィール
ー まずは「n'estate」立ち上げのきっかけから教えてください。
櫻井:三井不動産レジデンシャルは、主に分譲マンションや賃貸マンションをつくって売る会社なのですが、現代には「買って住む」「借りて住む」だけではくくれない、あたらしいすまい方、ライフスタイルがあるんじゃないかという議論が社内で活発になってきたのが、今から3年ほど前。
では、どのような未来のすまいのかたちがあるのか。当時ちょうど「デュアラー」(都会と田舎にすまいを構えてデュアルライフを送る人)というキーワードが出てきたり、「二地域居住」というものが注目されはじめていたり。そういった分野に私自身すごく興味があったこともあり、そこを切り口に考えてみようと思ったのが、そもそものきっかけですね。
ー 櫻井さんご自身、あたらしいすまい方に関心があったのですね。
櫻井:そうですね。個人的な話では、すまいを考えるときに「住みたい」場所と「仕事をしに行く」場所が乖離しているのが当たり前のような風潮に疑問を感じていたんです。大きな公園の近くだったり、もっと自然が身近なところ、心地よいところに住みたいんだけれど、でも会社に毎日通うことを考えると、どこかに妥協点を見つけなくてはならないことがストレスだなと。
ちょうどその頃に、社内でその話をしたこともあったんです。ただ、みんな口を揃えて「でも、それはしょうがないよね」みたいな感じで終わっちゃって(笑)。
だから最初はひとりの、個人的なプロジェクトみたいなところからはじまりました。でも、ひとりでできることにも限りがあるので、社外のメンバーと勉強会をしてみたり、三井不動産の新規事業・イノベーション担当メンバーと一緒に取り組みはじめました。社内外を巻き込んで、ひとつの多拠点居住プロジェクトみたいな感じでしたね。
そうして半年、1年と進めるうちにコロナ禍に。緊急事態宣言下で出社の頻度が減り、世の中に「どこでも働けるし、住めるよね」という空気感が醸成されてきたタイミングでもあり、「今こそ、やるべきだよね」と正式な事業として本格化していきました。
ー そこに横山さん、藤原さんと、メンバーが増えていったのですね。
途中からプロジェクトに合流したおふたりは、多拠点居住にどのような印象を持っていましたか?
横山:そうですね。やっぱり雲をつかむような話というか、概念は理解しつつも、どうやって具体化していくのかというイメージが湧かなくて。それこそ「n’estate」が本格始動する前、私を含め、それぞれの部署で他の事業を担当している7、8人が横割りのチームになってディスカッションをしたことがあって。そこでみんなが想像する「多拠点居住」のイメージが、どれも全く違ったんです。
例えば、登山が好きだから山の近くに拠点があるといいなという人もいたし、もっとリゾート地で別荘のような過ごし方を考える人もいて。私たちでそんな状況なのだから、ユーザーはもっと多種多様な考え方を持っているだろうし、それをどのようにサービスとしてコーディネートしていくのか、難易度の高さは感じていました。
藤原:私も世の中に多拠点居住のサービスが出始めた頃、どんな仕組みなのか興味があって調べていました。そのなかで感じたのは、今あるサービスはアドレスホッピングな(特定の家を持たずに、さまざまな場所を転々と移動しながら生活する)くらし方を実現するサービスが中心なのかなという印象でした。一方、すまいを自ら開発し提供してきた私たちが、もし多拠点でのあたらしいくらしをつくっていくとしたら、いろいろなくらしのシーンに合わせた拠点を、主たる「生活」の場として増やしていくことが、私たちらしい関わり方なのかなって漠然と考えていました。
ー なるほど。「旅」の延長ではなく、あくまで「くらし」の場として拠点を提供することが「n'estate」らしさになっていくと考えたのですね。
藤原:コロナ禍では、ホテルのロングステイプランなども話題になりましたよね。以前、数カ月単位での長期出張によく行く同僚と「ホテルと家のくらしの違いってなんだろう」みたいな話をしていて。ホテルでの滞在は快適でホスピタリティのある憧れのくらしで、家は自分の好みで選んだものに囲まれることでホッとできて、そこで自ら生活を営める場所なのかな、などと盛り上がりました。それって部屋にキッチンやランドリーがあるかないかという話でもなくて、空間がまとう空気感なんだろうねと。
櫻井:三井不動産も、レジデンシャルも「場」を提供しているわけだけれど、逆説的に「場」が人の行動を縛っている側面もあるよねというジレンマがあって。例えば、すまいを35年のローンを組んで買ったり、賃貸でも敷金礼金があったり、家具家電はイチから揃えないといけなかったり、一度決めたすまいはそう簡単に変えられない。
そのことを否定するつもりはないのですが、ここまで通信技術をはじめテクノロジーが進化してきていて、コロナ禍でどこでも働けることをみんなが実感してきている。そうすると、今までの不動産事業のあり方では、そういったニーズに十分に応えきれないのかもしれないし、もっとすまい選びを自由に捉えることができたらいいなという想いがありました。
ー「住の自由化」というコンセプトも、そこから生まれてきたのですね。
櫻井:とはいえ「自由」と言っても、自分に合った生活を自ら考えて選ぶのってなかなか大変なんです。旅行とかも、計画するのって楽しいけれど面倒じゃないですか(笑)。すまいを最適化していく作業って決して楽ではないから、今のままでもいいやって人も結構いると思うんです。
横山:多拠点居住は特別な人のもの、というイメージもまだまだありますよね。
櫻井:そうだね。「n’estate」のコンセプトに共感してくれる方々に対して、足元の課題をどう解決していくかが大事だし、全力で取り組んでいきたい。「そんなくらしができたらとても素敵だけれど、実際どうやってやるの?」みたいなのを、もっと考えていかなきゃいけないなと。
ー現状では、どのような課題を感じているのでしょう?
櫻井:やはりコスト、移動のハードルは大きいと思っています。それに「生活」の拠点とする上で欠かせないのが、教育や医療といったインフラの整備。あとは、その地域ならではの体験だとか地元の人たちとの交流といったコミュニティ形成をサポートすることにも、積極的に取り組んでいきたいですね。
横山:例えば、トライアル拠点のひとつである「PARK AXIS 神楽坂・早稲田通り」や「PARK AXIS 池袋」では、家に帰らない日は、誰かに貸して家賃を抑える仕組みを導入してみたり、どのようなサービスがあると気軽に利用しやすいのか、いろいろと調査もしながらブラッシュアップしていっているところです。
> 後編の記事はこちら
「自分たちになかったくらしを、子どもの世代には選べるようにしてあげたい。」
> サービスや拠点について、さらに詳しく。
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