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True #20201206

この記事は Are you h@ppy? Advent Calendar 2020 の6日目の記事です。

ここに真っ白なカバーのアルバムがあります。タイトルは見当たりませんが『maiden's cafe』と名付けられたそのアルバムは、2018年の初春から春にかけて作られました。当時、モラトリアムから脱し少年から青年になろうとしていたhappyender girlの主宰者であるcicada_sssさんが作ったコンセプトアルバム。

制服を着た少女たちがカフェで楽しげに世の中に対して異議を唱えながらお喋りしている。そんな情景が浮かぶ1曲目『maiden's cafe (blackberry)』はイントロもなくいきなり歌声から唐突に始まります。まさに、少女たちのおしゃべりがいつも唐突なように。メロディはキュートでポップ特に「メイデンメイデン ふー!」は一緒に言いたくなりますしその為だけに何度も聴きたくなるリピ欲高まる曲です。

2曲目『ストロベリー・キャノン 』は疾走感あふれるロックに安定のピコピコ音がスパイスになっています。一定の音量速度を保ったまま駆け抜けるのでリピートで聴くと永遠に終わりがないという不思議な曲。「ぱっぱっぱっぱらっぱっぱぱら」にかわいさが凝縮。

3曲目『わたしはわたがし』は綿菓子といえばお祭りというわけで後半が和風アレンジで仕上げられています。「ねえお父さん わたがし買ってよ」と「ねえお兄さん わた し買ってよ」が対をなしていて甘さを与えられていた少女時代から大人になっていく様子が描かれています。

4曲目の『アイスを憎む』はすでに発表されている『アイスを愛す』から派生した作品とでもいいましょうか。全体的にゴージャスな雰囲気で華やかさがあるおしゃれポップに仕上がっています。ちなみに『アイスを愛す』は私自身も愛しすぎて相当聴き込みました。シンプルな音構成の中に可愛らしさと掴みどころのなさがある、モラトリアム時代の少年と少女の儚げな日常を垣間見ることができる作品となっています。『アイスを愛す』が少年目線だとしたら『アイスを憎む』は少し大人びた少女目線。

5曲目の『ドーナツ・レジスター』は浮遊感とぽっかり空いた穴。アルバムの中盤にぴったりな聴きごたえのあるバランスの良い音が配置された曲に仕上がっています。この曲はご本人もとても気に入ってらっしゃるとよく発言されています。

6曲目の『ポッキーゲーム』はサビに入るまでが非常に短くスピード感あふれる曲です。それから「ピースフル!」のポップな掛け声がポイント。1曲目の『maiden's cafe (blackberry)』にも掛け声がありましたが、とくに重いテーマが描かれる歌詞の中で可愛さと軽やかさが演出されています。余談ですが『ポッキーゲーム』はのちに別アレンジで発表されておりまた違った雰囲気があります。

さらに7曲目『candy ghost』で全てが混沌とし沈黙する少女たち。後半、いきなり激しい音量で壊されていく世界というか衝動的な想いというか悲痛な叫びみたいなものが詰まっています。この曲があってこその次の『maiden's cafe (blueberry)』。

8曲目で再び『maiden's cafe (blueberry)』というタイトルで再びカフェに戻ってくる少女たち。様々な経験を経た少女たちを歌っているのでこれまでの要素を少しずつ含んだ曲が展開されます。またそれぞれの少女たちの気持ちをすべて包括しているにもかかわらず、統一感がありここまで聴いてきた人たちは思わずふふっとなってしまうそんなさりげなさもあります。この後に1曲ありますが印象としてはこれが少女たちの最後の曲で9曲目はエピローグ的な位置づけのように感じます。ですので最終的に世界がひとつにまとまりラストに続いていくのです。

最後の曲『チョコレート・シナプス』は本当にラストに相応しい。06:51ありますがあまり長さを感じさせない曲展開と美しさ。屈しないと言っていた少女たちがカフェから出て大人になることを受けいれていく様子が描かれています。葛藤と受容。1番好きな曲です。

全体を通して喪失をテーマに少女たちの心の葛藤が描かれている作品となっていますが、収録されている音楽はバラエティに富んでいます。大人になろうとしていく作者本人の気持ちがかなり投影されているのかもしれません。
私たちが大人になって失くしてしまったものが多く含まれている。そんな作品たちです。
ちなみにその直後に発表された『戦車たち』は喪失をテーマにした連作になっているので是非合わせて聴いて欲しいです。


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