飲飲飲飲飲怪!
脈打つような頭痛と胃のむかつきに呻きながら博之がヨロヨロと起き上がると、そこは川の河川敷であった。頭を押さえつつ左右を見渡すと、総一郎と綾子が同じように転がっていた。
「ああクソ、やっちまった…」
博之は襲い来る二日酔いの苦しみに毒づきつつ、昨晩のことを思い出そうとした。真一が彼女と破局したので、慰めようと総一郎と綾子と自分でいつもの居酒屋で飲んでいたことは覚えている。そこで全員ベロベロに出来上がってしまい、その勢いで二軒目、三軒目と梯子酒をしたという事実も覚えている。しかし、そこで一体何をした結果河川敷で転がる羽目になったのかが思い出せない。それにしても、土曜の朝にしては周囲があまりに静かすぎる。自分達以外の人の姿が一切見当たらない。
「おい、おい、起きろ」
博之は総一郎と綾子を揺すった。心底気分が悪そうに総一郎は目をこすった。その手は血に塗れていた。それに気付いた総一郎はギョッと目を見開いた。綾子も同様気分が優れない様子であった。
「ごめん博之、ポカリ買ってきて…え、嘘、あれっ?」
綾子は上体を起こして下半身をまさぐった。
「どうした?」
「え、どうしよ、私、パンツ履いてない…なんで…」
「マジかよ」
総一郎が困惑しつつも露骨に鼻の下を伸ばした。この男は下心を隠せないタイプだ。裏表のない性格なので長所と短所は表裏一体といったところか。それにしても、だ。
「真一がいない」
博之は周囲を見渡したがどこにも真一の姿が無かった。
「先に帰ったんじゃねえの?」
「電話かけてみたら?」
二人の言うように博之は真一の携帯にコールを入れた。その時、少し離れた場所から携帯の着信音が鳴った。
「ちょっと僕見てくる」
博之は着信音の鳴る方向に走った。そしてその発信源にたどり着いた時、博之は言葉を失った。
そこにあったのは百舌鳥の早贄の如く木の枝に突き刺さった真一の亡骸であった。
【続く】
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