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たりないぬくもり

鍋を作り煮込み、風呂を沸かせ、寒い部屋で私にだけ温もりが足りない。野菜や水は加熱されていると言うのに、エアコンもつけず氷点下で独居の暮らしを営む夜。

同棲というものをかつてしたことがあるが、あのわずらわしさをシェアしながら体温も重なる時間帯が懐かしくもある。人肌恋しいなどとはあまり思わないのだが、寒い日に野良でさえ猫が丸く寄り添うように、たりないぬくもりを与え合うというのは煩悩よりも本能なのかもしれない。

ひとのやさしさよりも、作為に気を取られてしまうようになり、ずいぶんと腐り果てたが、マッチ売りの少女のように、ぬくもりの幻想がみえるようになるのなら、いよいよ心身ともに私もよろしくないのかもしれないね。

サンボマスターが、そのぬくもりに用があると歌ったように、手の届かない人ほどぬくもりというものに飢えて、だからより遠ざかってしまうのかもしれないなと考えたが、わずらわしさを共有できる人なんて、ほんとうに出会えることの方が奇跡なんだろう。

失わないように、損なわぬように、その奇跡を育て上げられる人たちの笑顔が世界を温めて、失せた記憶に囚われた私含む誰かの冷えた心をあたためるまた別の奇跡のひかりとなりますように。

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