ゴリマッチョ街道
ゴリマッチョ街道、そう呼ばれる道がこの町にはある。その道を男が一人で通ると、近隣に建ち並ぶ建物という建物から筋骨隆々な男たちが満面の笑みで覗いてくると言うのだ。もし体格が一定基準よりも貧相であった場合、わらわらと建物より吐き出される男たちに拉致され、過酷な強制筋トレと人格破壊により、ゴリマッチョの仲間入りをさせられるのだと言う。いわゆる都市伝説であるが、俺はその存在を確信していた。
「そんな話マジで信じてるのかよアホらしい。俺が見てきてやるよ」
俺の兄はそう言ってゴリマッチョ街道に出かけ、帰って来ることは無かった。警察からの情報では、ゴリマッチョ街道付近で兄らしき男性が何度か目撃されているそうだが、痩せ型だったはずの体格がボディビルダーと見紛うばかりの変貌を遂げていたという。
俺は兄の奪還を誓った。三度の飯よりプロテイン、勉学よりも筋トレ。激しい復讐心が俺を突き動かした。そして2年の月日を経て、俺は理想的な筋肉を手に入れたのだ。
そして今俺はゴリマッチョ街道の入り口にいる。通りには人っ子一人いない。俺は風に黒いコートをたなびかせながら、決断的に街道に足を踏み入れた。不意に、周辺の建物で大勢の人間が動く気配がした。
「キレてるよ!」
「肩にちっちゃいジープ乗っけてんのかい!」
「上腕筋がマスクメロンだよ!」
四方からゴリマッチョの鳴き声が響いた。周囲に目を遣ると、建物の隙間や上層階の窓から、ゴリマッチョたちがこちらの様子を伺っていた。
「細い、細マッチョだ」
「見せ筋が不十分」
「再教育が必要」
「ステロイド準備」
そんな声が聞こえたかと思うと、あらゆる建物から雪崩を打つようにゴリマッチョたちが転がり出てきた。その数100人は下らない。俺は再び兄を奪われた怒りを心に燃やした。
「キレてるよ、だと?ああ、キレてるよ!お前らにな!」
俺はコートの中に忍ばせた拳銃を両手に構え、無慈悲に弾丸を放った。
【続く】