脱糞列車
ああ糞がしたい。
列車が突然の停電によってトンネル内で立ち往生してもう5時間が経過している。車両から外に出て様子を見に行った乗客はトンネル内に潜む何かに無残に食い散らかされてしまったため、列車内への立て籠りを余儀なくされてしまった。そんな中、最初は我慢していたものの、便意がいよいよ以って限界に達しようとしていた。なぜ列車内のトイレに行かずに我慢していたか?それは2両目以降の状況を見ればわかる。
乗り合わせていたカルト宗教の一団が混乱と恐怖に乗じて急速に信者を獲得、2両目と3両目を占拠してしまった。彼らが外の怪物に対する生贄を求めたため、我々は1両目でバリケードを築き、立て籠もっているという訳だ。
だが生理現象は無慈悲に襲い掛かってくる。糞が腹の中で蠢くのを感じる。額に脂汗が滲む。トイレは4両目。カルト集団の占拠する2両目と3両目を通り抜ける必要がある。この場で脱糞する選択肢など私には無かった。衆議院議員が糞など漏らせるか。そうなるくらいなら私は死を選ぶ。つまり、突破するしかない。
「みなさん、こうしていても事態は解決しません。今こそ行動を起こすべきでは?」
私は他の乗客達に語り掛けた。いくら空手や柔道といった武道を極めた私でも、一人で彼らを相手取るのは難しい。政治家としての演説スキルを使って他の乗客を味方に付けるのが得策だが、どの乗客も私から目を逸らす。私は思わず舌打ちした。かくなる上は協力せざるを得ない状況を作ってやる。
「ハァッ!!」
私はバリケードに正拳突きを繰り出した。あり合わせの物で造ったバリケードなど障子紙に等しい。バリケードは粉砕され、2両目への通路が開かれた。信者が呆然とこちらを見ている。
私はニヤリと笑いながら乗客の方を振り返った。私の括約筋が活躍しなくなるまでもう時間が無い。交渉など悠長なことはしていられない。もはや暴力あるのみ。火事場のクソ力を見せてやろう。
【続く】