#006.音を出してみよう その2(実践編)
前回に引き続き「音を出してみよう」と題して、今回は実践編をお送りいたします。
トランペットは接続されたマウスピースが唇に貼り付いた状態で空気が流れ、唇が振動することで音が発生しますが、その振動の元は体内の空気圧それによって生まれる微量な空気の流れを中心として発生します。
そうした音の出る原理について詳しくは前回の記事をご覧いただくとして、今回は実践です。
音を出してみよう
音を出す際、目指すことは以下の3点です。自分をよく観察し、確認しましょう。
ほんの少しの空気圧(空気の流れ)で反応する唇
空気圧さえあればいつまでも振動し続けていられる感覚
音の高さが一定(力をかけて頑張らなくても保ち続けられる)
それでは、まず音を出すための各部分のセッティングを解説します。
セッティング
まず最初に「唇は上下セットで考えない」ことが大切です。
我々は上唇と下唇でひとつの「唇」と認識していることが多いですが、トランペットを演奏する上で上下の唇はまったく別の役割を担うので、関連させないことが大切です。
1.上唇にマウスピースリムおよそ半分を貼り付ける
まず上唇です。上唇は頭蓋骨に存在している部分と考えます。頭蓋骨は頚椎(首の骨)に接続されている部分ですから、どちらかといえば細やかに動かせる部分ではありません。よって、こちらが「支点」となります。
マウスピースのリムを上唇に乗せます。イメージとしては、上の前歯という土台に上唇のクッションがあり、そこにマウスピースがしっかりと乗っている状態です。この行為をしばしば「プレス」と呼びます。押しつぶすような強引なプレスは必要ありませんが、前歯の存在を感じられないくらい軽く乗せているだけでは安定しません。上唇もマウスピースもしっかりと乗っかって、貼り付き、位置が動かないように心がけましょう。
2.アパチュアの元となる穴を開ける
自分にとってベストなアパチュアをは、何度も何度も繰り返しセッティングをして、感覚的に見つける必要があります。そのスタート地点として口周辺や唇に力を込めたり形を作ろうとしない「ポカ〜ン」とだらしなく顎の力を緩めて口を開けた状態を用意する習慣を持っておきましょう。
セッティングは必ずリラックスした状態から行います。
3.下唇の貼りつきはラーメンを冷ます「フー」
今度は下唇です。下唇はまだリムに完全に貼り付いていない若干フリーな状態にしておきます。この「まだ余裕がある下唇とマウスピースリムとの距離」から貼り付くとこまで動かすことにより空気の通り道である「アパチュア」が作られます。
具体的には口周辺をラーメンを冷ますときのように「フー」と唇の中央に寄せる動作です。とは言え、マウスピースリムが下唇のすぐ近くにいるので、尖らせるような動作はできず、貼り付くと思います。うまくいけばこれで唇が振動します。
マンガのタコみたいに唇を尖らしすぎてしまうとトランペットは音が出ませんし、極端に口周辺の力で唇を巻き込んでマウスピースと接触させるのもよくありません。
音を鳴らそうとする際「楽器の中に息を吹き込もう」と意識しないようにしましょう。アパチュアを空気が流れるのは「体内の空気圧が高まった結果」です。吹き込む意識よりも「体内に空気を充満させる」イメージのほうが近いです。
呼吸や体内の空気コントロールについては、後日詳しく解説します。
バランス
唇を振動させるために必要な要素はとても少なく、そしてシンプルです。もし何度かチャレンジして唇が振動しなくても、決して力ずくで解決しないでください。
トランペットは、実現できないからと言って何かが不足している可能性は低く、むしろあれこれ要素を集めすぎることによるバランスが崩れのほうが起こりやすいです。
トランペットを自在に演奏することは、さながら天秤のバランスを保つようなもので、本当に必要な要素を必要なぶんだけ用いることが大切です。例えば今回の「唇の振動」を実現するためには、「体内の空気圧」と「アパチュアサイズ」のバランスがどうであるかにかかっています。体内の空気圧とアパチュアサイズのバランスを化学実験のようにいろいろと試してみることで「ほんの少しの空気圧(空気の流れ)で反応する」バランスを発見できることでしょう。
こればかりは、すぐにできてしまう可能性も、時間がかかる可能性もあります。この差は決して「才能やセンスがある/ない」ではなく、単なるタイミングや偶然的なものですから、気を落とす必要もありません。落ち着いてゆっくりと進めてください。
唇を振動させるためのコツ
「アパチュア」は「唇で作られた空気の通り穴」であることはすでに解説した通りですが、穴(唇)には奥行きがあることを忘れてはいけません。
唇の目に見える部分(リップクリームを塗る部分)は、マウスピースのリムと貼り付くことが主な仕事であり、振動する部分ではありません。振動する唇はもっと奥、口の中にある常に湿っている粘膜と呼ばれる部分です。
同じ唇でも意識するポイントが違うだけで、結末は随分と違うものになります。振動する部分を作り出す動きは、口の中にある唇部分をどのようにすべきかを考えることが最も大切なのです。
トランペットを的確に演奏するためには、理論的に研究を繰り返して様々な角度から物事を見ることでスムーズに解決することがたくさんあります。しかし、理論的な部分だけでは音楽はできません。これを自分の感覚として落とし込み、自由にコントロールできる力を、自分が表現したい音楽に利用する。そうした展開を常に意識してください。
また、違う観点から言うのであれば、表現したい音、音楽があるからこそ、美しい音色、反応の良いアパチュアが生まれるとも言えます。あまり理屈ばかりに意識を向けないよう、思考のバランスも良いもにしてください。
おひとりで解決するのが難しいようでしたら、いつでもお手伝い致します。
毎月開催しておりますツキイチレッスンにぜひご参加ください!
荻原明(おぎわらあきら)