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地域とのつながりが育む、くらしの幸せ。 Interview 川上ミホさん 後編
長野県軽井沢の森の中のおすまいに、ご家族三人で暮らす料理家の川上ミホさん。後編では、軽井沢生活5年目を迎え、小諸市や御代田町にもくらしの軸足を増やした川上さんが実感しているコミュニティの広がりや、地域に好循環を生み出す人間関係について。くらしに踏み込むことで見えてくる地域文化の奥深さなどを伺いました。
▼ 前編は、こちら。
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― おすまいから一歩外に出れば、自然がいっぱいの川上さんのおすまい。野生の生きものともたくさん出会えそうですね。
川上:それはもう、毎日のように会えますよ。シカにタヌキでしょ、あとはリス、キツネ、テンなどが住んでいます。サルは週に一回のペースで、我が家のテラスに遊びに来ます。食料を求めて東と西の山を行き来しているようで、ここが中継地点なのか休憩所にされているみたい(笑)。
― ちょうどいいテラスがあるぞ、と(笑)。
川上: 実際には、そんなに平和なものでもなくて(笑)。軽井沢でくらしはじめて一年目に柿を干しておいたら、キーキー!ドタバタ!と音がするので何事かと見に行くとサルが干し柿の争奪戦を繰り広げていたことも。でも、この辺りも今でこそ別荘地帯ですが、もともとは山で、森。むしろ人間のわたしたちが居候でお邪魔していますという感覚です。
― 都会ぐらしでは、野生動物に食べ物を取られるというまずないですから、びっくりしますよね。
川上:だから、この辺りでは「くだものの木を植えてはいけない」というルールがあるんです。でも、せっかく自然豊かな長野県でくらしているのだから“土いじり”はしてみたい。自分たちで育てたハーブや野菜で料理をしたいと思い、小諸市に畑を買って、昨年から念願の農作業に挑戦中です。
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― なんと! (前編でご紹介いただいた)東京と京都、軽井沢に続いて第四の拠点ですね!
川上:軽井沢に来てからずっと探していたんですけれど、そもそも畑は農業を営む方や資格がないと購入できないし、山林を一から切り開くのはハード過ぎる。 どうしたものかと悩んでいたところ「空き家バンク」に出ている家付きの土地なら買えるぞと!
― 家付きの畑を購入されたんですね。
川上:畑は300坪程の広さがあって、築30年の木造の家も雰囲気がよいので、滞在中に寝泊まりできるように整え中。浅間山麓の途中に位置しているので、とても見晴らしがいいんですよ。
― 300坪ですか! もはや、家庭菜園のレベルではないですね(笑)。小諸には、どれくらいの頻度で通われているのですか?
川上: 週に三回ほど。草刈りをしたり、収穫物のお手入れを一生懸命しています。はじめての農作業は大変ではありますが、とても面白いですよ。
軽井沢から小諸までは車で30分程。娘の"ひのき"を学校に送ったそのままの足で向かって、午前中いっぱい畑仕事をして、お風呂で汗を流した後に道の途中にあるジェラート屋さんでご褒美をして帰ってくるのが定番コースです(笑)
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― いいですね! 今年は何を育てているのですか?
川上:今年の栽培はまだこれからなのですが、冬が来る前に植えておいた玉ねぎとニンニクがすくすくと育ってきています。この辺りの気候だと、越冬して6〜7月に収穫するんですよ。
ほかには、じゃがいもと菊芋。昨年収穫したミニトマトもすごく美味しかったので、今年も張り切って植えたいです。前の土地の所有者さんが果樹も丁寧にお手入れしてくださっていたので、ブルーベリー、梅、いちじくもあります。あとは、ハーブを10種類くらい。
― 大充実のラインナップ!
川上: でも、収穫期には一斉に育つので一気に収穫しないといけないから大変! ひのきも一緒に収穫を楽しんでくれているので、助かっています。自分で育ててみると、やっぱり農家さんはすごいなあと実感します。きちんと時期を見極めて、計画的に栽培しているのですから。
くらしの軸足を増やすことで、さらに広がるコミュニティ。
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― 軽井沢にくらして5年目。小諸という新たな拠点が増え、ますます充実した長野ライフを送られているのですね。
川上:軽井沢という拠点が増えたことで、長野県内のほかの町へもアクセスしやすくなったのは大きいですね。小諸で味をしめて、最近では週末のたびに家族で大町方面など北西エリアにも遊びに行くようになりました。
― 長野県も広いですからね。県内にも複数の軸足を置くことで、さらに行動範囲を広げやすくなったのですね。
川上:地域が変われば、くらしかたも、出会う人も違ってくるのが楽しいですね。例えば、キノコ狩りの名人や猟師さんなど、東京で知り合う人とはまた別角度の“面白さ”があります。
あとは、小諸で畑をはじめたことがきっかけで、軽井沢FMさんで「Vin de KOMORO」という、小諸のワインをはじめに農作物の魅力をお届けする番組のパーソナリティを務めるご縁もいただきました。小諸には最近、若い移住者や二拠点生活者も増えて、町全体がにぎわってきていて、とても面白いんですよ。
― おお、そうなんですね!
川上: 軽井沢にも20〜30代の人口が増えてきているんですよ。軽井沢って、これまでは「別荘族」と「ローカル(地元)」でコミュニティが比較的分かれていたんです。それが移住者や二拠点生活者が増えたことで、その属性が混じり合うようになってきたみたいで。もちろん、従来のコミュニティもそれぞれにあるけれど、もうちょっと柔軟に一歩踏み込んで交流してみようという動きが生まれてきているのが、当事者のひとりとして嬉しいなと思います。
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川上:あと、最近注目しているのが中軽井沢。旧軽井沢方面は昔から観光スポットとして人気ですし、「ハルニレテラス」や「星のや トンボの湯」などもできてにぎわっているんですけれど、中軽井沢には何も無かった。それが駅がキレイになったのをきっかけに、駅前にコミュニティの場としてのバーができたり、商店街を中心に若い人たちが営むオシャレなお店も増えてきて。おいしい焼き鳥屋さんやブルワリー併設のタップバー、バターサンドのお店など、だんだんとにぎやかになってきているんです。
― 軽井沢にもあたらしい風が吹きはじめているのですね。それこそ、個人店を営むプレイヤーが増えてきているのを見て、川上さんご自身も何かはじめたいと思ったり?
川上:そうですね。長野県には新鮮な食材がたくさんあるし、料理するのも食べてもらうのも好きだから、やっぱり飲食店はやってみたい。じつはね、御代田町に土地は購入しているんです(笑)。
― すでに水面化で動きが! 御代田町を選んだのは、どのような理由があったのですか?
川上:軽井沢は別荘エリアということもあり、くらしを守るためのルールが細かくあって。その点、御代田町は軽井沢ほど規制が厳しくなく、もちろんまわりへの配慮はしつつも、あたらしいことに挑戦しやすいウェルカムな雰囲気があるんですよ。あとは、小諸市同様に軽井沢から通いしやすい距離感なのも重要なポイントでしたね。
くらしの中にこそ、地域文化の本当の魅力が見えてくる。
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「地域の食に興味があるので、滞在先では市場や直売所などに立ち寄ります。果物をカットしたいときなど、手元に使い慣れたものがあるといいですよね」。
川上:ただ、軽井沢にも小諸にも住むようになって、地元の方々とのご縁ができてからは「この物件が空くらしい」といった不動産情報や「何かやってみない?」というお誘いをいただくことも増えてきて。
― すごい! その気になれば、三店舗は出店できちゃう勢いですね。
川上:お互いの人柄が見えて信頼関係ができてくると、それまでとは違った関係値が生まれてくる。それが、くらしの満足感や人間関係の豊かさにつながっている気がして、なんだか最近ますます楽しいです。
地元のコミュニティからも豊かなご縁をいただいているし、東京から少し離れてみることで、これまでとは違ったコミュニティが広がって、東京に戻ってきたときにも新たなご縁につながる。「くらし」に重きを置いた拠点を持つことで「旅行」とはまた違った、地域や人との関係がリラックスした空気感の中でつながっていくんだなと感じています。
― 旅行だと、どうしても「楽しかったね」で終わっちゃいますものね。
川上:そう、お客さんになっちゃうでしょう。わたしたちが「くらす」ことの大切さを実感した原体験は、やっぱり京都での二拠点生活(※エピソードは前編でご紹介いただいています)。地元の方々にも拠点を構えたことで「あ、ただ遊びに来ているだけではないのだな」と受け入れてもらえるようになる。京都の人たちがくらしの中で親しんでいる文化行事に誘っていただいたり、日々食事に出かけたり、散歩に行ったりするだけでも「くらし」の豊かさを感じることができるんですよね。
そのときに、京都の本当の魅力は昔ながらの文化が今の人々の生活にもしっかりと根付いていることなのではないかと思ったんです。その土地の文化って、お寺やお城など目に見えるものも、もちろんあるけれど、根源的な豊かさは「くらし」の中にある。だから、観光からもう一歩踏み込んだ滞在の仕方があると、その町の本質的な魅力を体験できるんじゃないかなと思います。
京都での二拠点生活を経て、長野に来てみると、やっぱり長野には長野の文化がある。軽井沢の文化、小諸の文化、御代田の文化。それぞれの町が持っている個性や、くらしに根付いた文化に触れられることが、人生においてとても豊かな経験だなと思いますね。
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― 最後に、川上さんの「旅や移動のおとも」をご紹介いただけますか?
川上:子どもと一緒の移動に欠かせないのが、香りのアイテム。ひのきは人見知りも場所見知りもしない子なのですが、いろいろな刺激を受けて興奮状態になりがち。そんなときに好きな香りがあると落ち着くし、夜寝る前に精油を一滴香らせるだけで、リラックスして休めるのでおすすめです。
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Photo: Ayumi Yamamoto