好きな作品を名言と共に解説してみる ~①宇宙海賊キャプテンハーロック・その2~
前々回に続き、「宇宙海賊キャプテンハーロック」の名言と、その場面の解説を書いていきたいと思う。
6.ひとりぼっちである、ということ
"一人ニナッテハイケナイ!
人間ハ 顔ヲアワセナケレバイケナイ
一人ニナッタ時ノミーメガ、ドンナニ淋シカッタカ…ドンナニ悲シカッタカ…
ニクミアウ相手デモ、ヤハリイタホウガイイ!"
カタカナばかりの台詞で何だと思われたかもしれないが、これは乗組員の中で唯一の宇宙人であるミーメの言葉である為。
不気味な外見に似合わず優しい心の持ち主で、アルコールを主食にしていた星の出身の彼女は、時折酒盛りに混じってり、酔っ払ってメロメロになったりと陽気だが、実は母星が滅び天涯孤独な身の上でもある。
そんな彼女が、「気力を失った人類など消えた方がいい」という、ハーロックの言葉に対して発した台詞。
かつて、ミーメの母星の人間たちも、繁栄の事だけを考え、未来を顧みずに滅びてしまった人々で、かつてはミーメ自身も、そんな同族など滅びてしまえ、と願っていたという。
けれど、たった一人、植物に呑み込まれた星に残されて、それは考えてはいけない事だったと悟る。
自分も、色んな愚痴や不満、怒りの言葉を心中で吐き散らしながら生きている、仕方の無い人間だけど、それでも地球にただ一人になってしまったら、たぶん耐えられないだろうな、と思う。
7.親友と願いと守るべきもの
”ミーメ、わかってるよミーメ。
アルカディア号を造った親友がいつもいっていた事を思い出してごらん
あいつは いつもこういっていたじゃないか
あいつはとても地球が好きだった
ぐーたらな地球人もみんな好きだった
地球人類みんなが地球を嫌いだといっても、俺は地球が好きだといってた
みんなが地球を見捨てても 自分は決して地球を捨てないといってた…
守るに値しない堕落した人類でも…それでも守りたいと…
今のためではなく、遠い未来の為に守るのだと…
そのためにアルカディア号を造るのだと…
口ぐせのようにそういってた
そしてあいつはアルカディア号を造り 俺を信じて…この艦のすべてを俺にまかせて死んでいったのだ
俺は死んでいった友を裏切りはしない
このアルカディア号を裏切りはしない!"
7.のミーメの台詞を受けてハーロックが返した言葉。
堕落した地球の人間たちを憎みつつも、それでも守るのは何故か、という事。
例え自分の気持ちと相反していても、親友との約束は絶対に守る。
全編通して言えるが、ハーロックは自分と違う信条や主張に対して、蔑ろにしたりしない。
8.自分の手で作るべきもの
”ゴハンと赤ン坊は 人間が自分の手で造らなきゃいけないのよ”
食堂を取り仕切るマスさんは、「上手くなかろうが口に合わなかろうがたっぷり食わしてやる」と言い切る肝っ玉母ちゃん。
彼女が、「メシこそ自動で炊けるようにすればいいのに」というクルーを叱り飛ばして言った言葉。
この作品が出版された当時、炊飯も今ほど便利ではなかったろうから、一概に比べられないが、何がどんなに変わっても、人間が自分の手で造らなければならないものは譲ってはいけない、というのは同感だ。
9.自分で命を終わらせた者に向ける言葉
”ゾルは自殺した
俺はどんな恥ずかしめを受けても 信念を貫くまでは自分で死んだりはしない
そこのところは すこし違ったようだな
ゾル…君の胸の内に燃える無念の火を 俺は忘れない。
ゾルの胸の内はわれわれと同じだった
地球人以外にも 共に友情を分かちあい 共にマゾーンと戦う事のできる男がいる事を ゾルは教えて死んだ
真の友として、君を宇宙にほうむる
さらばだ!!”
戦いで捕虜となった、トカーガ星の戦士・ゾルは、アルカディア号の面々と意気投合するも、マゾーンの手先になってしまった事を恥じて、自分で命を断つ。
彼の最後を見たハーロックのこの台詞の素晴らしい所のは、自分の信念は明確にしつつも、反対の結末を選んだ者への敬意と労わりを忘れない所だ。
特に、死については、問題が重大なだけに、自分と違う考えに対しては、どうしても攻撃的に、感情的に否定してしまう事が現実では多いだけに、この姿勢は個人的には忘れてはいけないと思う。
10.どうしようもない時には飲んで寝る
”台羽よ 男には時々 何をしても全く駄目だと言う時があるのだ
やればやるだけ おかしくなるだけで することなす事 無駄な努力…
ふふ いいか そういう時 男はな
酒でも飲んで ひっくり返ってねてればいいんだ”
エネルギーが全てゼロからマイナスになってしまう宇宙の墓場・デスシャドウに捕まり、おまけに遠方からマゾーンの攻撃が狙ってくるという危機的状況でハーロックの放った言葉。
これはもう、現実で思い当たる方も多いと思う(笑
実際のところ、アルコールは眠気を飛ばすので、とっとと寝たい時にはあまり向かないが、やってられるかという気持ちの時には、強い酒をあおって寝床へ直行するのが最善というのはわかる。
11.最初の一歩は自分でいじってみる事
”機械は…特に武器は よくさわってみなければ理解できないものだ。
一度いじくりまわし分解してみれば良くも悪くも構造はのみこめる
それが第一歩だ”
台羽はアルカディア号の主砲を改良しようと張り切るが、いざ撃ってみると異常な反動が起きてまともに使い物にならず、台羽自身も衝撃で気絶してしまった。
実はハーロックを始め、クルーは皆、そうなる事はわかっていたが、敢えて黙って撃たせたという。
何で黙っていたのか、皆で僕の能力を笑いものにする為か、といきり立つ台羽に、ハーロックは「あれはあれでいいんだよ」と返す。
機械に限らず物事を理解する為の原則や、失敗するとわかっても敢えてやらせる事の大事さ、その失敗を責めない優しさ、この言葉の後に自分の銃を渡して「分解してみてもいいぞ」という懐の深さ、などなど、このシーンはアルカディア号の良い所が幾つも詰まっている。
もっとも、まだ血の気の多い台羽は、自分のヘマにふさぎ込み、挽回しようと焦って行動してピンチに陥る羽目になるのだが、それも含めて、この判断は後々まで生きてくるだろうと読者としては思う。
12.遊びやムダを無くして進歩はあり得ない
”俺の親友はマゾーンとは反対の性格でね
ムダだとか遊びは絶対必要だと思っていた
だからここには楽しいムダがたくさん造ってある
地上からの穴もそうだ
この海賊島は俺にとっても楽園だよ”
アルカディア号の後ろに、自律移動の形でくっついて来る海賊島は、内部に艦を格納・整備できる空間を備えた移動基地であると同時に、皆が遊べる砂浜や、地上の海そっくりの塩水プールもある楽園。
もちろん生身の人間が偶然降り立つことは考えられないのだが、なぜか地上から歩いて入れる通路が作ってある。
これに対するハーロックの台詞も、現実に大いに通じるところのある名言。
大人になると特に、無駄を排して最短距離で、という志向が強くなってくるだけに、この言葉は忘れないよう、心に留めている。
番外・ナレーションより
『天地宇宙万物の真理でもおしはかれれないものが
この世にひとつだけあるという
《友情》と言う名の偉大な存在がそうだと
古代エジプトのスカラベに誰かの手で彫りこまれたものが
二十世紀まで残っていた…』
これは台詞ではなく、劇中で入るナレーションの一つ。
本作品のナレーションは印象深いものが多いが、その中でとても好きなものを番外として挙げてみた。
このスカラベの話は、どこかに原型の話があると思うのだけど、調べても一向に出てこないので、ご存じの方は是非教えて頂けるとありがたい。
他にも、本作には名言がたくさんあるが、予想外な事に、全部書いているとおっつかなくなってしまうので、残念ながらここで終わりとしたい。
興味が湧いた方は、是非一度読んでもらえると嬉しい。
こんな感じで、好きな作品をジャンル・作者・年代、ことごとくバラバラで語っていくが、その中で印象に残るものがあればいい、と思っている。