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ぜんぜんしらないひと 第1話

【序 8月20日、とある町の遊園地】

 斎藤はこの遊園地で働き始めて5年になる。そう大きくない地方都市の遊園地ではあるが、夏休みになると家族連れでごった返し、自ずと親とはぐれた迷子の子供も多くなる。何かと物騒な世の中だ。子供の安全のためにも、迷子センターで彼らを保護し、速やかに親元へ帰すのが斎藤の仕事である。

 この日、迷子センターに一際大きな声で泣き続ける男の子がいた。

「僕、お母さんと一緒に来たの?」

 斎藤が尋ねると、男の子はコクコクと頷いた。

「お名前、お兄さんに教えてもらえるかな?」
「…カズマ」
「上の名前は?」
「…ウチダ」
「ウチダカズマ君か、ありがとうね」

 男の子は言葉に詰まりながら名前を伝えた。斎藤は速やかに場内アナウンスで母親を迷子センターに呼んだ。

「もう大丈夫だよ。すぐお母さんが迎えに来るからね」

 しばらくすると、一人の女性が迷子センターに入ってきた。

「すみません、ウチダと申しますが、カズマがこちらですか?」
「ええ。カズマ君、お母さんだよ」

 斎藤が呼ぶと、男の子は安心した様子で女性の元に駆け寄った。二人は礼を言い、迷子センターを後にした。

 その数分後、先程の女性が慌てた様子で駆け込んできた。

「カズマは、カズマはここですか!?」
「何かありましたか?またはぐれたとか…」

 斎藤は怪訝な顔で尋ねた。

「また?私は今初めてここに来たんですよ!カズマをどこへやったんですか!?」

 女性は取り乱して斎藤に詰め寄った。斎藤は慌てて迷子センターを飛び出し、男の子の行方を探した。そして目に飛び込んできた光景に絶句した。

彼方で身長にして2m以上、手足が枯れ枝のように細長い全身赤い服の女が泣き叫ぶ男の子の手を引いていた。男の子の叫んでいる言葉は微かに斎藤の耳に届いた。

「このひと、ぜんぜんしらないひと!」

___この町では、今年に入って20人以上の子供が消息を絶っている。男の子の行方も依然知れない。

【続く】 

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