いつもの笑顔
さようなら。お元気で頑張って。
にっこりと笑う先生の目には、うっすら涙が浮かんでいた。
息子のかかりつけ医のY先生との出会いは、今から6年前。伸びた背筋や上品な笑顔に育ちの良さがにじみ出ている。
患者が診察室に入るとき、そして診察室を去るとき、先生は必ず笑顔を向けて挨拶をする。きっとそう決めているのだろう。
聴診器で胸の音を聴く、鼻水の色を見る、一通りの診察行為を行うと、彼女は診断の見立てと治療方針を話す。
論理的でクリアな喋り。ガイドラインに則った的確な判断。聞いていて不安になったりモヤモヤしたことが一度もない。
Y先生には、息子が喘息の診断を受けた後からお世話になり、平均して月4回くらいのペースで通った。状態がひどいときは週に3回は通っていた。
親としても治療でサポートできること判断すべきことをたくさん教えてもらった。発作が不安なときも、何かあればすぐに相談できる場所があると思うだけで、とても心強かった。
おかげで息子の喘息は治療を必要としなくなるまでになった。よく伝染病をもらっていた娘も丈夫になり、この2〜3年間はY先生を訪れる機会はめっきりなくなった。
たまに訪れると先生が急速に老け込んでいるのが分かるようになった。若々しい方だが実際のお年を考えると、朝から晩まで多くの患者を診療するのはかなりのハードワークなのだろう。
親とともに子供の健康と成長を見守ってくれる小児科医。患児のために親身になり、役割が終われば、そっと身を引く。崇高な仕事だなぁと思う。
しばらく日本を離れるため、先日久しぶりに受診に伺った。渡米直後に何かあっても不安にならないだけの薬を処方してくれる。
子供達と一緒にお礼とあいさつを告げて去るとき、Y先生のいつもの笑顔にうっすらと涙が浮かんでいた。
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