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東南アジアへの進出: 適切な国の選択と現地での補助金 (Part 1)

by 钱 俞颖, 2024.09.05

なぜ東南アジアなのか:

東南アジア市場には、日本企業や中国企業にとって、地理的な近さに加えて、以下のようなアピールポイントが挙げられる。

ASEANの優位性

1. 費用対効果の高い労働力:

  • 人口が多くかつ急速に増加している。東南アジアの主要 6 か国 (タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピン、シンガポール) の人口は合わせて約 6 億 7,000 万人で、世界で最も急速な成長率を誇る地域の 1 つである。

  • 若い人口: シンガポールとタイを除くすべての国で、人口の50%以上が35歳未満である。

  • 高い教育レベル: 特にマレーシア、シンガポール、インドネシアなどの国では、多くの人が中国語と英語を話すバイリンガル・トリリンガルである。これは、企業が地元市場に統合し、ハイエンド市場に参入する上で、大きな助けとなるだろう。

これらは、この地域でビジネスを拡大したい企業にとって「低人件費」で質の高い労働力を獲得できることを意味する。たとえば、タイの税引き前最低賃金は約 28,000円で、40,000円を超える中国の主要な地方地域に比べて大幅に低くなっている。ベトナムの平均月給は約50,000円だが、カンボジアではさらに安い20,000~40,000円である。

2. 有利な投資インセンティブ:

  • 低い法人税率: シンガポールの法人税率は17%、タイとベトナムの法人税率は20%である。特定の経済開発区では、さらなる減税が受けられる。たとえば、ベトナムでは、経済特区に投資する企業には15年間10%の法人税率が適用される。

  • その他の減税には、地代の免除、個人所得税の減税、RCEP自由貿易協定に基づく関税引き下げなどが挙げられる。

3. ビジネスにおけるグローバルハブ:

東南アジアは陸、海、空の交通網が発達しており、シンガポールの港は世界で最も忙しい港の 1 つであり、世界貿易の約 25% を扱っている。東南アジアの重要性は、地元市場だけでなく、ヨーロッパやアメリカの市場とつながる能力にもあると言える。

東南アジア主要各国のステータス:

外国企業が東南アジアに進出している産業業種は、製造業、サービス業、越境電子商取引、新エネルギーなど多岐にわたる。また、近年人気を博しているゲーム産業も、東南アジアへの進出に積極的である。この記事ではまずマレーシアとインドネシアについて説明し、タイ、シンガポール、カンボジアについては以降の記事で順次触れいてこうと思う。

ASEAN諸国の主な投資分野

インドネシア:

インドネシアの資源分布
参考文献: “IEA An Energy Sector Roadmap to Net Zero Emissions in Indonesia”

インドネシアの概要:
インドネシアは東南アジア最大の国であり、経済規模も大きく、2008年以降GDP成長率は5%を超えている。同国の経済発展は輸出よりも国内需要によって牽引されており、製造業とサービス業が主要産業となっている。また、インドネシアは平均年齢が29歳と若年人口が多く、豊富な労働力と広大な消費者基盤を有していることで注目されている市場である。資源を見てみると、インドネシアは、パーム油、石炭、天然ガス、その他の主要商品の主要生産国であり、さらに、鉱物資源も豊富で、ニッケルでは世界最大、コバルトにおいても世界第2位の生産国である。

進出機会:

1. 新エネルギーバッテリー:
インドネシアは、EV用バッテリー、特に需要の高い三元系リチウム電池にとって重要な原材料であるニッケルの確認埋蔵量の25%を保有している。原材料が安定して手頃な価格で入手できる為、バッテリー産業はインドネシアに惹かれている。そんな中、2020年以降、インドネシア政府は未加工のニッケル鉱石の輸出を禁止しており、企業は現地で加工・バッテリー製造施設を設立せざるを得なくなった。CATLやそのサプライヤーであるLongpan Technology(龙蟠科技)などの企業は、インドネシアでのニッケル採掘やバッテリープロジェクトに投資しており、BYDWuling(五菱汽車)もジャワ島に工場を設立している。さらに、2024年7月3日には、韓国のヒュンダイモーターグループ、大手バッテリーメーカーのLGエナジーソリューションズと国営インドネシアバッテリーコーポレーション(IBC)の合弁会社であるHLIグリーンパワーは、EV用バッテリーセル工場の操業開始を発表した。

加えて、インドネシア諸島全体の電力網は断片化され不安定なため、停電が頻繁に発生している。現在は石炭と天然ガスが主な発電源であるが、同国は2060年までにカーボンニュートラルを目指しており、太陽光エネルギーの蓄電および充電ソリューションの需要が高まる可能性が見込まれ、バッテリーの市場が成長する下地もある。

政策支援:

  • 先駆的産業免税(Pioneer Industry Tax Exemption): 自動車部品製造はインドネシアの先駆的産業とみなされており、新規プロジェクトは、投資額に応じて5~10年間、法人税の50%~100%減税を受けることができる。

  • マスターリスト(Master list facilities): 特定の工業またはサービス部門の企業は、機械、商品、材料に対する輸入税の免除を受けることができる。

  • 特別経済区(SEZ)または新首都(IKN)への投資では、法人税、付加価値税、輸入税など、さまざまな減税を申請できる。

2. デジタル産業:
インドネシアのデジタル経済は急速に成長しており、その規模は2022年には22%増加して770億ドルに達し、2025年までに倍増して1,300億ドルになると予想されている。同国は現在、ASEANのデジタル経済の約40%を占めており、若い人口が多いため、ソーシャルメディア、eコマース、デジタル決済、ゲーム、ライブストリーミング、クラウドコンピューティングなどの分野は、すべてインドネシア市場をターゲットにすることができるだろう。たとえば、YouTubeの月間トラフィックによる視聴者数では、インドネシアは1億3,900万人のユーザーを誇りインド、米国、ブラジルに次いで4位にランクされている。また、推定価値が820億ドルであるインドネシアのeコマース市場は東南アジア最大であり、周辺地域の他の国を大幅に上回っている。その中で、シンガポールの会社Shopeeが、ユーザー数で地元のプラットフォームTokopediaを上回っていることは注目すべきであろう。

政策支援:

  • 先駆的産業免税(Pioneer Industry Tax Exemption): データ処理やホスティングを含むデジタル経済活動は、インドネシアの先駆的産業の一部と見なされている。新規プロジェクトは、投資額に応じて5〜10年間、50%〜100%の法人税減税を受けることができる。

  • マスターリスト(Master list facilities): 前述の通り。

  • 特別経済区(SEZ)または新首都(IKN)への投資では、法人税、付加価値税、輸入税など、さまざまな減税を申請できる。

3. 食品加工業:
中産階級が拡大し、若者の割合が増加するにつれて、より多くのインドネシア人が便利で健康的な食品の選択肢を求めるようになると思われる。これにより、機能性食品、調理済み食品、健康食品の需要が高まると予想される。インドネシアは世界最大のイスラム教徒が多数を占める国ではあるが、食文化には、柔軟性があり、新しい文化に対してオープンであるため、さまざまな国際料理を紹介する機会が生まれる可能性があるといえよう。

*インドネシアの先駆的産業には、上流金属産業、原油と天然ガスの統合精製、原油/天然ガス/石炭から得られる基礎有機化学物質、農業、プランテーション、または林業から得られる基礎有機化学物質、基礎無機化学産業、医薬品原料産業、放射線、電子、および電気治療機器製造、半導体ウェーハ、LCDバックライト、電子ドライバーまたはディスプレイなどの電子および通信機器製造の主要部品、機械および機械製造の主要部品、機械製造産業を支えるロボット部品、発電機械製造の主要部品、自動車および自動車主要部品製造、船舶主要部品製造、航空機主要部品製造、鉄道主要部品製造、農業、プランテーション、または林業製品から得られるパルプ産業、経済インフラ、データ処理、ホスティング、および関連活動をカバーするデジタル経済が含まれる。

マレーシア:

マレーシアの概要:

マレーシアは、ASEANで3番目に大きな経済を持ち、その経済成長は主にサービス部門によって牽引されていると言える。The World Bankの公式データによると、GDPは2023年に3,996.5億ドルと評価され、人口は若く、平均年齢は30.7歳である。主な産業は、製造業(電気機器)、農林業(天然ゴム、パーム油、木材)、鉱業(錫、原油、LNG)となっている。

進出機会:

1. バイオテクノロジー
マレーシアは ASEAN 諸国の中心に位置し、農業と医薬品の需要が大きく、熱帯の国であるため、熱帯植物​​、薬用植物、海洋生物が豊富にある。これらの天然資源は、新薬開発、天然抽出物、生物農薬など、バイオテクノロジー企業に広範な研究開発の機会を提供する。

政策支援:

  • バイオネクサスステータス免税 (BioNexus Status Tax Exemption): バイオネクサス(BioNexus)ステータスを付与された企業は、10 年間の100%所得税免除を受けるか、投資税控除を選択できる。また、輸入関税と物品税の免除の恩恵も受けられるため、研究開発費や設備輸入コストの削減につながる。

  • パイオニアステータス免税: パイオニアステータスを取得したバイオテクノロジー企業およびパームバイオマスから付加価値製品を生産する企業は、5年間にわたり100%の所得税免除を受けることができる。

  • 投資税額控除(ITA): 企業がパイオニア資格を満たしていない場合でも、ITA の資格がある場合がある。資格を満たす企業は、5~10年間、適格資本支出(建物、工場、機械など)の60~100% 控除を受けることができる。これらの控除は、法定所得の最大100%を控除できる。

2. 新エネルギー
2023年8月、アンワル政権はマレーシア国家エネルギー転換ロードマップ(NETR)を立ち上げ、2050年までに再生可能エネルギーの容量を70%、EVの市場シェアを80%に増やすことを目標としている。マレーシアは新エネルギーを積極的に推進しており、LONGi、Jinko、Risenなどの中国の太陽光発電メーカーはすでにマレーシアに拠点を置いている。2023年には、オランダとノルウェーの企業SolarDuckが、マレーシア最大の公益企業であるTenaga Nasional Berhad(TNB)の子会社と、ティオマン島沖に780kWの浮体式洋上太陽光発電所を開発するための意向書を締結した。同じ時期に、脱炭素化の分野では、フランスのTotalEnergiesと日本の三井物産が、国営企業であるペトロナスとの炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトでの提携を発表している。

政策支援:

  • グリーン投資税額控除(GITA): 再生可能エネルギー、エネルギー効率、グリーンビルディング、グリーンデータセンター、統合廃棄物管理に関連する投資は、投資額の100%の税額控除の対象となり、5 年間にわたり法定所得の70%から100%を控除するために使用できる。

  • グリーン所得税免除 (GITE): 太陽光発電リース活動では、設置容量に応じて5年間または10年間、所得税の70%減税を受けることができる。

  • 炭素プロジェクト税控除(Carbon Project Tax Deduction): 炭素プロジェクトの開発、測定、報告、検証から発生する費用は、炭素クレジット取引所での炭素クレジットの取引から得られる収入を控除するために、最大300,000MYR(約1034万円程度)の追加税額控除の対象となる。

  • ESG関連の税額控除: 2024年から2027年の課税年度まで、中小零細企業は、環境、社会、ガバナンスの取り組みに関連する費用について、毎年最大50,000MYR(約1,723,103円)の税額控除を受けることができる。

3. 製造業およびハイテク産業
“東洋のシリコンバレー”
として知られるマレーシアのペナンは、確立された産業チェーンを発展させてきており、その結果もあり、2023年、地元のチップ設計会社であるOppstarがマレーシア証券取引所に上場した。現在、同社は世界第6位の半導体輸出国であり、かつ米国にとって最大の半導体サプライヤーであり、台湾、韓国、日本を上回り、年間総価値の20%以上を占めている。また、2021年、インテルはマレーシアのチップ産業に70億ドル以上を投資すると発表した。この投資には、ペナンでの先進的なパッケージング施設の建設が含まれており、これはインテルの3Dパッケージング技術の最大の施設となる。

政策支援:

  • 加速資本控除(ACA): インダストリー4.0の要素を含む自動化設備に投資する製造、サービス、農業企業は、適格資本支出の最初の1,000万MYR(約344,620,000円)に対して100%の加速資本控除を受けることができる。この控除は 1 年以内に全額相殺できる。企業は、同等の資本支出に対して100%の所得税控除も受けることができる。

  • パイオニアステータス免税: 前述の通り。

  • 投資税額控除(ITA) : 前述の通り。

4. 越境eコマース:
若年人口の増加と中産階級の拡大が貿易の需要を牽引している。2023年には、電子商取引市場は15%成長し、98億ドル(446億リンギット)に達した。2024年には110億ドル(503億リンギット)に達すると予測されている。他の東南アジア諸国と同様に、Shopeeは主要な越境電子商取引プラットフォームの1つであり、同社はマレーシアの消費者への日本製品の販売を促進するために、日本での越境貿易サービスを積極的にプロモーションしている。同社によると、日本からの売上が高い主要な製品カテゴリには、美容とヘルスケア用品、家庭と生活用品、趣味関連用品、食品と飲料品などが含まれる。
政策支援:

  • マレーシア自由貿易地域(Malaysia Free Trade Zones): 特定の輸入品は、マレーシアの自由貿易地域内で免税または減税の対象となる。

Appendix. 中国企業にとっての文化的親和性:

東南アジアの顧客・消費者は、西洋の市場と比較して、中国企業をより受け入れていると言えるだろう。文化的な類似性により、中国企業は地元の商業文化に溶け込みやすい。ISEAS-ユソフ・イシャク研究所(ISEAS-Yusof Ishak Institute’s)の2024年東南アジア年次調査によると、回答者の50.5%が、どちらかを選ばなければならない場合、アメリカよりも中国を好むと回答している。これは、2020年以来初めて、中国の人気がアメリカを上回ったことになる。

近年、地域的な優位性と地政学的圧力から、東南アジアは産業サプライチェーンの移転先として最も有力な選択肢となっている。しかし、これはASEAN企業にとって問題も引き起こしている。例えば、人民元安が輸出を支えているため、ASEANの中国からの輸入が大幅に増加し、地元の工場が閉鎖に追い込まれた。タイでは昨年、1,300以上の工場が閉鎖され、前年比60%増となった。現在、ワシントンと北京の緊張の高まりからASEANは恩恵を受けているが、状況がさらに悪化すれば、西側諸国による同地域のサプライチェーンへの監視が強化される懸念もある。近い将来、ASEANが外国投資を誘致するために的を絞った税を課す可能性は低いが、海外展開の次の段階でこの状況が変わる可能性がある。ASEANを欧州や北米への中継拠点として利用することを考えている企業にとって、時間は限られており、早急に明確な戦略を立てることが重要だ。

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参考文献:

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