ローズクォーツと水晶②
愛の結晶◈ローズクォーツ編
私の愛はローズクォーツでできている。
倒れた父の介護や仕事をどうサポートするかを話し合うために、義姉たちと話し合う日々だった。一時は生死を彷徨う状態だったが、思いの外回復し、今後の生活の場を決めるという大仕事が残る。
義姉はだらしのない兄にはよくできた奥さんで、彼女の気丈さで家庭が回っているようなものだ。私や実姉に対しても、はっきりテキパキと言動をおこす。情けない兄という負い目があるので、どうしても下手に出る私たち姉妹、そんな構図だ。
当初は父は施設でなければ生活ができなそうな状態であった。それが、リハビリを続けていくうちに、左目は完全に見えないが、身体的な介助は必要がなくなったという。それならば、自宅に帰るという父の意向を叶えてやりたい、そう考えるのが娘たちである。
ただ、いくら小姑たちがそう騒いでも、実際に同居している義姉がウンと言わなければ、何の意味もないのだ。恐るおそる提案をしてみると、烈火の如くの怒りに触れ、返り血を浴びる。そそくさと提案を下げ、施設入居で話をすすめることになった。
そんなときにまた、石の声が聴こえる友から、ローズクォーツから伝言があると教えてもらった。
彼女(ローズクォーツ)が言うには、「義姉はあなたのことを信頼している。話す機会を持てて嬉しいと思っている。ただ、あまのじゃくなだけだ。あなたは忖度せずに、ちゃんと言いたいことを言っていい。大丈夫だから、義姉の立場や想いを先回りして考えて、言葉を呑む必要はない。彼女の言葉を引き出してあげなさい。あなたがキッカケを与えれば、彼女の口から本心が出る。そうすれば上手くいく。」
前回、調整中と口を閉ざしたローズクォーツが、こんなにも話してくれるなんて、思いもしなかった。私の友人に、本来の姿を見せていたことを知ってから、私は毎日ローズクォーツに謝っていた。私が研磨したわけではないけれど、本人ならぬ本石の意思に反して、こんなに小さく丸く削られてしまったのだから、どうしてもいたたまれない気持ちになっていたのだ。
更に、「2人の間をローズクォーツの愛が取りもつから大丈夫。話し合う時は、元の形をイメージして2人の前に置きなさい。そして、研磨された核心の石部分はあなたのハートにインストールしなさい。」
そんなことまで話してくれて、感動を通り越して言葉をなくしてしまった。その深い愛が無限に拡がるのを感じるのが精一杯だった。
そこで迎えた当日、私は言われた通りに元の形をイメージしたローズクォーツを空想の中で置いて、胸に小さな精鋭部分をインストールした。その結果、話をしっかり聞いた後に、するすると言葉が降りてきて、彼女に必要なメッセージを伝えた。父が施設に入るのには変わりないが、心には爽やかな風が吹いた。
ローズクォーツをインストールした感覚が心地よくて、余韻に浸りながら、今度は父へ施設入居の話をしに向かう。自宅に帰りたいと何度か騒いだ父だ。その場の誰もが怒鳴るのを覚悟したが、意外にも、父は「わかったよ」と、すんなり受け入れてしまった。拍子抜けしてしまったが、その場の空気が、ローズクォーツの愛に満たされていたのを感じ、密かに合点がいった。
大仕事をやり遂げた帰り道、雲間から幾筋もの光がさす。天使の梯子だ。その雲のまわりはなんとも言えない淡いピンク色で、愛と優しさが伝わってくる。そう。それはローズクォーツの優しい色合いだった。
小さく削られてしまっても、こんなに素晴らしい愛のパワーがあると知った。余分なものを削ぎ落として、純粋に生きるということを、小さな彼女(ローズクォーツ)が我が身を通して教えてくれた。削られてしまったことを申し訳なく思っていたが、そうではなかった。今は小さな彼女を誇りに思う。
ありがとう。
この幸運な出逢いに感謝しかない。
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