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#012.音を出してみよう その3

具体的すぎる情報に注意

以前「#006.音を出してみよう その2(実践編)」の記事で実際にトランペットから音を出すためのセッティングについても解説しました。

その中で「上唇にマウスピースリムおよそ半分を貼りつける」と書いたのですが、世の中に数ある教則本やインターネットなどの情報、また場合によってはトランペットの先生から「マウスピースを当てる上下の唇面積の比率は3:7だ」とか「いや5:5だ」と、様々な具体的な指示を目にすることがあります。

しかし、こうした具体的すぎる表現は常に注意し、原則として信用しないことが得策です。

理由は簡単。人間は個体差があるからです。体格も骨格や歯並びも筋力も、からだの様々なパーツの形や大きさも全て違います。そんな個体差がある人間のからだにシステマチックに捉えすぎた指示や考えは通用しませんから、こうした情報を目にした場合文章の前後に( )をつけて、

「(私個人としては)上下の唇面積は3:7だ(と思って実践している)」とか「5:5(の比率でと言ったら上手に吹けた人がいる)」

など、これは個人的意見なんだ、と参考程度に受け取り、「では私はどうなのだろう」と自分に聞いて実験を開始する、そんな流れにしてください。

特に奏法に関しての情報は鵜呑みにしないことが得策です。このブログでも様々な奏法について触れますが、当然僕の経験則や、僕がこれまでに出会ってきた奏者やレッスンでの経験、その中で検証してきた「一般的に」成功に導ける方法や言葉を用いて書いていますので、世の中のトランペット奏者全員に100%通用することなどあり得ません。ただ、同時に多くの人がそれによって安定した演奏を得られていること、決して自分だけの独特で偏った情報ではないことも加えてお伝えしておきます。

どうあれ、最終的は時間をかけて自分が一番良いものを手に入れるしかないことに変わりはありません。


奏者の役割、楽器の役割

道具は「自分の意思を実現するために使用する」ものです。当然道具に意思はありません。

トランペットを演奏する際も、あくまでも自分のイメージしたものを実現するために「トランペットという道具」を用いると考えます。しかし、演奏している姿を見ていると多くの人がまるで楽器に自分の意志を言い聞かせるように使っていることが多いのです。この無意識な発想が実はうまくいかない原因なのです。

トランペットは「体内で発生させた空気圧」が要であることはすでにお話した通りです。音の高さも音量も音色もすべての条件を自分のいくつかの部分をセッティングすることが奏者のすべきことであり、そのセッティングによってどんな結果が生まれるのかを具体的に示してくれるのがトランペットなのです。

例えば、初心者の方が「ド」の音を出そうとしても、なかなか安定しない場合があります。

するとほとんどの方は「上手くいかない!」と思うでしょうが、この言葉には「トランペットが思うように鳴ってくれない!」というニュアンスが(無意識に)含まれていることが多いのです。

しかし実際は、原因のほぼ100%が奏者の体の使い方にあり、「ド」を出すための条件にセッティングされていないことによるのです。ですから、上手くいった時もそうでない時も、トランペットが「その条件じゃ『ド』の音は出ないね」「その条件はこんな結果だよ」と結果で教えてくれていると考えてください。

また、経験者の中には、チューニングスライド(主管)を2cmも3cmも引き抜いて吹いている方がいらっしゃいますが、そうした方にその理由を聞いてみると、

「これくらい抜かないとピッチが安定しないんです」

と必ずおっしゃいます。やはりこの言葉にも「トランペットが高いピッチを出してくる」と、(無意識に)楽器に非があるニュアンスが含まれているように僕は感じてしまうのです。

そうした方にはまずチューニングスライドの抜き具合をもっと少なくしてもらって、セッティングや空気圧のこと、舌の使い方などについてお話し、実践してもらいます。すると、人によっては数分で(チューナー的)安定したピッチを鳴らすことができるのです。

ピッチが高いのは、楽器の問題ではありません。楽器は言葉をしゃべりませんが「あなたのそのセッティングはとても高いピッチを要求しています」と言っているようです。

楽器はとても正直で、そして正確です。

奏者は自身のイメージを具体的に音楽にするために、自身の体を工夫して使い、トランペットとコミュニケーションを取り合って、切磋することが大切です。決して楽器のせいにしてはいけません。たとえそれが無意識であってもです。

ミスは成長材料

トランペットを吹いていて、思った通りにいかない、いわゆる「ミス」をしてもそれはとても大切な成長材料です。

なぜなら思った通りにいかなかった理由がそこにあるからです。

そのいくつかの可能性を挙げて検証したり実験を繰り返し、原因を特定します。そうすれば、「この方法や条件ではこうしたミスが起こる」という情報を手に入れられ、その先に同じことをしないように心がけることができます。これは大変な収穫です。

ミスをすると「見なかったことにする」とか「恥ずかしい!」と、すぐに黒歴史として光の彼方に消し去ってしまう方や、「なんてヘタクソなんだろう...」「できない!無理!」といつまでもひきずってネガティブになる方が多いのですが、それはとてももったいないことです。成功もミスもすべて受け入れて、成長材料にしてください。


ということで、今回は若干抽象的なお話が多かったのですが、練習をする上でとても大切な心構えをいくつか書いてみました。

初心者の方はトランペットを吹きこなすために何度も何度も吹いて感覚を身につけることは大切です。しかし、その何度も吹いている最中に「なんで今、上手く吹けたのかわからない」「ああミスった!もう1回、もう1回!」と、貴重な材料がそこにあることに気づかずに繰り返しているのはとてももったいない。

具体的に何がどうなのかわからなくても、演奏している自分を客観的に見ていられるもうひとりの自分がそこにいると、練習は効率良いものに変化します。


ちょっとした心構えを大切に、丁寧に上達していきましょう!

荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。