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【ウクライナのもう一つの矢】EURO2024 groupE 1st Match ルーマニアvsウクライナ【ラジオ頭率いる】

サッカーを愛する皆様、こんにちは。
世界的なコンペティションのレビュー記事をアーカイブ化する計画のウクライナ担当としてEURO2024でも末席に名前に入れていただきました、くろだです。
EURO2024、2週間前に開幕して気が付けば大会も終わりやっと筆を取れるようになった体たらく。とはいえ、名前を連ねて貰えた責任を果たすべくウクライナについてできる限りを書き残していこうと思います。
グループリーグを終えて惜しくも敗退となってしまったウクライナですが、果敢に戦ったウクライナチームの足跡を残し、少しでもポジティブな中身を見出すことが出来ればいいなぁ、と思っています。

スタメン

ベンチ入りメンバーも多く、名前も長くて大変ですな、コレ・・・(;´Д`)

試合雑感

メンバーを見ればレアルマドリッドやチェルシー、アーセナルなど所属チームのネームバリューでは圧倒しているウクライナですが、対するルーマニアもイタリアやイングランド、スペインでプレーする選手もおり、名前だけでは測れませんよね、という趣。

そんなルーマニアの気合が表れたのかウクライナのキックオフで始まった試合はルーマニアのハイプレスで幕を開けます。
基本布陣4-1-4-1で迎え撃つルーマニアに対してウクライナは4-2-3-1を基本布陣とし、ビルドアップ時には右サイドの2番コノプリャーの一列上がりを基本として、17番ジンチェンコは相手のラインの高さに応じてCBを含めた3枚で伺うかルーマニアのSHに影響を与える位置取りを取るかを使い分け。6番ステパネンコがアンカー的仕草を見せつつ19番シャパレンコがルーマニアの中盤のライン上に位置しながら右サイドの15番ツィンガコフや2番コノプリャーがライン間のアンカー脇でボールを受けるのを助ける形。ウクライナはボールを握りながら前進を図る意識が強く、後方からのビルドアップで相手のラインを丁寧に越える経路を志向しているようです。その出口となるのが左サイドの10番ムドリクと右サイドの15番ツィガンコフですが、両サイドのパフォーマンスがこの日のウクライナの結果に直結する結果になります。

ウクライナは初手の応酬でシャパレンコから左サイドの10番ムドリクへクリーンにボールを展開できたものの、以降はルーマニアが右サイドのライン間のケアを強めた事で簡単に展開を許してもらえず徐々に右サイドからの前進を強いられる事に。

ルーマニアはムドリクへの配球をケアすることでウクライナの攻め手を制限

この辺はジンチェンコのビルドアップ時の位置取りがムドリクと遠くなりがちだったこと、ムドリクへの配球が14番スダコフが位置する左ハーフスペースを経由しての形を意図していた節があり、そのスペースはルーマニア18番R.マリンにケアされる事が多かった事からそもそもムドリクへの配球機会が少なくなりがちな構造だったことが影響していそうな気がします。それじゃあ右サイドから攻略しよう!と比較的スペースを用意してもらえたウクライナの右サイドでの攻略を目指したものの、15番ツィガンコフがルーマニアの守備陣に対してパフォーマンスを発揮できなかった事で徐々に打ち手が閉じられていく形となります。

ルーマニアは序盤こそムドリクへの配球を許したことからピンチの芽を出してしまいましたが、ムドリクのサイドへのケアを強めた事によって徐々に20番マンと17番コマンのサイドアタックから深くまで前進を出来るようになっていきます。
17番コマンは深くまで抉る、というよりは幅を取りつつバイタル19番ドラグシュが深さを取る事で空いたバイタルエリアへの展開を狙い、20番マンはサイドからのクロスを主軸にドリブルスキルを披露していきます。
そうしてルーマニアに先制点が生まれたのは前半29分。
ウクライナがクロスをキャッチした場面からのビルドアップに対してルーマニアがハイプレスを仕掛けます。キーパーからボールを受けた14番スダコフがプレッシャーを受けた事で13番ザバルニーにボールを預け、そのままサイドバックの位置まで流れていきます。本来のサイドバック2番コノプリャーはポジションを上げている状態で、本来スダコフがいるべきポジションには誰も位置していません。その状態でビルドアップを図ろうとボランチを経由してスダコフが再度ボールを引き取るものの、前への配球を見送って22番マトヴィエンコへボールを配球するも、ルーマニア18番R.マリンの追撃を受けてゴールキーパーまでボールを戻すことに。この段階で逃げ道となるはずのサイドには20番マンが位置しており、ボールカットから21番スタンチュが素晴らしいミドルシュートを叩き込みました。
直接的にはゴールキーパーのルニンがパスミスをしてしまった事が失点の原因となっていますが、起点を探れば14番スダコフが本来のタスクでもあるはずのボール保持の部分で後れを取ったことで構造が硬直化して失点を導いてしまったように思えます。

失点直後の若干重心を下げたルーマニア相手に11番ドフビクが起点となって15番ツィガンコフがシュートチャンスを迎えたシーンをモノに出来ていれば流れは変わった可能性もありますが、先制点を与えてしまったウクライナはルーマニアの撤退守備に手を焼きながら前半を終える事に。

ルーマニアボールから入った後半直後、ウクライナは前半同様にハーフスペースへの配球から活路を見出そうとしますがルーマニアの守備の圧力に思うような攻め筋を与えてもらえません。ウクライナの志向に若干の変化が見られたとしたら右サイドへの配球を崩しの起点として左ハーフスペースに位置する14番スダコフへの配球とワイドに位置する10番ムドリクへの配球への意識が強まった事でしょうか。ムドリクのクロスは残念ながらルーマニア守備陣の枚数が揃っている事から11番ドフビクひとりでどうにかするのは難しく跳ね返され続けるものの、チャンスの一歩手前までは行けそうな雰囲気が強まっていきますが、逆襲への機運が強まった52分にルーマニアに追加点が生まれます。敵陣深くでのスローインからボールを奪ったルーマニアは19番ドグラシュの力強い前進からカウンターを成立させ、最終的には18番R.マリンの素晴らしいシュートがゴール左隅に突き刺さりました。
セットプレーの切れ目での集中力が欠けてしまったのか、逆襲にむけて前のめりになってしまったからなのか、ウクライナとしては痛い失点となります。
追加点を得たルーマニアはウクライナに落ち着く暇を与えず、即座にハイプレスから3点目を引き寄せます。遠因としては54:14ごろからのウクライナのビルドアップに対してルーマニアのハイプレスの圧力が強まり、サイドバックを経由しながら6番ステパネンコが前を向けた段階で10番ムドリクがパスを受ける準備が整っていなかった事からルーマニアにコーナーキックを与える展開となります。ここはムドリクが悪かったというよりはムドリクが顔を出すための時間をステパネンコが用意できなかった事が原因と言えると思いますし、失点直後にハイプレスを敢行してウクライナに余裕を与えなかったルーマニアの意識が素晴らしかったように思います。

3点差となり万事休す、という状況となったウクライナですが諦めることなく追撃の機会を伺います。17番ジンチェンコの振る舞いにも変化が見られ、相手ブロックの攻略に顔を出しながら攻撃時の枚数を増やす構え。

62分にルーマニアは20番マン⇆10番ハジ、17番コマン⇆13番ミハイラ、ウクライナは6番ステパネンコ⇆18番ブラツコ、19番シャパレンコ⇆9番ヤムレチェク、15番ツィガンコフ⇆7番ヤルモレンコとお互いに交代を行います。

アタッキングサードでは17番ジンチェンコが大外へ位置するように10番ムドリクがハーフスペースへの侵入を行うなど左サイドでの攻略の道筋を変化させたウクライナ、14番スダコフが左ハーフスペースで起点になれなかった状況から一筋の光を示すことに成功しますが、ルーマニア守備陣の集中力の前にチャンスの芽を花開かせることを許しません。
最終的に一矢報いるために力を尽くしたウクライナでしたが、最後の壁を打ち破るには至らず終戦。
とても理性的で論理的な志向を見せようとしてくれたウクライナの初戦は0-3での敗戦となってしまいました。

まとめ

ウクライナがこの試合で誤算だった部分があったとすれば左サイドの攻略における要衝となるはずだった左ハーフスペースでのパフォーマンスと右サイドにおける侵入が奏功しなかった事ではないかと思います。
ルーマニア守備陣の集中力が高く、クロスに対して飛び込む11番ドフビクへのケアを怠る事なく完遂した事は特筆すべき事ではありましたが、15番ツィガノフと2番コノプリャーがオン・ザ・ボールでパフォーマンスを出せなかった事が結果的に左サイドへの意識を強める事になり中盤の底に位置する2人のバランスを崩す結果になったのではないかと思います。
特に15番ツィガノフはドリブルでの仕掛けが一度でも成功していればルーマニアの4-1-4-1ブロックに対してバランスを歪める一助になっていたはずですしスペースを食いつぶす以外の結果をもたらす事が出来なかったのは痛恨だったのではないかと思います。
左サイドでの攻略においては10番ムドリクが大外を担当する事が多かった序盤ですが、左ハーフスペースに位置していた14番スダコフがムドリクへの配球を助ける事が出来なかった事が停滞の一因となっていました。結果として後半に見せたムドリクのパフォーマンスのように、もう少し時間を作る事が出来ていればバイタルエリアでのウクライナのパフォーマンスも変わっていたかもしれません。
この試合、ウクライナの振る舞いはシェフチェンコが監督をしていた時のイメージの通りにビルドアップから理性的に振舞おうという姿を見せてくれました。そのことに少し安心するとともに各選手の局地戦におけるパフォーマンスや配置のほんの少しのズレなどで結果的に現象が好ましいものではなくなってしまった事は残念です。
2試合目ではどんなパフォーマンスを見せてくれたのか、大会を通じて何かを見出せればいいな、と思います。

試合結果

EURO2024 GroupE 1st Match(フースバル・アレーナ・ミュンヘン)
 ルーマニア 対 ウクライナ 3-0
得点:
 '29 スタンチュ(ルーマニア)
 '53 マリン(ルーマニア)
 '57 ドグラシュ(ルーマニア)


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