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日本語指導ボランティアで、新しい日本に出会う
週1回の日本語学習指導ボランティアを始めて、もうすぐ一年になる。
図書館で開催されているこのボランティアでは、日本人の「先生」と海外移住者の「生徒」が1対1でペアになって学習する。生徒の出身はアジアをはじめ、中東、ヨーロッパ、北米、カナダなど世界各地に及ぶ。年齢や日本滞在歴もさまざまだ。
私が担当しているのは、カナダ出身のMさん。20年前に日本へ移住したが、仕事も友人関係も英語中心だったため、日本語が少し拙い。仕事はすでにリタイアして趣味のDIYや旅行を楽しむ日々を送っている。
レッスンはいつもMさんのDIY話から始まる。
5-6年ほど前から友人と熱海に古民家を購入し、リノベーションを進めているMさん。床を剥がして断熱材を入れ、玄関を移動し、トイレを増設し、ウッドデッキや窓の拡張まで、なかなか本格的だ。カナダではDIYが生活の一部であり、子どもの頃から父親に教わることが多かったという。近所の人が興味津々で見に来て、やり方を尋ねてくるそうだが、「ソレハ、ウットウシイデス」と苦笑していた。
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私自身、2022〜2023年にアメリカに滞在していた際、4〜5人のボランティア・ティーチャーにお世話になった。語学はもちろんだが、それ以上に彼らの何気ない日常を聞くのが面白かった。
・毎朝1000mの水泳を習慣にしている高齢男性(高齢の男性には水泳エクササイズが人気だった)
・夫の誕生日にサプライズパーティを計画し、50人分のご馳走を作る高齢女性(すべて手料理!)
・飼い犬が犬の保育園を追い出された話(うるさかったらしい)
・近所の超高齢男性の面倒を見ている話(身寄りのない男性だったそうだ)
日本の日常と似ているようで、どこか違う。雑談を通じて、その背景にある価値観の違いを掘り下げるのは、ワクワクする瞬間だった。
日本に戻ってからも、このボランティア活動のおかげで、似たような体験を続けられている。しかも、日本をテーマに話ができるので、意外な発見があって面白い。たとえば、スキー場の話題になったときのこと。
「ニセコは高スギル。今はアッピとかルスツがニンキ」とMさん。
関東近郊の湯沢スキー場などは行かないのかと尋ねると、「セマクテ、コンデルノデ、ヨクナイデス」とバッサリ。安比高原はバブル崩壊後に荒廃し、「ハイキョがノコッテイル」(Mさん談)らしいが、最近は再び人気を取り戻しているという。Mさんによれば、カナダのウィスラースキー場に雰囲気が似ているそうだ。
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Mさんに見えている日本の景色と、私に見えている日本の景色はずいぶん違うようだ。同じ場所にいても、言葉や文化の違いで見えるものが変わる。
それを共有しあうことで、新しい視点が生まれ、世界が少しずつ広がっていくんだと思う。その広がりの先に、まだ知らない景色がきっとあるとワクワクしている。
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