#15 願いを込めて。
お正月、予定通りに親戚が集まった。
この日は『🎵アメージンググレイス』のハンドベル演奏(初見)の実演だ。集まった孫たちに囲まれた母が、傍に腰掛けている。孫といってもみんな成人しているのだが、初めてハンドベルを手にした彼らは、すごく楽しみな様子で瞳をキラキラと輝かせている。あぁだ、こぅだと言い合いながら、まるで小さな子供のようにはしゃいでいる様子が微笑ましい・・・。
本日の目標は、集まった親戚一同でハンドベルを演奏し、母を楽しませること。また将来、いつか必ず母に訪れる『その日』のためのシュミレーションも兼ねている。母の望みを叶えるために、姉と私は確認しておきたかった。いざと言う時、『🎵アメージンググレイス』を親戚一同で演奏できるのかどうかを。
書き分けたパート符を配ると、それぞれ音の確認がはじまった。譜読みが苦手な者には隣の者からの的確なアドバイスが行き渡る。
『3拍子〜。イチニッサン、イチニッ・・・で、アウフタクトのある人から入って下さーい!では行きまーす。イチ、ニッ、サン、イチ、ニッ・・・!!』
詳しく説明したわけではない。このように音頭をとっただけである。皆がそれぞれ準備を整え、すんなりと合奏を始めているけれど・・・。
『コレッテ、スゴクナイデスカ・・・?』
上級者らに任せた『3連符』は見事になめらかなメロディを奏で、伴奏部やその他の主旋律もまずまず。数回合わせて、全員が音をつかむ作業は早くも完了した。
家族・親戚が集うお正月。のんびりテレビを見たり、ゲームをしたりして遊ぶのと同じように、皆んなで楽器を演奏し、音楽会をして遊べるなんて、
『ホントニ、スゴクナイデスカ・・・!?』
楽器を演奏している時は、奏者同士が音で会話をしている。私はベルを振りながら、楽しすぎて思わずニヤニヤしてしまった。
さて、これで満足したわけではない。もうひとつの目標は、今日のハンドベル演奏を動画に納めること。東京で闘病生活をしている叔母に、ビデオメッセージでエールを送りたい。みんなの心をベルに乗せて、レコーディングは終了した。
叔母の笑顔のために・・・。
『一音入魂。』
大好きな叔母に思いが届くようにと、願いを込めてベルを奏でた。
世界にひとつだけの音楽が生まれたこの日を、私達はずっと忘れない。
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