外販にあんまり力を入れなかった話
コロナ禍以降、どこの飲食店もテイクアウトを始めるようになり、合わせて多くのお店が宅配事業に参加するようになった。
お店に来てもらえない以上、販路を開拓するのは当然のことだという空気になっていたし、実際それで成功していたお店もたくさんあった。
うちの店は、細々とではあるけどテイクアウトは以前からやっていた。
近所の方がお弁当を注文してあとで取りに来てくれたり、前日(や当日)にお弁当の注文を受けたりしていて、だいたいどのくらいのオーダー量で厨房がパンクするかは分かっていた。
この時の「パンクする状況」というのは、「お客さんが当然期待するであろう提供時間にはとても間に合わず、お客さんは「まだですか」と苛々するし厨房はバタバタでこちらもまた苛々する、結果、満足してもらうにはほど遠く、むしろ双方ストレスが溜まる、という状況のことを指す....
たとえば、いくつかの例を書いてみる。
①ひとりでよく行くお店にお弁当を買いに行く
(テイクアウトする人)
お弁当をひとつ買いに行こうと思う。
12時、お店に来て注文しようとする。
お店のスタッフはバタバタでなかなかオーダーを受けてもらえない。
ようやく順番が来たのでお弁当をひとつ頼むと、「注文がたてこんでいて、お時間かかります」と言う。仕方がないので店外で待っている。
10分15分経っても声をかけてもらえる感じではない。
20分経ったのでさすがに「あとどのくらいですか?」と聞いてみた。
「まもなくできあがります」と返ってきたが、結局30分かかった。
おいしかったけど、そこそこの値段もするし、こんなに待たされるならもう行かない。
②外食できないからテイクアウトでお昼ご飯にしようということになって、何人かではじめてのお店に行く(テイクアウトする人)
同僚とお弁当を買いに行くことになった。
せっかくだから行ったことのないところで買おうという話になった。
お店に着いて、お弁当を4つ、せっかくだから別々のメニューで注文すると、お店の人いわく「今から30-40分はかかります」と言う。
そんなに待っていたら食べる時間がなくなってしまうので、「やめようか」となる。
せっかくここまで来たのに、無駄足をくった。
時間がかかるなら最初から知りたかった。
親切じゃないな。
③いつもひとりで行くお店に、さくっとご飯を済ませに来た。(店内に食事に来た)
ランチを食べに来た。
席に着いていつものメニューを注文する。
店内は空いているみたいだけど、厨房は忙しそうにしている。仕込みが間に合ってないのか、テイクアウトの注文があるのか。
いつもなら空いてれば10分くらいで出てくると思うのに、今日は20分経っても出てこない。
ここまで待ったし、20分も経てばそう待つことはないだろうともう少し待つことにする。
結局出てきたのは30分経ってからだった。
生姜焼きにそんなに時間がかかるなんて、信じられない。急いで飯をかきこむ。
せっかく好きなものを食べに来たんだから急き立てられずに食べたかったのに。充分味わう余裕もなくて、なんだかかなしい。
店側のことは、語ることでもないので割愛する。
解決策というか防止策というか、そういうのはいくつかある。
テイクアウトや宅配を拡充するなら、店内の営業は簡素化するとか制限するとかして、余裕をもてるくらいの仕事量にしないといけない。
メニューのバリエーションを減らす、または入店を制限するなど。
さらに加えるなら、テイクアウトは丼ものやカレーなど盛り付けが簡単なものに絞るなど。
店内の営業をそのまま流したいなら、テイクアウトの注文は前日までに済ませてもらうなど。
とにかく総数を売りたいのか、新規客を獲得したいのか、既存客をキープしたいのか、どれを主にするかによって、取る方法(あるいはコンビネーション)が決まる。
コロナ禍では、
•既存客が来ないか、かなり減った(テレワーク、外出自粛)
•テイクアウトや宅配事業の参入によって、顧客側に新しいお店を利用しようという意欲が増えた
•短期的とはいえ、この状況は年単位で継続する見込みである
•すぐではないが、元のように行動できる状況になれば、既存客が戻ってくる見込みがある
ということなどがあって、
どうするか、それをいつまでやるか、もう新しい形に変えてしまうか、
それによって、客席や厨房、設備など、そのままでいいか変えるべきか、
細々とした部分で決断を迫られる状況にあった。
そして、お店のやりやすいやり方に変えたとしても、利用するお客さん側がそれに合わせてくれるかどうかは別の話でもあった。
たとえば、テイクアウトは前日までに注文、変更不可、と言われても、日々のお弁当なんてその日にならないと買うかどうかわからないという場合がほとんどなわけで、
大量購入は別として、
前日から個数を決めてお弁当を購入しておいて、当日引き取りに行く、というのは非現実的な条件だ。
その日のお弁当は、すぐ買えるところに行く。
詰めてあるか、注文したらすぐ受け取れるお店に行くのが普通で、それを超えるだけのお店のパワーがないとそういう条件を飲んでもらうのは難しい。
うちのお店では、外販を拡充するのに力を注ぐことをしなかった。
基本的に厨房の販売能力が高くないので、一気にオーダーが重なるとすぐにパンクする。
調理工程の混雑だけじゃなく、盛り付ける場所、詰めた後の商品を置く場所も限られている。
一度に受けられる数が少ない以上、ツーオーダーでやるのは無理である。
といって、普段やっているメニューは予約してまで購入したい!というものではないし、仮にそういう人が単発的に多くいたとしても、継続的にそうしてもらえるとは思えない。
(そもそも、そういう設定でメニューを作ってない)
だけど、容器に詰めておけばロスが出る。
それに、スムーズに外販するために店内のメニューを減らせばいつも来てくれている人はがっかりするだろう。
新規のお客さんにコンタクトするより、うちのお店(の料理)を求めて来てくれている既存客を大事にする方がお店の今後にとっては重要だから、そういうことはしたくなかった。
週に一度でも月に一度でも、「この日に中目黒に出勤だから、その時にはこの店に来る」と楽しみにしてくれる人に対して、真摯に対応することが先々につながると思っていた。
(つづく)