ぼくが博報堂を辞めた訳。むかしむかし、女川で思ったこと。

東北での調査業務

ぼくはかつて大手広告代理店の博報堂という企業に勤めていました。そこでのぼくの仕事は商品をたくさん売るための仕組みや広告を考えることでした。その仕事は基本的に楽しいものでした。そう、平時なら。そもそも有事を前提にしたビジネスなんて、兵器製造くらいしかないか。（笑）

そんなある日、僕は東北地方の電力会社の仕事をしました。原子力発電所がある地域につくられる場合、電源交付金という名のお金が自治体に落ちます。要は原発という可能性と同時に夥しい危険を孕んだ存在を受け入れてくれた自治体への報酬が電源交付金です。この電源交付金をどのような形で使うべきなのか、それを現地で調査するというのがぼくの仕事でした。

女川でぼくが見たもの

仙台まで新幹線、そこから東北本線で石巻、更に在来線（石巻線）で女川に向かいました。今では広く知られるようになった地名「女川」は小さな漁港でした。石巻線の線路は女川で止まっています。行き止まりの駅でした。線路が終わって、そこから先は女川港です。ぼくは最果ての駅というところに初めて降り立ちました。そこは少し寂しい街でした。

ぼくの記憶にある女川は人気も少なく、元気があるようには見えませんでした。ごく少数歩いている人たちも高齢の方ばかりです。そして仕事にとりかかります。電源交付金をどのように使って欲しいか、を調べるのです。インタビューの対象はほぼお爺さん、お婆さんでした。カルチャーセンターが欲しい、ゲートボール場が欲しい、カラオケボックスが欲しい。皆さんの要望は明快でした。ぼくはその要望に沿ってレポートを書きました。