深江文化村の古澤家住宅が解体されると聞いて見に行ったり調べたりした話
2023年10月14日土曜日、ある人より電話があり「深江文化村の古澤家住宅が近々解体されることになった」という話を聞きました。……「深江文化村」という言葉は聞いたことがあります。しかし「古澤家住宅」とは何ぞ?
聞くとどうやら大正の終わり頃に建てられた洋館で、国の文化財に登録されているとのことです。
知らんかった……せっかくなのでちょっと見に行ってみましょう。
というわけで翌15日、私は古澤家住宅の前に立っていました。そして帰宅して深江文化村や古澤家住宅について調べました。
「深江文化村」とは
古澤家住宅は兵庫県神戸市東灘区深江南町1丁目に建っています。深江南町という町名は1972年(昭和47年)6月1日からのもので、建てられた当時は「武庫郡本庄村」の恐らく「深江字神楽田」と呼ばれる地域でした。
恐らくと言いますのは、武庫郡本庄村の中に「深江字下永井」「深江字南永井」「深江字南永井」「深江字永井濱」の4つの地域があったためです。当時の地図によりますと、深江字神楽田が該当すると思います。
深江という町は海が近く、昭和の初め頃までは漁業が盛んでした。栄えているとはいえ都会ではなく下町という雰囲気なのですが、何故に洋館が建ったのでしょう?
明治後期から昭和初期まで、阪神間は富裕層の別荘地だったそうです。
大正の終わりから昭和の初めにかけて約3千坪の敷地の中央に庭園が造られ、それを囲むように13戸の洋館が建てられました。その多くは賃貸住宅で、約半数は外国人が借りられていたようです。
当時このあたりには欧米の音楽家が多く居住されていたそうで、1917年(大正6年)のロシア革命により亡命したエマヌエル・レオニエヴィチ・メッテルという指揮者もこの13戸のうちの1戸に移り住みました。
音楽を志す日本人もこの地域に集まるようになり、いつしか「深江文化村」と呼ばれるようになりました。
その「いつしか」が具体的にいつなのかはよく分かりません。地元の人たちは昭和の終わり頃まで「文化村」と呼ぶことはなかったようです。近年の研究により付けられた名称なのかも知れません。
古澤家住宅のすぐ東にあります神楽町公園に深江文化村を紹介する看板が設置されていました。
東灘歴史掘り起こし隊・東灘区役所・深江南町1丁目自治会により設置された看板のようです。
深江文化村は建築家のウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏の弟子である吉村清太郎氏によってデザインされたとのことです。
航空写真も紹介されていました。1961年(昭和36年)に撮影された写真のようです。右上に見えます尖った屋根の家が古澤家住宅です。
13戸のうちの2戸が残る
昭和10年代に入ると外国人が次々と引っ越して行かれました。そうして寂れた様子は当時の新聞記事にもなったそうです。
1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災や宅地開発もあり、2023年の今は13戸のうちの2戸が残るのみとなりました。その1戸が古澤家住宅です。
かつて深江文化村があったあたりを歩きますと細い道の両端に一軒家やマンションが並ぶ静かな住宅地という雰囲気で、何も知らなければ深江文化村があったと気が付くこともなく通り過ぎてしまっていたと思います。
「古澤家住宅」とは
古澤家住宅は1925年(大正14年)に建てられました。ロシア人建築家のラディンスキー(L.N.Ladyjensky)氏の設計とのことですが、氏の詳細は調べましても分かりませんでした。
尖った屋根が特徴的なこの建物は1998年(平成10年)12月11日に国の登録有形文化財になり、また2011年(平成23年)には神戸市の景観上重要な建造物等(当時は景観形成重要建築物等という名称)にも指定されています。
屋根が幾重にも重なり、面白い造りです。
壁の色も可愛らしいですね。
母屋のそばに小屋が建っていまして、こちらも「古澤家住宅附属屋」として国の登録有形文化財及び神戸市の景観上重要な建造物等となっています。
古澤家住宅は建築当初から古澤氏が住まれていたようです。しかし残念ながらお住まいの方が2022年に亡くなられ、無人となってしまいました。
建物の維持に多額の費用がかかることから、2023年に解体が決まりました。
写真を見てお気付きの方もいらっしゃると思いますが、私が訪れた日は解体作業が始まっていまして、
窓が外されてしまっていました。
外へ飛び出したカーテンが時折風に揺れ、寂しさを感じます。
階段の柱や暖炉の一部は地元の史料館……恐らく神戸深江生活文化史料館で展示されるということです。
参考文献等
神戸深江生活文化史料館 生活文化史
本山北町まちづくり協議会 まちづくりBlog
神戸市公式サイト
NHKニュース
Wikipedia
(順不同)
2024年1月18日追記
阪神電鉄深江駅の近くにあります神戸深江生活文化史料館で古澤家住宅の展示が開始されていました。訪れましたのは2023年11月25日です。
インターネットには情報がまるでありませんでしたラディンスキーさんの写真まで!
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