都利三

昼は会社員、夜は小説書いたり書かなかったり。

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最近の記事

(イン)ビジブル

 テーブルの向こうを赤いドレスを着た足の無い女がスーッと横切り、喫茶店から出ていく若い男性の後ろにベッタリと付いていくような形で外に消えていった。こういう光景は日常茶飯事なので驚きは無いが、あの男性が心配だ。  僕は生まれつき、「見える」体質だ。イカが人間に見えない色を見ることが出来るのと同じく、一般人に見えない波長の光を見ることが出来るのだと思う。いわゆる霊的なものは当たり前のように身近に存在している。街の交差点や図書館、歓楽街、マンションの部屋、あらゆる場所にそれらはい

    • 死んだ。遺った。

      「えー、忙しい中こうやってみんなが揃って、橘も喜んでると思います。それじゃああいつを偲んで、乾杯」  親友の橘が自殺して一年が経った。彼がアパートの部屋で首を吊っているのをご両親が発見したそうだ。遺書は無かったそうだが、警察は事件性無しとして処理した。  今回、橘を偲ぶ会という名目で、彼と特に親しかった僕、森田、荻野の三人が学生時代皆で入り浸っていた居酒屋に集った。彼の死以降一堂に会することが無かったため、三人が揃うのはかれこれ一年ぶりである。 「後でさ、昔みたいにショ

      • 緑色の怨嗟

         うだるような暑さの夏の日、街からは人々の生活音が消えていた。その代わりに周囲を支配していたのは、けたたましいギーッ、ギーッという音だった。街の風景は緑色に塗り潰され、その表面は細かく蠢いていた。 人々は家の外には出ない。出るとたちまち集られ、その強靭な顎で噛み付かれるためだ。自動車など運転しようものなら、大量の轢き潰された死骸でスリップ事故は避けられない。  獰猛なキリギリスが異常発生し、この街を覆いつくしてから一ヵ月近くが経つ。他の地域は今のところ特に被害を受けていな

        • 怪談掌編 逢魔話⑥『浮面の祭り』

           どの地域にも、土着の祭りというものが存在する。特に田舎では最早誰も由来など知らないような祭りが今なお行われているというようなケースもある。僕が住んでいた村もその例に当てはまる。一年に一度、大人たちが田園風景が広がる村の中心にぽつねんと存在する山の中に入っていき、そこに存在する神社で祭りを執り行っていた。僕の両親も毎年参加していたが、当時まだ小学生だった僕と中学生だった兄は家で留守番をするように言いつけられていた。祭りの日は村のどの家も大人が出払っているため、辺りはしんと静ま

          怪談掌編 逢魔話⑤『とあるSNSアカウントの投稿』

           昌弘は最近SNSでとあるアカウントの投稿を閲覧するのが日課になっている。それはとあるカップルが運営しているアカウントなのだが、その投稿内容というのが二人の所謂夜の営みの写真や動画であった。 「よくこんなプライベートの極みみたいなもん誰に見られるか分からんのにネットに投稿するよな」  と昌弘は呆れ、内心馬鹿にしつつも、それはそれとしてアップされた写真や動画のご相伴には預かっていた。  そんな出歯亀生活を送っていたある日、昌弘はその日の投稿に違和感を覚えた。いつもは写真や

          怪談掌編 逢魔話⑤『とあるSNSアカウントの投稿』

          怪談掌編 逢魔話④『僕の方が先に好きだったのに』

           僕と妻の理恵は二カ月前に籍を入れたばかりで、来月に結婚式が予定されている。自分で言うのも何だが、まさに人生における幸せの絶頂というやつだ。今日も式に向けて二人で晴れ着での写真の撮影をしに行ったところである。理恵は生粋の写真嫌いで、これまで二人で写真を撮ったことは無く、デートの際にも撮ろうとすると本当に嫌がるため、彼女の写真はこれまで一枚たりとも僕の手元に存在しなかった。 今回の撮影も、嫌がる理恵をなんとか説き伏せて写真屋へ連れて行ったのだ。ただ、どうしてそこまで彼女が写真

          怪談掌編 逢魔話④『僕の方が先に好きだったのに』

          怪談掌編 逢魔話③『行方不明者のビラ』

           不謹慎な話だが、小泉佳代子は町の掲示板に貼られている行方不明者の写真のビラにふとゾクッとした感覚を覚えることがあった。特に何年も前に貼られた写真の人物は少なくない確率で既にこの世にいないのだと考えると、それがある種の遺影のように感じられてしまうのだ。  母親の真奈美は佳代子が幼い頃に失踪し、かつて明るかった父の薫はそれ以来人が変わったように塞ぎ込んでしまった。母は非常にあたかかく、優しさにあふれた人物であったので、父がそうなってしまうのも佳代子は理解できた。その件もあり、

          怪談掌編 逢魔話③『行方不明者のビラ』

          怪談掌編 逢魔話②「何気ない人間観察の末路」

           始まりは本当にふとしたきっかけであった。  僕の住んでいる部屋は喫煙が禁止されており、煙草を吸うためにはベランダに出る必要がある。またこの部屋はマンションの3階に位置し、隣接する神社の境内を一望することができるため、深夜に煙草を吸いながらぼんやりと神社を眺めるのが日課であった。隣の部屋から時折り聞こえる男女の言い争いや子供の泣き声に気持ちが滅入っていたので、煙草の時間が貴重なリラックスタイムになっていた。深夜の神社が持つ静謐な雰囲気が僕の心を落ち着かせてくれた。  その

          怪談掌編 逢魔話②「何気ない人間観察の末路」

          怪談掌編 逢魔話 ①『赤い紐の女』

           街を歩いていると、電柱や建物のフェンスなどに紐が括りつけられているのに出会ったことはあるだろうか。誰が何のために括りつけたのかわからない紐であるが、あまり誰が何のために括っているのか詮索しない方がいい、そんな話である。  僕には当時気になっていることがあった。それは電柱やフェンスといった、近所の至る所に括りつけられた赤い紐のことだ。初めて見かけた際は特に気にも留めていなかったのだが、その後街を歩いていると視界に赤い紐が入ってくる回数がみるみる増えていき、最終的には市内全域

          怪談掌編 逢魔話 ①『赤い紐の女』

          ゴリマッチョ街道

           ゴリマッチョ街道、そう呼ばれる道がこの町にはある。その道を男が一人で通ると、近隣に建ち並ぶ建物という建物から筋骨隆々な男たちが満面の笑みで覗いてくると言うのだ。もし体格が一定基準よりも貧相であった場合、わらわらと建物より吐き出される男たちに拉致され、過酷な強制筋トレと人格破壊により、ゴリマッチョの仲間入りをさせられるのだと言う。いわゆる都市伝説であるが、俺はその存在を確信していた。 「そんな話マジで信じてるのかよアホらしい。俺が見てきてやるよ」  俺の兄はそう言ってゴリ

          ゴリマッチョ街道

          R-18にされた人生

           初めに言っておこう。僕はドラマの登場人物だ。なぜそれに気付いたか?下手な脚本の映画とかドラマを観ていると「登場人物が脚本に動かされている」感覚を覚えることがあると思うが、登場人物側も自分が脚本の都合で動かされていることを自覚することが稀にある。僕がそれだ。 僕が出ているドラマは全年齢対象のコメディ。僕は主人公一家の18歳の長男だ。ドラマのお上品な内容のせいで生涯童貞を捨てられそうにないのが目下の悩みである。登場人物は脚本家の想定していない行動は出来ないのだ。ただ、ドラマが

          R-18にされた人生

          ぜんぜんしらないひと 第1話

          【序 8月20日、とある町の遊園地】  斎藤はこの遊園地で働き始めて5年になる。そう大きくない地方都市の遊園地ではあるが、夏休みになると家族連れでごった返し、自ずと親とはぐれた迷子の子供も多くなる。何かと物騒な世の中だ。子供の安全のためにも、迷子センターで彼らを保護し、速やかに親元へ帰すのが斎藤の仕事である。  この日、迷子センターに一際大きな声で泣き続ける男の子がいた。 「僕、お母さんと一緒に来たの?」  斎藤が尋ねると、男の子はコクコクと頷いた。 「お名前、お兄

          ぜんぜんしらないひと 第1話

          脱糞列車

           ああ糞がしたい。  列車が突然の停電によってトンネル内で立ち往生してもう5時間が経過している。車両から外に出て様子を見に行った乗客はトンネル内に潜む何かに無残に食い散らかされてしまったため、列車内への立て籠りを余儀なくされてしまった。そんな中、最初は我慢していたものの、便意がいよいよ以って限界に達しようとしていた。なぜ列車内のトイレに行かずに我慢していたか?それは2両目以降の状況を見ればわかる。 乗り合わせていたカルト宗教の一団が混乱と恐怖に乗じて急速に信者を獲得、2両

          脱糞列車

          飲飲飲飲飲怪!

           脈打つような頭痛と胃のむかつきに呻きながら博之がヨロヨロと起き上がると、そこは川の河川敷であった。頭を押さえつつ左右を見渡すと、総一郎と綾子が同じように転がっていた。 「ああクソ、やっちまった…」  博之は襲い来る二日酔いの苦しみに毒づきつつ、昨晩のことを思い出そうとした。真一が彼女と破局したので、慰めようと総一郎と綾子と自分でいつもの居酒屋で飲んでいたことは覚えている。そこで全員ベロベロに出来上がってしまい、その勢いで二軒目、三軒目と梯子酒をしたという事実も覚えている

          飲飲飲飲飲怪!

          聖なる寿司殺し〜ザ・キリング・オブ・セイクリッド・スシ〜第3殺

          「なああんたら、寿司屋での最大のマナー違反は何か知ってるか?」 俺はフライパンと包丁を構えた。先代のスシ・ガーディアンである俺の師匠、ギンジより伝授された奥義、「本手の構え」だ。 「それは寿司を頼まねえことだ。更にはあんたらはこの店を荒らした。今からマナーを守らなかった奴の末路を教えてやる」 「笑止!」 俺は右端の男へ包丁を投擲!が、後ろへ身体を反りこれを回避!包丁が壁に突き刺さる!残りの三人から容赦の無い銃撃が加えられるがフライパンで全て弾き返す。跳弾が先ほど包丁を回

          聖なる寿司殺し〜ザ・キリング・オブ・セイクリッド・スシ〜第3殺

          聖なる寿司殺し〜ザ・キリング・オブ・セイクリッド・スシ〜第2殺

          「ここは寿司屋だ。お宅の国の路地裏じゃねえ。お引き取り願おうか。」 「問答無用!」 男は恐ろしく素早い身のこなしで俺の懐まで一気に間合いを詰めてきた。俺は咄嗟にカウンター内のまな板に手を伸ばす。男は右手の出刃包丁を逆手に持ち替え俺の心臓めがけて刺突したが、すんでの所で俺はまな板をかざして防御した。出刃包丁がまな板に深々と突き刺さる! 「なんてパワーしてやがる・・・」 額から一条の汗が流れ目に入ったが、意に介する間も無い。間髪入れず、男は左手の出刃包丁を俺の首に突き刺さん

          聖なる寿司殺し〜ザ・キリング・オブ・セイクリッド・スシ〜第2殺