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ジュール・ルナール「にんじん」

ヴァロットンの展示会をきっかけに手に取った本。

この作品では、家族の中で1番年少の男の子は「にんじん」と呼ばれている。当然のことのように。読者は初め面を食らう。そして少しのおかしさを噛み締めるのだが、それがあまりにも当然のように行われているので、いつしか違和感がなくなっていく。

それでも、家族が順に名前を呼ばれた後に、彼だけが「にんじん」と呼ばれていると、それまで隠れていたおかしさが唐突に顔を出す。

そういえば、この子の本名を私たちは、知らない、じゃないか、と。

「仕事の分担」は、家政婦のアガトがこの家にきたときに彼女ににんじんが声をかけるシーンだ。この家でのルールを滔々と語るにんじん。その問わず語りからは、彼のこの家族に対する愛と、そして執着、少しの優しさを感じる。自分にも自我があるのだと、普段押さえつけている感情が溢れてきているようにも見える。

ただ彼は冷静だ。実の母に、猛烈な嫌がらせを受けているというのに、人並みの倫理観と優しさを持ち合わせている。そこに驚く。

読み終わって、BOOKOFFで査定してもらうと、結果は5円だった。
それだけ。

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